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パロ
ずっといっしょ 34



≪雪男side≫



昨夜は竜士と勉強したり、兄さんを交えて少しくだらない話をしながら一晩を思ったよりも楽しく過ごした。
竜士も家に来た時よりもずっと落ち着いたようで、笑顔を見せてくれるようになった。
それから僕らの部屋に客用の布団を敷いて、少しばかり嫌がる竜士を真ん中に挟んで、3人で川の字に寝た。
竜士は呆れたように溜息を吐くけれど、どうやら地元でもたまに友人達とこんな感じで寝ていたこともあるらしく、なんだかんだ言っては気を許してくれた。

竜士が寝入ってから、どうしてももっとくっ付いて寝てみたくて、そっと抱き締めるように眠った。
温かくて、なんだか良い匂いもして、とても気持ち良く眠れた。

朝、目が覚めても、その体勢のままでいた僕。
端で眠っている兄さんも覗いてみれば、手も足もべったり竜士に絡ませている。

そんな時、「はぁ」と隣から小さく溜息が零れた。

僕はまるで今目覚めたかのように、わざとらしく体を動かして、「ん・・・」と小さく息を漏らす。

「おく・・・雪男?」

「ん・・・・竜士・・・」

そう言って、また少しばかり演技をしつつ竜士の声に答えを返せば、また竜士が「はぁ」と溜息を吐いた。

「な・・に?」

そんな溜息に疑問を持つような演技をすれば、

「自分ら寝相悪すぎる・・・・重い・・・」

「え・・・?あっ!!!」

そこで、やはり今正に気が付いたように、名残惜しいけれど慌てた振りをして体を離した。

「ご・・・ごめんねっ!」

「いや、ええけど・・・・」

「あ・・・なんかほら、昨日肌寒かったから、なんか温かくて・・・」

「おん・・せやから、別にそんなんはええねんやけど・・・これ・・・」

僕は名残惜しくも体を離したのに、竜士の指差した先の兄さんはまだ竜士にべったりと絡みついたままだった。

「あ!ちょっと兄さん!!!」

そう言って、起き上がって竜士からべりっと足も手も剥がして、向こう側に転がす。

「もう!起きなよ!兄さん!」

「んむぅ〜〜〜」

駄目だ、ちっとも起きる気配がない。
竜士も体を起こすと、兄さんを軽く揺すった。

「奥村!あ・・・燐っ!起きや!朝やでっ!」

「ん〜〜〜・・・」

またごろごろと戻ってきて、竜士に絡み付こうとしたからその手をビシッとはたき落とし、文字通り叩き起こした。

「いってぇぇぇっ!!」

「いい加減に起きないと遅刻!!!」

「何すんだ雪男!!!」

「兄さんが起きないからだ!」

「もっと優しく起こせよ!」

「最初は竜士が優しく起こしたじゃないか!」

「え?」

「せや」

そう言って竜士が深く頷く。

「あ、勝呂っ!」

「なんや、お前、今頃気が付いたんか」

「そうだった!勝呂が居たんだっ!どうりでなんか温かくて気持ち良いと思ったんだよなぁ」

「人をカイロみたいにすなや」

「だってなんかマジ気持ち良かったんだもん」

そう頬をぽりぽりと指で掻きながら、ぶつぶつ言う兄さんに、竜士はぷはっと噴出して笑った。

「まぁ、ええけどな。ホンマ自分ら寝相悪いから気ぃ付けや」

なんてやんわりと微笑みを零した。

基本、竜士は僕らには優しく甘いと言うことがよくよく分かった。



それから、父も交えて4人で朝食を取り、3人で登校した。





****



日中、竜士の様子を伺い見れば、何時にも増して眉間に皺を寄せ、何かをずっと考えてるようだった。
僕達と居る時には、きっと何も考えないようにしていたのだろう。
一人の時間を作ってしまえば、嫌でも昨日の事が頭に過ぎるのか。

話しかければ、気を使わせたくはないのか、普段と変わらない表情を作る。

竜士にこんな気遣いをさせる、見たことも無い竜士と共に生活するその男が僕は益々嫌いになった。



放課後、竜士と少し勉強でもして帰ろうと、図書室に向かう廊下を歩いていた時、なにやら正門の辺りが騒がしい事に気が付いた。
気になって、視線を窓に向ける。

「なんだろう・・・あれ?」

「なん?」

「門の所・・・ちょっと騒がしくない?」

「そうやなぁ」

暫く見ていると、女の子達がなんだか騒いでいる気がする。
女の子たちの渦の中心を見ると、少しばかり飛び抜けて立つ黒髪の男性の姿が見えた。

「有名な人・・・?先輩とかかな?」

「どれ?」

「あの真ん中の・・ほら・・・」

そう言って、指を指し示せば、竜士の目がその中心部を捉えた。

「誰だろうね?」

「・・・・・んで・・」

「竜士?」

「なんで・・・こないな所に・・・こんな時間に・・・」

「?」

竜士の表情を見れば、目を細め、眉間の皺を更に深めていた。
その表情から一瞬にして読み取れた。

ああ、あの人が竜士の家のいけ好かない大人なんだ、と。

「あの人、竜士の家の人?」

「お・・ん・・・せやけど、なんでこんな時間にこないな所に居るんや?どう考えたって今は仕事してる時間やろ?」

「昨夜帰って来なかったから、心配で迎えに来たんだろうね」

「1日くらい帰れへんからってなんやねん。子供やないんやし・・・」

竜士は困ったような表情を顔いっぱいに浮かべ、窓からその景色を眺めた。


―――――ここで、すんなり彼に渡すわけなんていかない。


そう、僕は思った。


「ねぇ、僕が行って話をしてこようか?」

「え?」

「だって、まだ心の整理・・・ついてないでしょ?」

「それは・・・」

「僕の家にだったらまだまだ泊まってても大丈夫だし、お兄さんにその旨伝えてきてあげるよ?」

「せやけど・・・」

「ね?もう少し頼ってくれたって構わないんだよ?辛い時は誰かを頼ったってバチなんて当たらないから。それとも僕じゃ役不足かな?」

困ったように微笑み返してあげれば、竜士は僕の目を見て、少し考えると、

「おおきに・・・」

と小さく礼の言葉を零し、はにかむような笑みを作った。

「せやったら・・・ちょっとだけ、甘えさせてもろてもええやろか?」

「いくらでも大歓迎だよ。先に図書室で待ってて。すぐに話をして、追いかけるから」

今度はいつもの様に優しく笑んで返した。

「・・・おん・・・」

竜士も少し気を落ち着かせたのか、眉間の皺を幾分か減らせ、僕に笑いかけてくれた。


竜士を図書室に向かわせ、僕は正門へと急ぐ。


そこで目にしたのは、女生徒に囲まれて、少し困ったような表情を作る黒髪の男性。
背丈は僕とそんなに変わらないくらいだろうか?

何故愛する人を迎えに来て、こんな所で女生徒を侍らせてるんだろう。

そんな光景を見ただけで、この人物に対してイライラが募る。

大人の余裕か、それともただの馬鹿なのか。

少し離れた所から観察するように、じっと見詰めれば、視線を感じたのか顔を上げた彼と目が合った。

そして、彼ははっとした表情をしたかと思えば、一瞬にして、僕を睨むような目付きに変わった。

なるほど、僕の顔は知っているわけか。

ならば、話は早い。

にこりと笑んだ表情を作り、その輪の方へゆっくりと歩み寄り声を掛けた。

「すみません、急にお呼び立てして」

そう声を掛ければ、彼は眉間に皺をぐっと寄せ訝しんだが、すぐに悟ったのか、

「いや、大丈夫や」

と、彼もまた満面の笑みで返してきた。

周りで女の子達が「奥村くんの知り合いなの?」なんて事を口々に呟いてる。

うん。そう、僕の知り合いって事で良いと思う。
こんな浮ついた男が竜士の知り合いだと思われたら、きっと竜士にもとばっちりが行くだろうから。

ホント、なんなんだろうこの人。
竜士の事なんて何も考えてないんじゃないだろうか?
そう思える程に、僕には自分勝手に思えた。

「場所を変えましょうか?」

「せやな」

彼の元に歩み寄り、にこりと微笑んで会話をする。
彼も同様に、笑みを作りそれに合わせる。


そして、正門から出て、なるべく人通りの少ない路地裏へと足を進めた。






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