パロ
ずっといっしょ 1(柔勝)
≪勝呂side≫
春。
俺は東京の高校へと進学する事になった。
別に地元の高校でも良かったんだが、進みたい大学に入るには、この学校が良いからと薦められたからだ。
高校の成績も上げ、奨学金で通えるように頑張った。
そして、今日から俺は東京に住むことになった。
住まいは柔造の家。
小さい時から兄のように俺の面倒をみてくれて、俺も兄のように慕っている人物。
3年前に大学を卒業して、それから東京の会社に就職し、今は一人でここに住んでいた。
学校の寮に入ると言う手もあったのだが、いわゆる経費削減的な意味で、ここに世話になる事になった。
と言うよりも、両家の親が柔造が一番頼りになって、安心だと思ったのが一番の理由かもしれない。
何より俺自身が、柔造と一緒に居られる事が嬉しかったので、親の案を即座に飲んだ。
俺は柔造に、兄と言うよりももっと他の想いを抱いていたからだ。
それは離れて初めて気が付いた気持ち。
会いたくて会いたくて仕方なくて、ずっと一緒に居られたらいいのに、と何度も思った。
男の俺がこんな想いを、男の柔造に抱いているというのはきっと気持ちの良いものではないし、もちろん言うつもりなどない。
ただ少しでも近くに居て、少しでもその笑顔を見ていられたらいい。
それだけの気持ち。
微笑んで、そっと優しく昔のように触れてもらえたならば、きっと、今まで以上に頑張れると思っていたから。
だから俺はここに来た。
駅で待ち合わせをし、マンションへと辿り着く。
「ようこそ。いらっしゃいませ」
ガチャリとまるでホテルのドアマンの様に玄関の扉を開けると、俺を招き入れてくれた。
「お・・・お邪魔します」
「そないに硬うならんでも。次からは「ただいま」言うてくださいね」
「おん・・・」
初めて来た柔造の家。
シンプルだけれど何処となくお洒落で、柔造らしいセンス。
「とりあえず荷物置いたら案内しますね」
「おん・・・」
通されたのはまずリビング。
こざっぱりとした対面式キッチンに、テーブルと椅子2脚がまず目に入った。
一人暮らしやのに、想像していたよりも大きめの家だった。
「誰かと住んでたん?」
「いえ。ずっと一人ですよ」
「そうなん?なんや広いなって思て・・・」
「まぁ、それなりにお給料もろてますし、ちょっと縁あって安うで借りてますよって」
「へぇ・・・」
「そしたら、坊の部屋に案内しますね」
「おん」
リビングを通過して奥の部屋へと案内された。
「届いた荷物は適当に入れてありますから、確認してくださいね」
「おん」
部屋を空けると、クローゼットと、勉強机と、ベッドがあった。
どれもセンスの良さが窺える。
「あんまええもんは揃えられへんかったけど、こんな感じで宜しいですか?」
「ええもん・・・て!!!これ、柔造が買うてくれたんか?」
「入学祝です」
「そんなん・・・・俺、別にちゃぶ台と布団とかで十分やったのに・・・・」
「そんなわけにはいかんでしょう。大事なお人さんお預かりするんやし」
「せやて・・・こんなん・・・」
「迷惑でしたか?」
「ちゃ、ちゃう!!!めっちゃ嬉しいに決まってるやん!!!せやけど・・・」
「こういう場合は、笑顔でおおきに言うんが一番のお礼なんですよ、坊」
「お・・・おおきに」
柔造の方に向かい、ぎこちなく笑みを作って応える。
「はい、どういたしまして」
そう言うと、柔造はいつもと変わらない笑顔を向けてくれた。
ああ、やっぱりこの笑顔を見ると胸の中がほっこりするんや。
「そしたら今日はどっかに美味しいもんでも食べに行きましょか?」
「ええのん?」
「坊の歓迎会しましょ」
「おおきに!!」
これから新しい生活が始まるかと思うと、胸がわくわくとした。
≪柔造side≫
最初親から電話がかかってきた時、ホンマは断ろうと思っていた。
「預かる?俺んとこで?」
『せや。お前んとこやったら、坊も安心しはるやろし、学校も近いし、何かと都合がええやろ?』
「せやて、俺、仕事でほとんど家おらんで?」
『そこはなんとかせぇ』
「無茶言うなや」
『どうしてもアカンのやったら寮に行ってもらうしかないんやけどな』
「ほんなら寮でええやん」
『・・・それがな、もう、お前んとこに行けるって坊に言うてしもたんや』
「は?!なんやねんそれ!!!事後報告とかそんなんアカンやろっ!」
『坊も喜んではったし、ほんならとりあえず1年だけでも・・・』
「そんな中途半端なことしたら、坊が傷付くやろ!!・・・・しゃぁない・・・なんとかする」
『頼んだで』
「・・・・わかった」
なんて勝手な親なんや。
俺が何で一人東京に出てきたかも知らんくせに。
東京に出てきた理由・・・・
それは、唯一つ。
坊と一緒に居りたくなかったからや。
何でなんて聞かれたら、くだらない程に一言で片が付く。
惚れてしもたから。
小さい時から一緒に居って、ずっと傍で成長を見てきた。
可愛くて、可愛くて仕方なかった。
ずっとずっと俺だけのものにしてたかった。
だけど、そんな事叶うわけもない。
相手は歴とした男や。
しかも俺ら家族が世話になってる旅館と、寺の跡継ぎ。
そんな大事なお子を俺のくだらない欲で、穢したり、誘惑したりしたらアカンのや。
せやから俺は、そんな想いがこれ以上深くならへんよう、表に出してしまわないように家を出た。
せやのに!!!
3年間も俺の家で預かれ言うんか?!
今まで広い広い旅館の屋根の下に居った時ですら、手が出したくて、出したくて仕方なかったというのに。
こんな東京の狭いマンションで一緒に暮らせ言うんか?
そんなもん・・・・
俺は自分を止める自信なんてない。
どないせぇっちゅうねん。
こんなんまるで拷問やないか。
はぁ、と深々と溜息を吐く。
しゃぁない。
何とかやり過ごすしかないやろ。
3年・・・・の我慢や・・・
って、気が遠くなりそうな話やな。
ホンマどないせぇっちゅうねん。
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