パロ
ずっといっしょ 35
≪柔造side≫
結局その日は朝までソファの上で、イライラと格闘しながら過ごした。
こんな事では仕事に行ったところで、仕事になどならない事は分かりきっている。
今日は休むことにしよう。
とりあえず、頭をすっきりさせようとシャワーを浴び、身なりを整えた、
それからいつもより早めに家を出る。
向かう先は坊の通う学校。
昨夜から一切電話が通じなくなったので、無事を確認するためにも通学姿を見る事が一番だと思った。
なるべく誰の目にも付かない所で待機し、坊が通学してくるのを待つ。
もしも辛そうな顔をしていたならば、その場で駆け寄る。
いつもと変わらぬ表情ならば、下校まで声をかけるのは待つことにしよう。
そんな事を考え、目を凝らし、人の流れを見詰める。
暫くすると、一際目立つ髪形の金と黒の髪型が目に付いた。
見間違えるわけもなく、それは正しく今すぐにでも会いたくて、抱き締めたくて仕方のない坊の姿だった。
泊まった先にヘアワックスがなかったのであろう、今日は髪を立てることもなく、カチューシャで前髪を上げていた。
表情は・・・・・。
普段と変わらず、にこやかな顔をしていた。
その表情に一先ずはほっとする。
が、坊を挟む二人の男達の顔を見て、また腸が煮えくり返りそうになるのをぐっと堪えた。
(奥村兄弟――――――――!)
あの双子の顔は何度も腹立たしいプリクラ写真を見たので、既に頭にはインプット済みだ。
坊があの双子とプリクラを撮ってきた後、実はこっそり坊が居ない間に写メって携帯に保存したのだ。
街中で彼らを見つけても、分かるようにと。
やはりアイツらの家に泊まっていたのか。
あの表情を見る限り、何事もなかったのだろうか?
いや、しかし、もしかして、あの眼鏡の方は口や頭が立ちそうな雰囲気だ。
上手く言葉に乗せられて、色々と丸め込められたのかも知れない!
なんせとんでもない嘘を吐いて、坊にキスを迫ったり、頬にキスをした過去があるのだから、安心など出来るわけがない。
見ているだけで、イライラとするが、今ここで話しかけてしまえば、今日1日の坊の授業に差し支えてしまう。
とにかく放課後まで我慢だ。
放課後、学校から坊が出てきたら、直ぐ様に捕まえて家へ連れて帰ろう。
あんな双子になど誘惑されて堪るものか。
俺は学校付近で下校時間になるまで時間を潰した。
****
放課後、正門の所で待つことにした。
坊の事だ、きっと俺の姿を見つけてくれれば、走り寄ってきてくれるに違いないと踏んで。
下校のチャイムが鳴り、ちらほらと生徒が門を潜りだす。
数分経ったが、坊がやって来そうな気配はなかった。
まだ教室で誰かと話をしているのかも知れない。
しばらくそのままで正門の前で佇んでいると、一人の女生徒に話しかけられた。
「あの、誰か待ってるんですか?」
「え?ああ・・・」
「呼んできましょうか?」
そう、女生徒はにこやかに笑った。
「いや、ここで待ってるからええよ、おおきに」
ありがたいその申し出に笑顔で返事を返してやれば、目の前の女生徒が急に「きゃぁぁ」と声を発した。
(なんや????)
少々、その女生徒の反応にビックリはするが、まぁ良くあることだから気にも留めなかった。
「あの、彼女とか待ってるんですか?」
「いや、彼女やないけど・・・・」
「彼女じゃないんですか?!」
と、何故かその女生徒は少しばかり声を大にしてそう言った。
すると、門の中に居た更に数名の女子がわらわらと近付いて来た。
(?????なんやねん、一体???)
「モデルとかしてるんですかぁ?」
「は?あ、いや、普通の会社員やけど・・・」
「えー!でも凄くカッコ良いですよねぇ!」
「はぁ」
何をいきなり言い出すんやろうか?
なんて彼女達をやんわりと見詰めながら、脳内にはたくさんのクエスチョンマークが飛ぶ。
いや、そんな女の子らに構ってる場合とちゃう。
早く坊を見つけてこの場を撤退しなくては。
なんて思うのに、次から次へと女生徒達は質問を投げかけてくる。
(ホンマ、なんやねん!一体!!!)
しかしここで、無碍な扱いなどして、後々坊に何かがあっては困ると、仕方なく適当にあしらう。
そこで周りを見渡せば、自分の周りの女の子達を更に遠巻きから囲むギャラリーが出来ていた。
『有名人?』
『有名な先輩とか?』
『彼女待ち?!』
と、小さいながらも口々に囁く声が聞こえる。
(アカン!なんや悪目立ちしてる気がする!)
そうは思うが、逃げ道がない。
そんな中一際刺さるような視線に気が付いた。
気になって、顔を上げ、その視線の先を見れば、それは・・・・
(奥村メガネ!!!)
バチリと視線が合うと、奥村は今まで睨んでいた表情を一気ににこやかな物に変え、こう言った。
「すみません、急にお呼び立てして」
(なんやどういうつもりや?!)
と、一瞬思いはしたが、これはここから逃げるチャンスやと、その奥村の不可解な言動に合わせることにした。
それによって、周りの女の子達が『奥村くんの知り合いなの?!』と、またキャァキャァ言いだしたので、コイツはこの学校の中でもそれなりに有名なヤツなんやな、と推測した。
「いや、大丈夫や」
そう、同じようににこやかに笑んで返してやった。
何故、坊ではなくこの男が俺に話しかけてくるのか?
疑問を抱かざるを得ないが、一度話して置いて損は無いと踏む。
坊はコイツと放課後良く勉強すると言っていたから、多分まだ学校の中やろう。
まず話してる間に門を潜ることはなさそうなので、この男に少し付き合うべく、門から離れ、人通りの少ない路地裏へと足を進めた。
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