パロ
ずっといっしょ 15(柔勝)
≪柔造side≫
「なぁ、東京ではな、友達同士でもキスするのが普通ってホンマ?」
「・・・・はい?」
夕食時、突然坊がそんなことを言い出した。
「いやな、今日友達と話とってな、そんなこと言われたから」
「友達って・・・あの双子ですか?」
「せや」
普通に、今日あったことを淡々としゃべるように会話は続いているが、内容はなんだか胃の辺りがもやもやするようなそれ。
一体その双子は坊に何を言うてるんや。
この間のプリクラの件と言い、あること無いこと吹聴しくさってからに。
「そんな東京言うたかて、海外ちゃいますし京都と大差ないんですよ?友達とキスが普通やとかあるわけ無いでしょう」
「やっぱそうやんなぁ。俺からかわれたんやろか?」
「そうですよ・・・って・・・まさかしたりしてません?」
まさかとは思うけれどあの双子ならと、大いなる不安感が一気に攻めてきた。
まさか、まさか、冗談じゃない。
「してへんよ!!そんなん!!!」
「ですよねぇ」
ほっとその言葉に胸を撫で下ろす。
ホンマありえへん!
一体そいつらは何がしたいんや。
坊のことをからかって遊んでるだけなんか?
それはそれで腹が立つ。
でも、それ以上の何かがあって坊にそんな事を言ってるんか?
それやったら、そんな奴等を側に置いとくのは危険すぎるやないか!
坊の貞操の危機やっ!!!
こんなに四六時中堪えてる俺の目の前から掻っ攫って行こうやなんて、図々しいにも程があるっ!
ありえへん。
ありえへん。
なんて事を考えていると、坊がポツリと呟いた。
「そんなん・・・初めてくらいはちゃんとした人としたいやん」
「初めてって・・・・まだしたこと無いんですか?」
「・・・・ないよ。なんやねん。悪かったな」
あ、坊が馬鹿にされたと思って、ぷいと外方を向いてしもた。
「ちゃいます!!ちゃいます!!悪気あって言ったんちゃいますよ?別にそんなん早いからってええ事あるわけや無いですし」
慌てて、弁解をするけれど、時既に遅し。
坊の目付きが変わってる。
「・・・柔造は初めていつなん?」
「えっと・・・・中一?」
「説得力無いわ」
「あ、いや、せやから・・・」
「同じクラスの子かなんか?」
「え・・・あ・・・3つくらい上の人やったかな・・・」
「ふぅん」
「坊?」
眉間に皺を寄せて、じっと俺の方を見てくる。
あかん、なんや機嫌損ねてしもた。
「ま。別にどうでもええけど」
「どうでもええって・・・」
聞いといてそれって。
興味ないかも知れませんけど、なんやそんな風にストレートに言われるとちょっとショックや。
「ごちそうさん。風呂行ってくる」
「坊・・・」
ガタンと席を立って、皿を重ねてキッチンに持って行くと、部屋に着替えを取りに行き、すたすたと風呂場に行ってしもた。
なんでそんな機嫌悪なってしもたんや。
まぁ、これくらいの時期はやっぱりそう言うことに興味も持ち出して、早い遅いで競い合ったりはするもんやけど。
坊はそう言うことには疎そうやし、あんまり興味もないとは思っていたけれど、やはり男やっちゅうことか。
やっぱり可愛らしい女の子と、キスするのが憧れやったりするんかな?
せやけど、今のまんまやったらそんな可愛らしい子とする前に、あの双子にされそうやないか。
そんなん・・・。
それやったら・・・・。
俺が先に・・・。
そうや。そんな双子にじゃれ合ってる隙やなんかに、うっかり唇を奪われてしまうくらいなら。
坊が寝てる間にでもキスをして、例え坊のカウントに入らなくても、俺が、俺だけが一番最初であったことを分かっていれば。
坊がこれから初めてを誰かと経験したとしても、俺の中では坊の初めては俺と言う優越感。
バレさえしなければ大丈夫。
そうだ。
バレさえしなければ。
ならば今夜にでも決行してみるか?
貴重な坊の初めてを誰かに奪われてしまうくらいなら。
胃がきりきりする程にその瞬間を羨み、焦がれるのであれば。
俺が奪ってしまえば良い。
**
そして、深夜。
坊がぐっすり寝入ったであろう時間を見計らって、そっと物音を立てず部屋へと忍び込んだ。
すやすやと規則正しく聞こえる寝息。
暗がりに目が慣れるのを待ち、そっとベッドへと近付く。
カーテンの隙間から漏れた街灯と、月明かりに照らされて見える寝顔はまだまだあどけなく、幼さを残していた。
(坊・・・・)
心の中で名を呟いて、ゆっくりと坊の頭元に手を付いた。
ギシリと軽い音がしたけれど、起きる気配はなかった。
(失礼します・・・)
どうせ叶う事の無いこの想い。
初めてのキス一つで満足しようじゃないか。
なんてきっと恐らく無理な話だろうけれどと、自嘲する。
けれど・・・それでも・・・・。
(坊・・・堪忍・・・)
ゆっくりと焦がれて焦がれたその唇に、自分のを重ね合わせた。
少し開いていた唇に、ほんの少しだけ舌を差し入れ、その歯列をなぞる。
それから、唇を軽く食むと、坊がぴくりと動いた。
(しまった・・・・!!!)
「ん・・・・・じゅ・・・ぞ・・・?」
(・・・・っ!!!バレてしもた?!)
慌てて顔を離し、体を起こそうとした瞬間、ぐいと坊の腕に首を抱き締められ、とろんとした瞳で見上げられた。
「すき・・・・」
(・・・え?)
「もっと・・・・して・・・」
(・・・・っ!!!!)
そう言ったかと思うと腕が俺から離れ、とさりとベッドの上に落ちた。
見れば瞳は閉じられ、また元のようにすやすやと寝息を立てている。
(・・・・っ!!!なんや・・・!!!今のっ?!)
口元に手を当て、ゆっくりと音を立てずに数歩下がり、その場に腰が抜けたようにとすんと座り込む。
ドクンドクンと心臓の音が煩い。
今、坊はなんて言うた?
一体今何が起こった?
俺の聞き間違いか?!
いや・・・でも・・・確かに・・・
『すき・・・・』
って聞こえた気がした。
どう言う事や?!
待て、落ち着け!!!
アカン!!!
動悸が止まらん!!!!
とりあえず、部屋に・・・・帰ろう・・・。
それから考えよう。
そして自室のベッドにばたんと倒れこみ、ドクンドクンと鳴り響く心臓をBGMに、俺は朝まで先程の一連の事を何度も何度も繰り返し再生してはその意味を考え続けた。
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