パロ
ずっといっしょ 18(雪勝)
≪雪男side≫
その日勝呂君は凄い顔で登校してきた。
目の下には隈。
けれど目元はじんわり赤い。
眉間には皺を思いっきり寄せて、困ったような、怒ってるような、はたまた悩んでるようなそんな顔。
「おはよう。今日は凄い顔してるね。何かあった?」
そう言って、彼が自分の机に着いた直後に、声を掛けた。
「おはよう・・・・」
昨日登校して来た時は、それはそれは嬉しそうな満面の笑みだったのに。
昨日と今日でこんなにも表情が違うだなんて。
がたりと椅子に座ると、僕を見上げ、それからすっと目を逸らし、はぁと肩を落とした。
「なんもあらへん・・・・」
なんて言うけれど、それのどこが何もない顔なんだろうか。
前の席の椅子を借りて、勝呂君と向かい合う。
なんだかとても気になるほどに悩んでいるから、話のきっかけを探そうと頭の中で言葉を探し出す。
その時不図、頬杖を着いたまま何かを考えて、軽く首を傾げているその首元に目が留まった。
「ちょっと、首上げてくれる?」
そう言って、くいと勝呂君の顎に指を掛け、顔を上に向けた。
「なに?」
それからシャツのボタンに手を伸ばし、ぷちりと一番上のボタンを閉めて、緩んでいたネクタイもそれに合わせて締めてあげた。
「今日はここ締めといた方がいいよ。苦しいかもしれないけど」
「なんで?」
「痕が付いてる。なんか生々しいから」
「あ・・・と?」
「キスマーク・・・かな?」
「き・・・っ!!!」
そう言うと、慌てて首元を押さえて勝呂君は火が出そうなほど顔を真っ赤にさせた。
その様子を見て、ああ、そう言うことか、と答えが見えた。
「お兄さんと何かあった?」
「っ!!!!!」
もうこれ以上は赤くすることは出来ないだろうと言うほどに、顔を赤らめ、口をパクパクさせている。
「何で・・・なんで分かるん?!」
そんな事は愚問だろう。
昨日家に帰ってから勝呂君が会った人物なんて、一人しかいないだろうから。
「なんとなく」
当たり障りなく答えると、今度は盛大に溜息を吐いて、勝呂君は机に臥せってしまった。
「僕でよかったら相談に乗るよ?」
と、声を掛けても小さく頭を横に振る。
まぁ、そりゃ首筋にキスマークつけて、同居のお兄さんの話をしてくれなんて、色々なわだかまりがあるだろうからそんな簡単には答えてくれないだろう。
ふむ、と考えて、じゃぁこれならどうだろうと耳元で小さく囁いた。
「お兄さんに好きって言われた?」
すると、がばっと顔を上げて僕を見る。
それはそれは泣きそうな顔をして。
ああ、なんか可愛いなぁ・・・。
思わず抱き締めたくなる。
「なんで・・・わかるん?」
「勝呂君のことだから・・かな?」
と、また曖昧に答えた。
泣きそうな顔をしたまま、何か言いたげにするけれど、やはり周りが気になるのだろう。
言いかけては、また俯いた。
「ねぇ、勝呂君」
「・・・おん・・・」
「授業サボろうか?」
「え?」
今度は目を見開いて、驚いた顔をして僕を見る。
良くコロコロと表情が変わるなぁ。
なんだかいつもと違う彼は、見ていてとても楽しかった。
「確か1時間目自習だったはずだよ?」
「せやかて・・・」
「ここじゃ何も話せないでしょ?屋上に行こうか?」
「やって、奥村君・・・」
「大丈夫だよ。僕たち普段の行いがいいから」
なんてくすりと笑うと、勝呂君は困った顔をして、ほんの少しだけ頬を緩ませた。
**
それから朝礼が終わり、クラスの女の子にもしも先生が来た時のことをお願いして、こっそり二人で屋上に上がった。
出来るだけ人目に付かない場所を選んで、腰を下ろす。
「で、昨日、何があったの?」
時間もそんなにないし、単刀直入に聞いてみた。
「・・・・・」
答えは無し。
言い難いよね?
じゃぁ・・・。
「昨日お兄さんに好きって言われたんだよね?」
「・・・・おん・・・・」
「その首の・・・お兄さんが付けたの?」
「・・・・おん・・・」
小さく小さく僅かに聞こえる声で答えた。
「無理矢理?」
「・・・・・・・」
「襲われたの?だとしたら問題だよね?」
「ちゃ・・・ちゃうっ!」
「勝呂君?」
「ちゃう・・・ちゃうねん・・・」
「じゃぁ、どうしてそんなに泣きそうな顔してるの?」
「やって・・・」
「勝呂君はお兄さんが好きなの?」
「・・・・・そんなん・・・気持ち悪ない?」
「ううん。平気だから、ちゃんと話して?勝呂君がそんな顔してる方が心配で仕方ないから」
そう言うと、勝呂君は一呼吸置いて話をしだす。
「無理矢理とかそんなんちゃう・・・。俺がなんも・・・知らへんかっただけ・・・」
そこから勝呂君はポツリポツリと昨夜の話をしてくれた。
同居のお兄さんにずっと好きだったと告白されて、勝呂君も同じように返事を返したらしい。
二人は相思相愛。
初めてのキスは好きな人が良いと、お兄さんとキスをした。
ああ、道理でこの間僕がキスをしようと言った時に騙されてはくれなかったわけだ。
なるほどね。
それで、キスをしたのは良いが、どうやら勝呂君の思っていたキスとは違っていたようで。
いわゆる大人のキス。
舌を絡めるディープキスってやつだよね?
それをされてしまったと。
そこから、多分お兄さんに火が点いてしまったんだろうね。
ずっと好きだったって事は、恐らく蓄積されていた何かが爆発したんだろう。
まぁ・・・大人の男だし。
聞いていれば、やることは色々やってそうな感じだし。
けれど相手はこれ以上ないくらいに純粋乙女な勝呂君。
襲われそうになったのを蹴り飛ばしたって・・・・。
自業自得と言うか、なんと言うか、可哀想なお兄さん。
それで、思わず『嫌いだ』と言って自室に篭ったっきり、まだ一言も交わしてないのだとか。
纏めるとそんな感じらしい。
「本当に嫌いになっちゃったの?」
「そんなわけないやん!!ただ・・・」
「うん」
「俺は・・・ものには順序ってもんがあると思うんや」
「順序?」
「やって、好きや言うた日にそんないきなり、かっ・・・体の関係なんて・・・っ!!!」
そう言うと、また顔を赤らめていく。
ああ、もう、どこまで可愛いんだろうかこの人は。
そんなの今時女の子だって言わないと思う。
ああ、ぎゅって抱き締めたい。
「俺はまだそんな経験なんてあらへんし、柔造みたいにそんなんに抵抗がないわけやない。まず付き合うて、それから色んなことして、・・・やって、手かて1回しか繋いだことないねんで?!」
「・・そう・・・なんだ」
『手を繋ぐ』から始めるわけだ。
まさかそこからスタートとは・・・・。
「・・・抱き締めたことかて・・・・2回くらいしかないのに・・・」
「うん・・・」
「せやのにそんなんまだ早いやん!・・・・なぁ、俺、おかしいのんか?男やったらすぐにそんなんしたなるん?それが当たり前なん?」
「ううん。勝呂君はそれでいいと思うよ」
「10も違うと・・・やっぱりちゃうんかなぁ・・・」
はぁと、溜息を吐いて下を向いてしまった。
お兄さんの気持ちも分からなくはないが、相手が勝呂君って事が問題だよね。
そりゃきっと僕だって、思いが通じてキスまでしたら・・・・可愛い可愛い人ならば触りたくもなるだろう。
だって、今こうして相談に乗っているだけだって言うのに、抱き締めたくて仕方ないほどに可愛らしい事ばかり言うのだから。
「・・・キスの仕方すら知らんかったし・・・」
ポツリと呟く姿が余りにも可愛くて、思わずそっと腕を伸ばした。
「勝呂君」
それから勝呂君の体に腕を回し、きゅっと抱き締める。
ああ、こんなに近くで勝呂君の匂いや体温を感じると、確かに抑えられない気持ちになるのは分かる。
「?奥村君?」
僕の行動に不思議そうな顔をして覗き込むから、ぽんぽんと宥めるように背中を叩いてあげた。
安心させるように。
「ねぇ、お兄さんが大人だから不安?」
耳元で優しく囁く。
「・・・かも知れん・・・」
とても良い事を考えたんだ。
勝呂君が食いつきそうな言葉を並べる素敵な誘惑。
「じゃぁ、僕と・・・勉強してみる?」
「勉強?何を?」
「大人の恋愛の仕方」
「どう・・・やって?」
「勝呂君がね、不安になったらいつだって僕が調べてあげるし、答えてあげるし、手助けしてあげる」
「そんなん・・・奥村君かて俺と同い年やん」
そう言われて思わず苦笑する。
(でもずっと君よりはそう言うことに対しての知識も免疫もあると思う・・・)
なんて言葉をぐっと飲み込んで、
「うん。だけど、練習相手にはなれるよ?」
「練習?」
「キスの仕方とか」
「キス・・・・?」
ゆっくりと体を離して、勝呂君の頬のライン指でなぞり、唇に指をすっと這わすと、僕はにこりと微笑む。
怖がらせないように、不信感を持たせないように、細心の注意を払って。
「少しでも勉強して上手になれば、お兄さんに・・・大人に近づけると思わない?」
「せ・・・やろか?」
「そしたらきっと、お兄さんに何を望まれても、少しは対処できるようになるんじゃないかな?」
「そうなん?」
「例えば・・・・」
もう一度すっと唇をなぞり、一言言う。
「口・・・開けてみてくれる?」
「・・・お・・・ん」
小さく開いた唇の隙間に、顔を近づけ唇を合わせるよりも先に、舌を滑りこませた。
「!!!!」
びくりとして、ぎゅっと僕の肩を勝呂君が掴む。
そのまま舌を差し入れ、勝呂君の舌と絡ませつつ、ゆっくりと唇を合わせていく。
「っ・・・・んっ・・・」
ああ、勝呂君の舌の感触が、柔らかくて気持ちいい。
角度を変えては唇を合わせ、舌を絡ませる。
「ふあっ・・・んぅ・・・」
鼻から抜ける甘ったるい吐息が聞こえる。
ああ、これは確かに襲いたくなる。
そっと目を開けてみれば、目をぎゅっと瞑って顔を真っ赤にした顔が見えた。
可愛い・・・。
それから何度か舌を絡ませて、ゆっくりと唇を離した。
「っ・・・おく・・・むらく・・・・」
顔を真っ赤にして、薄目がちに開かれた瞳。
口の端から飲み込め切れなくて零れた唾液。
光る唇。
どくりと下半身が疼く。
確かに、これは理性が飛ぶのも良く分かる。
「ね、勝呂君。こうやって僕がたまに勉強のために、練習台になってあげるから。お兄さんと上手くやっていけるようにね」
零れた唾液をそっと指で拭い、にこりと優しく微笑んだ。
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