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パロ
ずっといっしょ 32(柔勝)



≪柔造side≫




ここ数日、前に付き合っていた女性から頻繁にメールが来るようになった。
メールの内容はと言うと、

『どうしても諦められません』
『もう一度会いたいです』
『もう、本当にダメなの?』

まぁ、そういった感じのメールだ。

どうしてそんな事になってしまったかと言うと、もちろん責任は全て俺にある。

いきなりの『別れ』の宣告。

会う回数はぐっと減ってはいたものの、会えばそれなりに接してきていたわけだから、突然別れを告げられた方はショック以外の何物でもなかったであろう。

『今は少ししか会えないけれど、もう少しすれば・・・・』

と、心の隅にでも思い描いていたのかもしれない。


けれどそれは叶わなかった。


俺の一生叶わないであろうと思っていた『想い』が、成就してしまったのだから。


元より女性を付き合うと言う行為は、その叶うはずのない願いの代わりでしかなかった。
女性を想い人に見立て、寂しさを紛らわすように、接してきていた。

ずっと、ずっと。

けれど、俺の想いはなんと言うことか、叶ってしまったのだ!
こんな幸せなことがあるだなんて夢にも思わなかった。

正に全てがバラ色とはこう言うことを言うのか?!

毎日が、幸せで幸せで、嬉しくて、楽しくて。
傍に居て、触れて、名を呼んで、抱き締めて、キスをして。
この幸せだけは絶対に手放したくない。
何をおいても変えがたい大切な存在。
可愛くて、愛しい人がこの手の中に落ちてきたのだ。


俺だけのモノ、全てが俺だけのモノ。


決して、悲しませたくはない、不安になどさせたくはない。
ずっと俺の傍で微笑んでいて欲しい。
俺だけを愛していて欲しい。


俺の周りにはこの人以外何もいらない。


そう切に思った。


想いが成就した次の日、彼女にメールで連絡を取り付け、空いている時間に電話をし、言い淀むこともなく別れを告げた。
いきなりの事に彼女は沈黙をし、同様が隠せず、仕舞いには泣き出した。

自分でも酷い男だと思うが、それでも愛すべき人の存在には何を持っても変えられないのだ。
泣いている彼女に一言謝りの言葉を告げ、電話を切り、終らせた。


そして、それから数日が経った今、彼女から頻繁にメールが送られてくるようになったのだ。


しかし、何度メールを送られてきても、答えは一つしかない。

「本当にすまないが、もう諦めてくれ」

そうとしか言えない。
こうやって連絡を取っていることすら、想い人にバレてしまっては困ると、全てやり取りをした後には消去していた。
もしも万が一知られてしまえば、あの人はきっと些細なことでも気にしてしまうだろうから。

そして、彼女から再びメールが届く。


『もう一度だけ会いたい。会ったらそれでもう、何もかも諦めるから』


と。

俺はそのメールに承諾の返事を送った。
後一度会うだけで、この関係が全て断ち切れるならばと。

今後もし、まだ彼女が俺に想いを寄せ、行き過ぎて俺の大事なあの人に何かをしてしまったら困る。

そんな思いもあったから。





そして仕事が終った帰りに、彼女の呼び出しに応じ、会う事にした。
なるべく人気のないところで話をした方が良いだろうと、大通りを抜けた公園の死角で話をする。

「本当にすまないが、もう会うことも出来ないし、メールも、電話もしたくはない」

そう告げると、彼女は悲しげな顔をした。
けれど、彼女はきっと覚悟を決めてここへ来ていたのだろう、こう言った。

「うん・・・・もう、終わりにする・・・だから一つだけお願い」

「なんや?」

「最後に、もう一度だけキスをして・・・」

彼女の目は潤んで、それでも泣くのを堪え、俺をじっと見詰める。

正直言えば、キスなどしたくはなかった。
自分の唇は、今朝あの人に触れて、あの人の感触で満たされているのだから。

それを他の者に塗り替えられるのは真っ平ごめんだった。

けれど、ここで我慢せざるえないだろう?

もしもここで断ったならば、もうきちんと別れるチャンスを失ってしまうかもしれない。
彼女の想いは解放されず、何時までも俺にしがみ付いてしまうかも知れない。

そうなれば、後々大変ではないか?

やむを得ない、俺はぐっと気持ちを押し込め肩に手を置き引き寄せ、口付けをした。


時間にして本の数秒の事だったと思う。
ただ触れるだけの口付け。
今までのように、深く口付けるのではなく、ただ触れるだけ。

唇を離して、彼女に目を向けたならば、彼女の瞳からぽろぽろと雫が零れだした。
それを拭うことも、触れることもせず、俺はただ小さく頭を垂れた。


「堪忍・・・な」


そう小さく告げ、彼女を置いて、俺は元来た道を戻った。

これで本当にお別れ。
もう会うこともない。




誰も俺とあの人の邪魔をさせない。
誰にも俺とあの人の間になんて入る事なんて出来ない。

俺は彼女に触れた唇をグイと手の甲で拭い、早くあの人の待つ家に帰りたくて足早に駆け出した。






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