パロ
ずっといっしょ 14(勝←双子)
≪雪男side≫
僕たちが彼の反応を楽しみに学校に行くようになるのはそう時間はかからなかった。
褒めれば照れる。
触れれば赤くなる。
笑いかければにこりと微笑んで返してくれる。
意外に世間知らずなのか、それらしいことを言うと素直に信じてくれたり。
別にからかってる訳じゃないのだけれど、彼の素直なそんな反応がとても楽しかった。
休み時間はほとんど彼と過ごした。
昼休みになると兄さんも一緒に昼食を取ることも多くなった。
「なぁなぁ」
「なに?」
「いつもめっちゃ美味しそうな弁当やけど、おふくろさんめっちゃ料理上手なんやな」
なんて、僕ら二人のお弁当をじっと見ながらそう言った。
「違う違う。これ俺が作ってんの!」
と、満面の笑みで兄さんが応える。
美味しそうだなんて言われてかなりテンションが上がってるらしい。
「え!!!!嘘やん!!!」
「嘘じゃねぇよ!!母さんいねぇから俺がいつもちゃんと作ってるんだって!」
「え・・・・?おふくろさん居れへんのん?」
と、勝呂君は申し訳なさそうな顔をした。
「堪忍・・・」
「ううん。いいんだよ。母さんは僕らが産まれた時に亡くなってるから、あんまり母親って言うのがわからなくて、そんなに気にならないんだ」
「そうなん?」
また申し訳なさそうな顔をする。
ああ、その表情は余り好きではないなぁ・・・なんて思って、違う話題を振る事にした。
「勝呂君のお弁当は?やっぱりお母さんが作ってるの?」
「え?ちゃう」
「じゃぁ自分で?」
「ちゃうちゃう。一緒に住んでる人が作ってくれてるんや」
「一緒に住んでる人?」
「おん」
「あれ?家族でこっちに引っ越してきたわけじゃないんだ?」
「ちゃうちゃう。俺一人で来たんやで?」
「え?じゃぁ今どこに住んでるの?寮じゃないよね?」
「う〜〜ん・・・なんて言うか・・・親戚って言うか、幼馴染って言うか、なんや身内っぽい感じの兄ちゃんの家」
「へぇ。じゃぁそのお兄さんと二人暮し?」
「せや」
「で、そのお弁当はそのお兄さんが作ってくれてるんだ」
「おん・・・せやけどなぁ・・・・」
「なに?」
「なんやめっちゃ仕事忙しいみたいでな、ほとんど家に居れへんねん。せやのに、こんなん作ってもらうん、なんや悪ぅてなぁ・・・」
「へぇ・・・」
「自分で作れたらええねんやけど、俺料理したことないし。その兄ちゃん心配性やから、冷凍もんやとかご飯詰めて持って行くだけやとかやったら絶対許してくれへんやろし・・・」
「ふぅん・・・」
「だったらさぁ」
今まで黙々と弁当を食べながら聞いていた兄さんが、ピタリと手を止めてこう言った。
「俺が作ってきてやろうか?」
「え?」
「別に二人分作んのも、三人分作んのも材料変わりねぇし」
「うん・・・それは良いかも」
「え!!せやかて、そんなん」
「味が心配なら・・・」
そう言って、僕のお弁当から玉子焼きを摘むと、勝呂君の口元に持って言った。
「ん。食ってみろよ」
(え!ちょ!僕の玉子焼き!)
と言う前に、ぱくっと勝呂君が食べてしまった。
ああ・・・・僕の玉子焼きが・・・・
「んまい!!!」
見ると勝呂君はとてもきらきらした顔をしていた。
あ・・・なんか可愛い・・・仕方ない、今のはそれでチャラにしよう。
「だろ?」
「え!!これホンマにお前が作ったん?!嘘やん!!!」
「だからお前、それ本気殴るぞ」
「やって信じられへん!」
「な?だから作ってきてやるよ」
「せやけど金払われへんし、ええよ」
「金なんていらねぇって!材料費ほとんど変わらねぇんだし!それよりさ・・・」
「なんや?」
「俺の弁当食べて、勝呂が美味いって言ってくれた方が俺、嬉しいし」
「え・・・そうなんか?」
「おう!な?だから作ってきてやるよ」
「ほんなら・・・・頼んでもええ?」
「おう!任せとけ!!!」
そんなこんなで毎日兄さんは3人分のお弁当を作ることになった。
その日から兄さんのお弁当作りに更に気合が入ったのは、やはり勝呂君のせいだろう。
まぁ、僕も毎日勝呂君が美味しそうにご飯を食べる姿が見れて満足なのだけれど。
**
とある日、勝呂君が風邪で学校を休んだ、
毎日毎日休みの日以外はずっと会っているから、勝呂君がいないととても寂しい気分になった。
「勝呂居ねぇとつまんねぇなぁ。あいつ、熱出すほど疲れてたのかなぁ・・・」
「まぁ、東京と京都じゃ色々なことが違うだろうしね」
「疲れてるなら疲れてるって言えばいいのに」
「そうだね」
「水臭ぇよなぁ」
「うん」
「明日は来るかなぁ?」
「夜にでもメールしてみる?」
「おう。あ、帰り買い物付き合えよ」
「何買うの?」
「明日の弁当の材料!ちょっと元気になるもの作ってやりてぇじゃん」
「ああ、そうだね!」
「あれだ、お菓子とかも作ってやろうかな!」
「喜ぶかな?」
「ぜってぇ喜ばせてみせるって!」
「うん」
僕たちの生活はいつの間にか勝呂君の事を中心に考えて回るようになっていった。
***
その週の休み明けの日、勝呂君の携帯を見ると今まで付いていなかったストラップが付いていた。
少し気になって、机の上に置いてあったストラップにそっと触れてみた。
「お台場行ったの?」
「え?ああ、これ?」
そう言って、勝呂君は携帯を持ち上げてストラップをぷらりとさせる。
「おん」
「勝呂君って携帯になんか付けるんだ。そんなイメージなかった」
「おん・・・ああ・・・いや、俺もな、付けるつもりはなかったんやけど、なんや成り行きっちゅうか、なんちゅうか・・・」
そう言って、ちょっと嬉しそうで、でも恥ずかしそうにストラップを見詰めた。
・・・・なんだろう。
なんだかとても引っかかる。
「お台場って一人で行ったの?」
「いや、一緒に住んでる人と」
「例のお兄さん?」
「おん。東京案内まだしてへんかったからって、連れてってくれてな」
「ふぅん」
「その人ホンマ凄くてなぁ」
「・・・・・」
「映画とかなんやリザーブとかしたりな、レストランとかもしっかり予約したりとかしてな、なんやごっつそつなく案内してくれてなぁ」
勝呂君の顔が今までに見たこと無いくらいに、柔らかくて嬉しそうな顔になった。
あ・・・なんだかすごくイライラする。
「お兄さんってどんな人?」
「ん?せやなぁ・・・・カッコええ人やで?頭もええし、スタイルもええし、優しいし、モテるし、昔っから憧れやねん」
そんな嬉しそうに誰かの話をするのなんて見たことない。
ああ、なんだろう、イライラするし、胃の辺りが何だがグルグルする。
お台場でリザーブしてそつなく案内とか、それにそんな嬉しそうな顔。
「もしかして、このストラップってお兄さんと一緒?」
「え???・・・・・・なんで・・・・わかったん?」
そう言って、顔をいつも以上にかぁぁっと真っ赤にさせて恥ずかしそうに言った。
ああ・・・・・そう言うことか。
憧れの人・・・ね。
「勝呂君はお兄さんのことが好きなんだね」
「え?お・・・おん・・・ええ人やし、す・・・きやで?」
真っ赤な顔はずっと持続状態。
恥ずかしそうに言う姿は、いつも僕たちに見せてくれているそれとはまた違っていた。
ああ、イライラの正体が分かった。
これは嫉妬だ。
勝呂君が僕たち以外のことを好きだと言うのを、とてつもなく不快に感じた。
それに多分きっと・・・・
話を聞いていると、好意を抱いているのは勝呂君だけじゃない気がした。
付けるつもりも無かったストラップがお揃いだなんて、きっと相手にプレゼントされたかなにかなんだろう。
男同士でお台場をエスコ−トしてお揃いだなんて。
そんなのおかしい。
何だろう、その人。
見たことも会ったことも無いのに、とても腹が立つ。
「ねぇ勝呂君?」
「なに?」
「僕のことは好き?」
「え?おん・・・好きやで?」
「そっか。ありがとう。僕も勝呂君が好きだよ」
「お・・・・おん・・・おおきに・・・」
顔は赤いままでも、さっきほど恥ずかしそうではない。
なんだか反応がつまらない。
これはやっぱりその人から勝呂君を取り上げなきゃなぁ、なんて、心の奥底でぼんやりと思い始めた。
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