パロ
ずっといっしょ 36
≪柔造side≫
人通りが少ない裏手の路地。
誰もいないのを見計らうと、奥村はこちらを振り向き、視線を合わせた。
「初めまして。竜士と同じクラスの奥村雪男です」
そう言うと、表情を崩すことなくじっと俺を見やり、すっと左手を出してきた。
坊の事を名前呼びした上に、左手を出すって言うことは明らかな宣戦布告やないか。
まぁ、こちらに負ける要素などないので、礼儀としてこちらも左手を出して握手を交わし、
「坊の家の志摩柔造や」
そう名を告げた。
「時間もありませんので用件だけお伝えしますが、竜士は今日も自宅に帰る気はないそうです」
そう、奥村が俺に言う。
「今日・・・も?帰る気がないってどういうことや?お前らが引き止めてるんやろうが」
も?どういう事や?
「いえ、そんな無粋な事はしていません。昨日も帰りたくないと電話があったので、迎えに行っただけですから」
「・・・・帰りたくない?」
「かなり気落ちしていたので、何かあっては大変だと思って、家に招いただけです」
「どう言う事や?」
「どういう事か分からないなら、自分の胸に手を当てて考えれば良いと思います」
そう言って、奥村は自分の胸に手を当てると俺を睨みつけた。
どういう意味や?
「用件はお伝えしたので、失礼します」
「待てやっ!」
奥村は一礼して俺の横を通り過ぎようとしたので、肩をぐっと掴んだ。
すると、その手をバシッと払い、こちらをまた睨み口を開く。
「デリカシーが無さ過ぎると思います」
「は?」
「仮にも自分の恋人を迎えに来たのに、あんな門の前で堂々と女の子達と仲良く会話するなんて」
「アレは、あの子らが勝手にやな・・・・!」
「そんな状態を見たらどう思いますかね?」
「っ・・・!」
「まぁ、上の階から見てましたけど」
「なっ!!!」
「良い気分じゃないですよね?余計に不安になる。それに行動が浅はかだ」
「なんやと?」
「浅はかな行動ばかりするから、竜士が泣く羽目になるんです。可哀想に傷付いて、心を痛めてるのに、当の傷付けた本人は何も分からず、身勝手な行動ばかり」
「何時俺が坊を傷付けた言うんや!」
「それが分からないから、浅はかでデリカシーが無いって言ってるんです」
「わけ分からんことばっかり言うてんと、はっきり言うたらどうや!」
「野蛮で獣で、大人気なくて、欲に正直で身勝手でデリカシーのない馬鹿な大人だって事です」
「はぁっ?!」
「とにかく、竜士は今貴方に会いたくないと言ってます。ですから当分は僕の家に泊まってもらいます。僕は彼を泣かせたくは無いですから」
「俺に会いたない言うてるって言うんか?!」
「東京に来たのが間違いだったとも。そこまで言わせる貴方に竜士に会う資格はないと思います。出任せではないですから。昨日だって、僕に連絡をくれるまでの間、ずっと一人でファーストフードで悩んでいたようですし」
「?!?!」
「自分のだらしない行動を良く考えてみれば良いと思います。失礼します」
奥村が俺の横をスッと横切って行った。
俺はそれを止めることなく、奥村の言っている言葉の意味を考えた。
帰りたくない?
どう言う事や?
東京に来たのが間違いやった?
なんでや?
泣いていた?傷付いた?悩んでいた?
何がどうして?!
よく考えろ。
昨日の朝の坊の様子はどうだった?
いつもと変わらず柔らかい笑みを浮かべ、いつもと同じようにキスをして学校に行ったはずだ。
いつもの様に可愛らしかったし、いつもの様に幸せな時間だったはず!
夜だって、いつもと特に変わったことなどしてはいないはずだ。
それとも・・・・、ここ数日3日置きに体を慣れさせる為にしていた行為が苦痛だったのだろうか?
嫌で嫌で仕方なくて、俺に気を使って言えずにいたとでも言うのか?
余りのストレスに家に帰りたくなくなったのか?!
それならそれで、暫くは手を出す事を止めれば良いだけの話ではないか!
そんな苦痛に思うほどの事ならば、ずっと・・・・いや、ずっとは厳しいけれど、それでも、嫌だと言うのであれば我慢をすれば良いだけの話。
そんな思い悩むほどの事であるならば強要などしたくはない。
とにかく坊に一度会わなければ!
そして話をしなければ、何も解決は出来ないだろう。
しかし、このまま正門で待ち続けるには少々難がある。
かと言って、奥村の家を知っている訳ではないので、乗り込むことが出来ない。
さてどうしたものか・・・・。
そう考えながら取り敢えず、路地から表通りへと歩いて行けば、学校側から歩いてくる少年とぶつかった。
「あ!スマン!」
「あ!こっちこそ!」
一言謝り、お互い顔を上げてみれば、何処かで見たことある顔。
「・・・・奥村・・・」
「え?」
「奥村・・・兄やな?」
「はい?え?そうですけど・・・・」
「グッドタイミングや」
「は?」
「ちょぉ、顔貸してもらおか」
「えええええ!!!!!」
コイツは坊曰く「オモロイ奴で、めっちゃアホ」。
って事は、あのクソ腹立つメガネと違って、上手い事話が出来そうや。
「ああ、悪い。俺は竜士の家のもんや」
「え?あ!勝呂ん家の兄ちゃん?」
「せや」
「え?でも顔貸すって・・・何?」
「いや、いつも竜士が世話になってるみたいやし、なんか美味いもん奢ったるから、ちょぉ付き合うてくれへんかな?」
そう言って、にっこりと笑ってやれば、奥村兄は目をキラキラと輝かせて、「美味いもん?!」と喜んだ。
こいつらホンマに双子なんか?
と思うほどに、奥村兄弟はまったく毛色が違う兄弟だった。
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