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パロ
ずっといっしょ 29(柔勝)



≪勝呂side≫




くらくらとした働かない頭で、ポテトとコーラだけを買って席に着く。
頭の中に浮かぶのは先ほど見たばかりのキスシーン。

自分の唇を指でなぞる。
今朝も柔造とはキスをした。
昨日の夜もした。
その日の朝だって。

自分の唇に触れていた唇は、いつも他の誰かとも触れていたのか。
そう思うと何とも言えないような嫌悪感が走った。

朝から夜の間に他の誰か・・・先程の女性ともキスをしていたのだろうか。
そして素知らぬ顔で帰ってきて俺とキスをする。

大げさだけれど誰とも知らない女性との唾液と自分のものが混ざったような気分になった。

柔造の恋人は俺だけではなかったのだ。
もちろん柔造がとてももてるのは知っている。

彼女がたくさんいた事だって知っている。
現に遂この間まで彼女が居て、夜中に帰ってきた事だってあったじゃないか。

健全な男なのだから無い方がおかしいことだろう。

当たり前で普通のことなんだ。

逆に言えば男の自分とキスをしたりしている方がおかしなことなのだから。

柔造は俺のことを好きだと言った。
キスをしたい程、体に触れたいほど。

好きって言うのはどういう事なのだろうか?

一緒に居るのが楽しいから?
話をするのが好きだから?
容姿が好みだから?
それとも少しばかり気に入ったのなら簡単に出る言葉なのだろうか?


自分の何処が良いのかなんて分からない。

考えてもみろ。

こんな骨ばって、ゴツゴツで、筋肉質で男らしい体型。
身長だって柔造より高い。
低い声。
髭だってある。

どう考えたって、普通の男が好きだと言う対象にしてはおかしいではないか。

ただ欲求を吐き出したかっただけなのだろうか?

女性とはそんなにも体が結べないから、男の俺であればとか・・・。

なのに、蓋を開けてみれば情けないほどにそう言う情事には疎い体。
触れれば気色の悪い変な高い声が出る。
自分でも思い出したら寒気がする。
男の癖にボロボロと涙を零して、痛いほどに体を捕まれたなら、けったくそ悪いに違いない。

けれどこれから3年間一緒に暮らさなければならないのだから無碍には出来ない。
手は出したものの引っ込めようが無かっただけなのか。

それとも、俺が東京に来たその日に本当は俺の気持ちを全部知っていたのだろうか?

だから昔のように子供をあやす様な感覚で、少しだけ遊んでやろうかと思ったのだろうか?

いや、そもそも柔造が一人東京に出てきたのは、もしかして俺の潜在的な想いに気が付いて、態と遠くに行ったのではないだろうか。

鬱陶しくて。
絡んでなんてもらいたくなくて。


なのに俺は・・・・そんな柔造に会いたくて、自分の事だけ考えて勝手に東京にまで出てきて。

最初から全部全部柔造は分かっていたのかも知れない。



俺は一人で恥ずかしげもなく、そんな彼の目の前で一人舞台をしていただけなのか。



もう、何がなんだか分からない。

何が本当で、何が現実で、自分の気持ちも、柔造の気持ちも、男と女の事も、この数ヶ月の感情すら全部全部何が真実なのか。


ガンガンする頭を抱えて、不図時計を見ればもうあれから2時間は軽く越えていた。

携帯を見れば、何件もの着信履歴。
全て柔造からだ。

メールも数件届いて、開けてみればやはり全て柔造から。

『どこにいるんですか?』

『連絡ください』

『どないしはったんですか?』

『心配です』


そんなメールの言葉ですら上辺だけのセリフに見えてきた。

・・・・そりゃこっちでなんぞあったら、俺の両親に怒られるのは柔造やもんな。

今頃家の中で、短気な柔造の事やからイライラしてるのかも知れん。

手間掛けさせて、子供で、自分の事すらまともに出来ひん俺に。


――――――帰りたない・・・・・


今、家には帰りたくない。
柔造の顔を見たくない。
声も聞きたくない。
触れられても欲しくない。

何も信用出来ひん。

あの笑顔も優しさも何もかんも作りもんなんかも知れん。


――――――東京になんか来ぉへんかったらよかった。



素直に地元で勉強してたら良かった。
柔造の事なんか忘れて、皆とおんなんじ学校行って。

そしたらこんな想いせんで済んだのに。

阿呆やなぁ、俺。
情けないわ。

柔造には柔造独りの生活が既に出来上がっていたのに、勝手に土足で上がって滅茶苦茶にしてもうたんや。


たった3年間やと思ってた。
そんだけしか離れてへんのやから、また前にみたいに仲良く出来ると思ってた。

でもその3年間はめっちゃ重たい3年間やったんやな。


もう嫌や・・・・



俺、なんでこないに阿呆なんやろ・・・・。


家に帰りたくない。



せやけどこんなところでずっと居るわけにもいかへん。


ああ、そうや・・・。

いつだったか、

『勝呂君がね、不安になったらいつだって僕が調べてあげるし、答えてあげるし、手助けしてあげる』

そう言ったクラスメートのにこやかな顔を思い出す。
いつも俺ににこやかな笑顔を向けてくれる、ここに来て初めて出来た友達。


徐に携帯を取って、アドレス帳を開いた。


あ・い・・・うえ・・・奥村くん。


選択して、くっとボタンを押した。


トゥルルル・・・トゥルルル・・・・


何度か耳に響く呼び出し音。
数コール目で電話の主の声がした。

『もしもし?』

(あ・・・・)

声を出そうと思ったが、ずっと開いていなかった唇も、喉もからからで上手く声を出すことが出来なかった。
そう言えば買ったコーラをまだ一口も飲んではいなかった。


『もしもし?勝呂・・くん?』

「・・・・・」

『もしもし?どうしたの?勝呂くんだよね?』

「あ・・・・おん・・・・」

『ああ!びっくりした。・・・どうしたの?何かあった?』

「あ・・・あん・・・な・・・」

『うん』

「今日・・・」

『なに?』

「泊めて・・・くれへんやろか?」

『え?』

「あっ!!無理やったらええねん!!堪忍!!やっぱええわ!ごめん、また・・・」

『今何処にいるの?』

「え・・・あ・・・・・・」

『直ぐに迎えに行くからそこに居て!動いたらダメだよ?』

「え・・・奥村くん・・・」

『何処?』

「大通り沿いの・・・・ファーストフード・・・」

『わかった!待ってて!!絶対にだよ!』

「おん・・・」

そう言い終ると直ぐに電話は切れてしまった。

何も言うてへんのに、勘の良い奥村くんはなんか悟ってくれたんやろか?

呼び出してしもて悪いことしたな・・・・と、気の抜けたコーラを飲み、冷め切った手付かずのポテトをぼんやりと見詰めた。




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あきゅろす。
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