パロ
ずっといっしょ 番外編 プロポーズ(柔勝)
一緒に生活を始めて1年と2ヶ月ほど経った。
色々とごたごたはあったけれど、今は平穏に幸せな日々を過ごしている。
今日も変わらず、一緒に朝食を取り、なんら変わらず幸せな時間を過ごす。
朝のニューズ番組を見ながら、パンとハムエッグとサラダと牛乳とで定番の朝食。
テレビから聞こえるアナウンサーの声に耳を傾けていると、聞こえてきたのは、
『今日はプロポーズの日だそうです!』
と言うアナウンサーの生き生きとした声。
街角で道行く夫婦にマイクを向けては、
『良かったらプロポ−ズのセリフを教えてください!』
なんて、恥ずかしい質問をしている。
(プロポーズかぁ・・・)
そんな番組の画面を、もぐもぐとパンを咀嚼しながらぼんやりと見詰め、考える。
(俺がもし女やったらやっぱり柔造と結婚するんやろなぁ。)
チラリと横目で伺い見た柔造は、いつもと同じく男前で、いつもと同じく様になるコーヒーの飲み方をして、いつもと同じく朝食を取っている。
結婚なんて男女でしか出来ないもの。
そう思っている俺は、なんとなく冗談交じりでこう言ってみた。
「なぁ、柔造」
「はい、なんですか?」
「結婚しよか」
相も変わらずテレビの画面を見ながらそう、ポツリと告げて、「なんてな」と、冗談にもならない程くだらないことを言ったと思い、笑って返してやろうと視線を柔造に向ければ、目をまん丸に見開いて、俺をじっと見詰めていた。
手にはパンを持ったまま、固まっている。
「なんて、じょ・・・「式は何時にしましょ!!!!」」
「は?」
「やっぱ、坊やったら洋式より和式の方がええですやろか?」
「え?」
「せやったら白無垢・・・・いや、それもええけど、二人で紋付袴でもえですよね!」
「あ・・・」
「せや、確か会社の女の子が『ゼ○シィ』言う結婚情報誌持っとった気がします!!!あんなん見たらなんかええ結婚式出来るんちゃいますやろか?!」
「いや、え???」
「その前に籍は入れとかなあきませんよね!!」
「籍って・・・え??」
「俺が勝呂家に養子入りしたら、坊は勝呂の名前捨てんで居れますし、ほんなら・・・ちょぉそれは女将さんや和尚に頼なあきませんね!!」
「あ、いや、ちょ・・・」
柔造が目をキラキラとさせて、俺の手をガシッと掴んだ。
「せやけど、まさか坊からそないな事言うてくれはるやなんて・・・!!!!俺は・・・なんて幸せもんなんやろか!!!」
「あ・・え・・・お・・・ん・・・・」
にっこりと微笑み、若干瞳を潤ませて、柔造がじっと俺を見詰めている。
(ど・・・どうしよう・・・どうしよう!こんなん、今更冗談やったなんて言われへん!!!そんな雰囲気やないやないかっ!)
「坊・・・」
そう、俺を呼び、そっと柔造が手の平で俺の頬をなぞった。
大体男と男で結婚なんて出来るわけないやろ!なんて突っ込み今更出来る感じではない。
それに、さっきの柔造の話からすれば養子入りして、籍を一緒にするんか?!
そんな手段があるんか?!
そんな風にしたら男同士は結婚したみたいになれるんか?!
結婚出来る言うんやったら、してもええとは思うけど。
せやけど・・・。
「あ・・・でも・・・な・・・」
「はい?」
「俺、まだ16やさかい・・・・自分から言うとってなんやけど、もうちょっと待って欲しいんや」
「あ・・・・そう・・・ですね」
そう告げれば、柔造はまた目を大きく開いて、それから表情を崩し、少し寂しそうに微笑んだ。
養子入りとかやったら、別に年齢なんて関係あれへんのやろうけど、やっぱり男の結婚は18歳やろ。
って言うか、、ホンマに結婚する気なんか?!
え???
こんなんでええんか?!
そりゃ確かに俺は柔造が大好きで、柔造も俺の事が好きなんやろうけど。
ほんの冗談で言ってしまったことが、柔造の中で結構な大事になってしまってる気がする。
結婚・・・と言うか、別に柔造とこの先一緒に生活を共にすることは、俺だって別に嫌ではないし、寧ろ共にずっと過ごしたいけれど。
「わかりました。坊が高校卒業するまでは、婚約と言うことですね?」
「婚約・・・。あ、おん・・せや・・な」
「坊、愛してます・・・」
そう言って、またスッと頬をなぞられ、顎を持ち上げられれば、ちゅっと優しく触れるだけのキスをされた。
自分がさらっと言ったことがこんなにも柔造の心を動かしてしまうだなんて、思いもしなかった。
*****
夜、柔造は何時もより少し遅めに帰宅した。
玄関先に出迎えに行けば、とてもニコニコとした笑顔で、何時ものようにキスをする。
「坊、ちょぉ目ぇ瞑っててくれますか?」
「え?おん。分かった」
目をぎゅっと閉じて、少しの間を開けて、左手を優しく掬われた。
それから手の全体を優しく撫でられて、1本の指だけ更に優しく撫でられる。
それから不意に感じた冷たい感触。
それを指の付け根まで押し進められて、また優しく手を握られる。
「目ぇ開けてください」
「おん」
目をそっと開けて、今した感触が何かを知るために、左手を見れば、薬指にピタリとはまったシルバーリング。
「これ・・・・」
「エンゲージリングです」
「エンゲージ・・・」
「結婚やなんて嬉しいこと言ってくれはるから、思わず買いに行ってしまいました」
いつ指のサイズを測ったのか?と言うくらいに、指にピタリとフィットしたリング。
「急に思い立ったんで、そないにええもん買えませんでしたけど」
なんて言うけれど、なんだかとても高そうに見える。
「坊はまだ高校生なんで、指輪つけてなんて学校行くのは抵抗あるでしょうし、チェーンも買うときました」
「チェーン?」
「指輪抜きますね」
今嵌めたばかりの指輪をゆっくりと抜き取り、器用にチェーンに通す。
「失礼します」
そう言って、俺の後ろに回れば、首にするりとチェ−ンを這わせ、後ろでぷちりと留めた。
首元にコツリと当たったリングを手に取り眺める。
内側にはライオンが月を眺めている絵が彫られていた。
「うわ!・・・なんや、凄いな、これ」
「俺とお揃いなんですけどね、何処でも同じ月を見てる。つまりは例え遠く離れていても心は常に一緒に居てると言う意味なんだそうです」
「へぇ・・・」
まじまじと指輪を見詰め、その彫られた絵を感嘆の息を漏らしながら眺めた。
柔造はそんな俺をふわりと優しく見詰めながら、微笑を絶えず零している。
目が合えば、こちらが赤面するほどにそれはそれは極上の笑みを浮かべられた。
(そんなに、嬉しそうにするやなんて!)
余りにも柔造の表情から、否、身体全身から嬉しくて嬉しくて仕方ないようなオーラを発せられては、まさか冗談だったなどとは言えるわけもなく、そんな事出来るわけなんてない、なんてもちろん言えるわけもなく、俺も満面の笑みで返すしかなかった。
俺はぎゅっと指輪を握り締めて、
「おおきに。大切にするな」
そう笑みを作って言えば、柔造に思いっきり抱き締められた。
結婚。
ずぅっと、ずぅっと、大好きな人と一緒に生活を共にして、人生をすごしていくのなら、きっと死ぬ間際まで幸せなままで居られるような気がする。
しかし、柔造と結婚するやなんて言うたら、おとんもおかんもひっくり返るやろな。
なんて、包まれた温かい腕の中で、そんな事を考えて、苦笑したのだった。
********************
ネットで見つけたシルバーリングが可愛かったのです。
エンゲージとか、友人間で持つリングらしい。
裏面にライオンが月を見てる柄と、ウサギやリスが月を見てる柄があったのです。
女の子ならリスとかあげても可愛いよね。
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