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パロ
ずっといっしょ 16(柔勝)


≪柔造side≫




ベッドの上で何度目とも数えられない溜息を吐いた時、もうすっかり空は白んでいた。

(起きなければ・・・)

一睡もしてはいないけれど、ベッドに横たえていた身体をゆっくりと起こした。
それから朝食の支度でもしようと、キッチンへと向かう。

昨夜の事はいくら考えても答えは見つからなかった。

それはそうだ。
人の気持ちなど、その本人にしか分からないのだから。
ただ、もし・・・・
もし坊が俺を好きだったとしたならば、と、仮定して今までの色々なことを思い返してみた。

『柔造と一緒に居れるんやったらどこでもかまへんよ』

そう言って、にこりと微笑んだ坊。

『柔造ってホンマカッコええなぁって思て見とれててん』

じっと俺を見詰めそう言った坊。

『柔造と一緒に何か色々出来るんが嬉しいんや』

ニコニコと嬉しそうに呟いた坊。

『ホンマは内緒でお揃いのん持っとこうと思ってたんやけど』

恥ずかしそうにはにかんで、そう言った坊。

『あの、流行のんとかしてもええ?』

そう言って、俺の頬にキスをした坊。


こう並べてみれば、もしかしたら、やはりあの『すき』は俺のことを好きの『すき』なのかも知れない。

けれど、俺に彼女が居ることを羨ましそうに呟いたり、俺の弁当よりも他の奴の弁当を食べたいと言い出したり、昨夜のキスの早い遅いで機嫌を悪くしたり。

そんなことを考えると、俺を好きだなんて虫のいい話なんてあるわけ無いか・・・とも考えてしまう。

単純に憧れで『すき』言うたんかも知れんし。
ほんなら『もっとして』ってなんや?

そう考え出すと、また答えは堂々巡りになってしまう。

こんなにも悶々と悩むのであれば、直接坊に意聞くのが一番良いのだろうけれど、一体なんて問いかける?
下手をすれば、今の良好な関係が崩れてしまう可能性もある。

『柔造の事好きですか?』

そう問えばきっと坊は

『好きや』

言うてくれるやろう。

その意味は兄としてなんか、家族みたいな感じなんか、はたまたやはり恋愛感情なんかやっぱり分からんやないか。

はぁ、とまた大きく溜息を吐いて、恋愛とはこんなにも難しいものだったのかと、切に思った。





そんなこんな考えていると、坊の部屋の扉がすぅっと開いて、坊が出てきた。

「おはようございます」

そう出てきた坊に声を掛けてやると、じっとこちらを見て一瞬の間が開き、そして柔らかく笑って、

「おはよう」

と言った。


・・・・何や今の、微笑み。


朝からドキリとする程に柔らかな表情に思わず、

「何やええ夢でも見はりましたん?」

と問いかければ、

「おん、ええ夢やった」

そう言って、またふわりと微笑む。

「へぇ・・・どないな夢ですか?」

そう言うと、ピタリと固まり、顔をかぁっと赤くさせた。
なんや、かいらしい・・・って、いやいや、そないな事思てる場合とちゃう。

「そ・・それは内緒や」

「なんでです?そんないけずせんと教えたってくださいよ」

と言って笑いかけてやれば、また顔を赤らめて、

「やって、柔造やったら気持ち悪いって言うで?」

「柔造が気持ち悪いって言う夢が、坊は嬉しいんですか?」

「・・・おん・・・」

「ますます気になりますやん」

「内緒や!」

そう言うとぷいと外方を向いてしもた。

俺が気持ち悪くて、坊に嬉しい夢・・・・。

俺がした口付けをもし夢だと思っていたなら?
それをもし、坊が嬉しいと思っていてくれていたなら?
俺の気持ちなど知らない坊はきっと、男と男がするキスなど気持ち悪い物だと思っているのかもしれない。

なんて、そんな事など無いか、と苦笑して朝食の準備をして顔を上げれば、自分の唇を指でそっとなぞり嬉しそうに微笑む坊の顔が見えた。

「・・・もしかして、キスする夢やったり?」

やはり気になるので、少し鎌を掛けてみた。

するとピタリと動きを止め、坊の顔が見る見るうちに真っ赤になった。


(あ・・・・当たり・・・や)


「そっ・・・そんなんとちゃうしっ!!!なんでもええやん!!!」

と、言い放ち顔を洗いに洗面所へと駆け込んで行く。


当たり・・・

当たりと言うことはどう言うことや?

やはり昨日の『すき』は俺を『好き』だと言う『すき』なのか?

そうだとしたならば・・・・・



今晩、夕食を取った後、問うてみてもいいだろうか?




**



夜。
いつものように夕食を終え、風呂に入るまでの少しの憩いの時間。

今までは遅くに帰ってきていたものだから、飯を食えば直ぐ風呂に入り、坊は勉強のために直ぐに部屋へと入っていた。
けれど最近では少しだが、坊の話を聞いてあげなければと、時間を設けていたのだ。

坊は食事後も今日あったことや、気になること等を良く話してくれるようになった。

今ここで、朝の夢の話を聞かなければ、きっと一生このタイミングを逃すのではないだろうかと思った。

運が良ければ俺の思いを告げることが出来るかもしれない。
もしも坊の気持ちが、俺に向いていたとしたならば・・・・。

こんな幸せなことはあるだろうか?
焦がれて焦がれた人が、俺を好きだと言ってくれたならば、こんな幸せなことはあるか?

そんな人と想いが通じ合って、二人で生活が出来る事になれば・・・・。
まるで夢にまで描いたそんな甘い話が現実になるのであれば、どんなに幸せなことか。


坊が見た夢は、きっと俺が昨夜してしまった事に違いない。
もし違ったとしても、それならばそれで冗談で済ませばいい。

ソファに腰掛け、二人で他愛ない話をした後、俺は意を決して坊へと今日の夢の話題を振った。

「坊・・・」

「ん?」

「今日見た夢・・・なんですけどね」

また、坊の顔がかぁっと赤くなる。

「なんや・・しつこいなぁ・・・それがどないしたんや?」

「それ、どんな夢やったか聞かせてくれませんやろか?」

「せやから内緒やって言ってるやろ!」

「どうしても聞きたいんです」

「なんでやねん」

「キスした夢なんですやろ?」

「・・・・・せやけど・・・」

「柔造が気持ち悪いって思うて言ってはりましたよね?」

「・・・・せ・・やけど・・」

「もしかして、柔造とキスした夢ですか?」

顔を更に赤らめ、視線を泳がせる。

「答えてください、坊」

答えなど聞かなくても、この坊の状態を見れば答えを言っているようなものだ。

「柔造が坊にキスしたら嬉しいんですか?」

耳まで真っ赤にして俯いてしまう。
ああ、ホンマにかいらしい・・・・
このままかぶりついてしまいたい。

「せやったら、今柔造がここで坊にキスしたら、嬉しいですか?」

言うと同時に、坊が真っ赤な顔をバッと上げて、俺を見た。

「な・・・に、言うてるん?」

「せやから、柔造が今、坊にキスしたらどう思いますかって聞いてるんです」

「そ・・・んなん・・・」

「柔造が、坊の初めてのキスの相手になりたいって言ったら、どう思いますか?」

「・・・なんでそないな事言うのんや・・・?」

「それは・・・」

坊の目が俺をじっと見詰めて、答えを待つ。
俺の発する言葉が吉と出るか、凶と出るか・・・。



俺は今、人生最大の岐路に立っているのだ。




「坊が・・・」



これを言ってしまえば、全てが変わる。




「好きで好きで、愛しくて仕方ないからです」






坊の目が大きく開いて、俺をじっと見詰めた。





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あきゅろす。
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