パロ
ずっといっしょ 23(柔勝)
≪柔造side≫
ああなんて清々しい朝なのだろうか。
俺は昇るお日様を見上げ、盛大に深呼吸した。
望みが叶うと言うのはこんなにも素晴らしい事か!
一生涯叶う事などないと思っていた願いが、今正に叶ったのだ。
全ての物が鮮やかに色付いて見えるなんて事がありえるのだ!!!
道端に咲いている花、広がる青空、暖かな陽射し、行き交う人々、街角にある自動販売機ですら、何もかもが違って見える。
(俺は今最高に幸せだ!!!!!)
そう叫びだしたい衝動に駆られるのをぐっと抑え、何時ものように職場へと向かった。
自分のデスクに着くと、声を掛けられた。
「今日も何か・・・あった?」
そう聞いてきた同僚に、
「めっちゃええ事があったんや!」
と、満面の笑みで答えた。
「そりゃ良かった。昨日はすげぇ顔してたもんな」
「そうか?」
「みんな自殺でもするんじゃないかって心配してたぜ」
「アホ抜かせ。こんな幸せな時に死ぬやなんてありえるわけないやろ!」
「そりゃ良かった」
そう言って同僚は笑って去って行った。
昨日までの俺とはもうおさらばや!
今日から俺は坊と幸せな家庭を築いて行くんや!!
家庭て・・・
自分で考えときながら、なんだかほんわりと頬が緩む。
ああ、また帰ったらキス・・・さしてくれるんやろか?
恥ずかしそうに、俺の方を見てはにかみながら、
『キス・・・してええよ・・・』
なんて言われてみぃや!
もう、辛抱堪らんやろ!!!
アカン・・・・
かいらしい・・・
俺の名前呼びながら
『柔造・・・好き・・・』
なんて、抱きしめられてみぃ!!!
かいらしいて、かいらしいて、そのまま抱き締め返して、ああ、それから・・・!!!
・・・・それから・・・・
は、まだしたらアカン。
せや。
それだけは気を付けな。
理性が飛ばんように、ゆっくりゆっくり進めて行かな・・・。
今度こそ嫌われでもしたら、もう立ち直る術なんかない。
坊のペースに合わせて、ゆっくりゆっくり愛を育んで行くんや。
ああ、せやけど・・・・。
今朝の事を思い出しただけで・・・・。
アカン・・・・。
早う坊に会いたい・・・・。
こんなにも1日が長く感じるだなんて、東京に来て初めて思った。
****
何時ものように帰りにスーパーで食材を調達して帰る。
昨日うっかり寝落ちしてしまったおかげで、坊の好きな物を作ってあげられなかった。
今日はまた昨日とは全く違った意味で、坊の好きな物を作ってあげよう。
両想い記念だ。
坊の喜ぶ顔が見たいから。
俺の作ったものを食べて、美味いと微笑んでくれるだけで幸せではないか。
早く、早く、家に帰ろう。
坊の待つ家に。
早く、早く、早く。
高鳴る胸を押さえて、玄関のドアを開ける。
家がこんなに幸せな空間だなんて、今の今まで思った事があっただろうか。
否、あるはずなどない。
何時も欲求と、理性との葛藤に挟まれ、堪えて堪えて耐え抜いてきたのだから。
漸く、俺の家が本来の家としての機能を果たす時が来たのだ。
安心できて、寛げて、幸せで、温かい空間。
俺の休息の場所・・・。
早く、早く、俺の大事な人に会いたい。
「ただいまです」
そう言って、玄関からリビングに通じるドアを開けると、坊が向こうからたたっと近づいてきた。
「おかえり」
ニコリと俺に微笑みかける。
ああ、ああ、なんて幸福・・・。
「お腹減りましたやろ?すぐにご飯作りますからね」
「おん・・・・」
俺も微笑み返して、キッチンに入り込もうとした瞬間、くいっとスーツの裾を引っ張られた。
「どないしました?」
見れば、下を向いたままぎゅうと俺のスーツを掴んでいる。
何か言いたい事があるのだろうか?
「いや・・・・あの・・・・あんな・・・」
「はい?」
「その・・・・」
「?」
「お・・・かえりの・・・・」
「はい?」
「・・・・き・・・す・・・」
そう言うと、俺の首に腕を絡め、坊の顔が俺の顔に近付いた。
それから、温かく柔らかな感触が唇にちゅっと押し当てられた。
「!!!!!」
ゆっくりと唇を離すと、はにかみながら微笑んだ瞳とかち合う。
「お仕事お疲れさん」
な・・・・・・・・・
な・・・・・・・・
何が起こった?!
唇にそっと指を当てて、今の感触を思い出す。
目の前に真っ赤になりながらも俺を見詰める坊の姿。
なんて、なんて、かいらしい!!!!
「坊!!!!」
思わずぎゅうと引き寄せ抱き締めた。
「うわっ!!」
「坊!!坊!!!」
「ちょ、柔造くるしっ!!!」
「ああ、もう、ホンマかいらしい!!!好きです!!坊!!!」
「分かった!!分かったから、落ち着いて!!!」
「坊・・・・もっかい・・・」
「ホンマ・・・キス好きやな・・・」
「やって、坊が可愛すぎるのがあきませんのやで?」
「こんなごっつい男可愛いなんて言うなんて、ホンマ物好きやで?」
「何言うてますのんや?こないに可愛いて、可愛いてしゃぁないのに・・・」
それから、ちゅっちゅっと何度か啄ばむように唇を合わせて、坊の顔を覗き込むと、頬を赤く染めた坊と目が合う。
ニコリと微笑んで、そっと頬をなぞれば坊も微笑んでくれる。
「ご飯作りますね」
「おん」
これが毎日続くのかと思うと、正に天にも昇る気持ちだった。
それから何時ものように飯を作り、楽しく飯を食い、何気無い会話をして時間を過ごした。
ああ、もう何時までもこうしてかいらしい坊と時間を過ごしていたいが、もうそろそろ就寝時間だ。
風呂にも入り後は寝るだけ。
坊がふわぁと欠伸をしたので、ふわりと髪を撫でて、
「もう寝はりますか?」
と聞くと、下を向いてしまった。
「坊?」
「あ・・・・あんな・・・」
これは・・・・
家に帰って来た時と同じパターン?!
今度は一体何を言ってくれるのだろうか?
もじもじと言い難そうにしては、こちらをちらりと窺う。
ああ、かいらしい。
この様子だとおやすみのキスってところか。
すっと肩を抱き寄せて、坊の顎を下から掬い上げた。
「坊・・・・」
ぎゅうと俺の服を掴む坊の手がかいらしい。
じっと見詰めると、真っ赤な顔をして少し恥ずかしさに潤んだ瞳で、俺の目を見てこう言った。
「一緒に・・・寝る・・・?」
パ――――ン!!!
俺の頭の中で何かが弾けた。
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