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パロ
ずっといっしょ 12(柔勝)




≪柔造side≫




坊と次の休みに約束通り出掛ける事になった。

二人で出掛けるだなんて、一体いつ振りだろうか。
確か坊が5年生の頃が最後だったはず。
まだ大学生だった俺は、その頃は良く坊と出掛けていた。

ただ坊が楽しくてニコニコしてくれるのが嬉しくて、あちこち連れて行ってあげた。
坊が喜ぶであろうプランを練って、笑顔にさせるのがとても楽しかったのだ。
それが俺に出来る事であり、それが俺の欲求を満たしてくれた。


坊の最大限の笑顔を引き出せるのは俺だけだ、なんて自負していた程に。


だがある日、金造と廉造と坊が3人で楽しげに話しているのを偶然見かけた。

そこで見た坊の笑顔はまた違っていた。
3人で笑いあって、目じりに涙を溜める程。

俺に向ける顔とはまた違うその表情に、正直ショックを受けた。

俺が居ないところで、あんな風に笑うのかと。
俺に向けない笑顔を、違う誰かに向けるのかと。


ぐっと腹の中で何かが渦巻いた。


あの笑顔は俺だけのものなのに。坊が笑いかけるの俺だけであればいいのに。
俺だけが坊を喜ばせて、いつだって俺だけが坊の最高の笑顔を引き出せるはずなのに。


そんなことが一瞬にして脳内を掠め、何かがおかしいことに気が付いた。


違う。
笑顔が見たいだけじゃない。


俺は、坊を独占したいんだ。

と。


それからと言うもの、坊が誰と話しているのを見ても、ぎりと心の奥の方で何かが渦巻いた。


そんな感情のせいで一度泣かせたこともあった。
くだらない大人気ない感情。


嫉妬だ。


『どうせ柔造といたかて楽しないでしょ?せやったら近付かんといてください』

『何でそないなこと言うのん?なんで怒ってるん?俺何かしたか?』


俺を見上げて目にいっぱい涙を溜めて、坊が悲しそうな顔をして必死に俺のシャツに縋り付いてきた。
散々可愛がっていつも一緒に居ったんやから、坊にとっては酷い突き放した言葉やったと思う。


泣かせたいわけなんて無い。
いつだって、ニコニコと俺の前で微笑む坊が大好きやったんやから。


せやけど、それ以上の感情も芽生えてしまった。



ああ、喰ろうてしまいた。




抱き締めて、逃げられんようにして、俺の事ばっかり考えて、俺の傍から離れないようにして。



こんなん・・・・・
こんな感情・・・・
アカンやろ・・・・?



それから少しづつ距離を取って、俺はここに逃げてきた。


あの日。
京都から旅立つ日。

坊は言った。


『あの時のあれは・・・・俺が寂しくならんように言うたんか?』

『もうずっと前から、東京行くって決めてたん?』

『せやから、近付くなって言うたん?』




そんな坊の頭をそっと撫でて、


『それは内緒です』

『俺のこと嫌いになったんちゃう?』

『柔造がですか?・・・・そんな事あるわけないですやろ?そんな事ずっと思ってましたんか?』

『柔造・・・・』

『柔造はいつだって、坊のことが大事ですよって』

『また帰ってくる?』



その問い掛けには、ただ笑顔を作っただけで応えた。







そして、今現在。
やはり俺は坊の笑顔を見たくて、坊が喜ぶ最大限のプランを練っている。


ここには誰も邪魔をする奴等はいない。


俺が、俺だけが坊の笑顔を引き出せる。
また昔みたいに、坊を喜ばせてやることが出来るのかと思うとワクワクした。



ただ想定外だったのは、坊の笑顔と発する言葉の破壊力と、俺の3年のブランク。

そして、天然純粋培養の無垢な精神。



それらは全て計算外だった。




たちまちにして俺の理性は崩壊寸前へと追いやられる羽目となった。




**




「東京に来てな、今日がいっちばん楽しかった!!!ありがとうな!」

ああ、そんな笑顔を見れてホンマ幸せです・・・。

「それは良かったです」

「せや、あんな柔造」

「なんですやろ?」

「今日のお礼にな・・・・これ・・・・」

手渡されたのはシンプルな根付ストラップ。

「そんなん付けるか分からんかったけど・・・これぐらいシンプルやったらどないやろかと思って・・・」

「柔造にわざわざ買うてくれはったんですか?」

「こんなんくらいしか礼出来へんくて、堪忍な」

「いえ、めっちゃ嬉しいです。ありがとうございます!!」

坊が俺のために何かしてくれはるってだけで、嬉しくて笑みが零れる。

「ほんなら、俺、風呂行ってくる!」

「はい」

そう言ってくるりと向こうを向いた、坊のズボンのポケットから何かがぽとりと落ちた。
それを拾い上げて見ると、俺がたった今もらったばかりのストラップと同じもの。

「坊・・・・?これは?」

「え?」

振り返って俺の手の中にあるものを見た途端、坊の顔が真っ赤になって慌てて俺の手からストラップを奪い取った。

そしてバッと、後ろ手に隠す。

その反応に、何かくつりと嫌な感情が浮き上がった。
そして、いつかのあの時を思い出す。

俺だけだと思っていたことを、他の誰かにするつもりなのだろうか・・・と。


「それ・・・誰かにあげるんですか?」


ああ、嫌な感情だ。


また浮き上がる、くだらない感情。


「ちゃ・・・・ちゃう・・・」

「ほんなら・・・」

「お・・・・」

「お?」

「おそ・・・・ろい・・・・」

「え?」

「あ・・・いや・・・・あ・・・・なんやお揃いのもんが欲しくて・・・・」

「おそろい?」

「おん」

「え?」

「やって・・・なんや・・・柔造と同じもん持っときたくて・・・・」

真っ赤な顔を更に真っ赤にして言葉を発する。

すぅっと消えて行く俺の湧き上がったくだらない感情。
坊の発する言葉の意味を必死に脳内で繋ぎ合わせる。

「えっと・・・おそろいって・・・」

「堪忍!!こんなんきしょいやろ?!嫌やったらそれ使わんでええで?ホンマは内緒でお揃いのん持っとこうと思ってたんやけど・・・」

おそろい・・・・お揃い・・・ペア?
ペアルック?
同じもの?
俺と同じものを持ちたい?
内緒で?


恥ずかしいから内緒でこっそり俺と同じものを持っていたかった?



なんやその可愛らしい発想は!!!!!!



「・・・・・・・・」

「柔造?」

もらったストラップの袋をばりっと開けて、迷わず携帯に付けた。

「ほんなら坊も、今すぐお揃いにしてくださいっ!」

「え?え?おん」

坊もガサガサとストラップを取り出して、少しもたつきながらも携帯に付けた。


「お揃いですねっ!」


そう言って、にこりと微笑むと、坊の真っ赤だった顔がぱぁぁっと明るくなった。

「お・・・お揃いやっ!!!」

そして、嬉しそうに満面の笑みを零した。




ああ、やっぱり坊の笑顔が一番やっ!




「柔造!」

「はい?なんです?」

「おおきに!!!」

そう言うと、俺の方に腕が伸ばされ、がしっと抱き締められた。


「!!!!!!」


そして、ぱっと離されて、


「風呂行ってくるな!」

「は・・・い」




それから朝までの俺の記憶は無い。






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