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パロ
ずっといっしょ 9(柔勝)




≪柔造side≫




財布と携帯だけを持って出てきてはたと気が付く。


(まだどこのドラッグストアも開いてないやん・・・・・)



マンションの前で思わずガクリと肩を落としてしまった。

せやかて、あの状況では飛び出す他なかったんや。
あんな顔して、あんなこと言われたら・・・・。


『俺、柔造と一緒に居れるんやったらどこでもかまへんよ』


そう、頭に響く坊の声。
はにかむように微笑んで、俺のことをやんわりと見詰めて。

思わず抱き締めそうになった。

そりゃ昔は・・・坊が小さい頃は、何かあったらかいらしいからすぐに抱き締めてはいた。
でもそれは子供やったから通じる話で。


もし、今俺が抱き締めたら坊はどない思いはるやろか?


昔を懐かしんで、俺の行為を甘んじてくれるやろか?
それとも、嫌がって敬遠してしまうやろか?

3年のブランクは痛いな・・・・。

せやかて、きっと抱き締めてしまったら、多分・・・・抑えが利かへんようになってしまう気がする。


俺の理性なんて、そんなに強いもんやない。
むしろ今にも崩れそうで、怖くて怖くて仕方が無いのに。



とぼとぼと朝の通勤や通学途中の人の波を越えて、近くの公園に足を踏み入れる。
とりあえず時間をつぶそうと、缶コーヒーを買って、ベンチに腰を下ろした。

ぼんやりと空を眺め、自分の愚かさに苦笑した。


昨夜も彼女を抱いていた時、思い描いていたのは坊やった。


こうやって触れているのが坊であればいいのに。
俺の下で鳴いているのが坊であればいいのに。
俺に触れているのが坊であればいいのに。


そんな薄汚れた感情。


こんな奴が一つ屋根の下に住んでるやなんて知ったら、きっと怖がって遠のいて、俺のことなんか軽蔑してしまうに違いない。

坊にとって俺は兄であり、親代わりであり、この東京で唯一頼れる人物なのだ。

そんな俺が暴走してしもたら、坊はどないなってしまうんや?


ああ、でも・・・・・


めちゃくちゃにしてしまいたい。
俺のモノにしてしまいたい。
あの微笑を俺だけに向けて、いつも俺だけの事を考えて、俺にべったり甘えて寄り添って、俺の名だけを呼べばいいのに。

二人しか居ないあの密室やったら、坊をどうにかしてしまっても、誰かに知られることなんて無いのに。
いっそ鎖で繋いで、もう何処にも出さんとこか?
そしたらなぁんも考えんで、坊だけを愛して、愛して、愛し尽くしたるのになぁ。


きっと坊は優しい人やから、そんな俺を哀れんで、慈しんでくれるわ。
俺は卑怯やから、坊のそんな優しさに付け込んで、自分の快楽を得るんや。


なんて考えに至って、くっと失笑した。


ホンマ、狂えたら楽なんやろになぁ・・・・。



「坊・・・・」


小さく呟いて、空をまた見上げる。
少し高くなった太陽に、俺のこの阿呆な頭焼き尽くしてくれんかなぁ等と、くだらない事を考えた。


「さてと・・・・」

ベンチから腰を上げ、うーんと伸びをする。

そんな阿呆な事ばっかり考える前に、今は坊の体調に気を使わんと。
早く薬を買って家に帰ろう。

今日は1日坊に付いていてやると決めたのだから。







****



「で、随分遅いなぁと思たら、何をそないにようさん買うて来たんや?」

「いや・・・まぁ、考えたら色々いるんちゃうんかなぁと思いまして」

「何が入ってるん?」

「ええっとですねぇ・・・」

がさがさと袋から中に入ってるものを取り出して並べて見せる。

「まず、風邪薬でしょう・・・」

「おん」

「それから、氷枕ですやろ」

「おん」

「おでこに貼る冷たいのんと、それから風邪の予防にうがい薬とビタミン剤と・・・」

「・・・・で?」

「風邪ひくっちゅう事は怪我もしはるんちゃうやろかって、絆創膏と傷薬と消毒液と、シップと包帯と・・・」

一個、また一個と俺は袋から取り出してどんどん並べていった。

「怪我しはって骨でも折ったらあかん思て、カルシウムのタブレットと、勉強しすぎで疲れた目にも優しいブルーベリーのサプリメントと・・・」

「・・・へぇ」

「目薬と、目を休めるアイマスクと・・・・」

「・・・・・・」

「朝とか走りはるんやったら、綺麗な筋肉作りにええプロテインと、疲れた体にはやっぱり風呂やって、入浴剤と・・・」

「なぁ・・・柔造?」

「はい?なんですやろ?」

坊が並べた物をじーっと見ながら、俺に声をかけ、

「これ買い過ぎとちゃうやろか?」

と、顔を上げた。

「え・・・・?そうですか?」

実のところまだまだ買い足りないと思っていたのだが。

「ありがたいんやけどな・・・・俺、そないに消費出来へんで?」

「いや、せやけど、用意周到って事もありますし」

「そうかも知れやんけど・・・」

「買いすぎですかねぇ?」

「多分買いすぎやと思う」

坊が苦笑しながらこちらを見た。
ふむと、腕を組んで考えてみるが、やっぱり必要なものばかりだと思う。

「せやて、ずっとここに住まはるんやったら、これくらい必要でしょ?」

と言うと、坊は俺の顔を見てくすりと微笑んで、

「ずっとここにな・・・・そうか・・・・・そうかも知れんな」

と返事を返した。


・・・・・アカンやろその笑顔。


何でそんな柔らこう笑いはるんや、このお人は。
ほんに可愛らしいてしゃぁないやないか。


「ほんなら、とりあえず風邪薬もろてもええ?」

「ああ!!そうですね!はよこれ飲んで寝はらへんと!」

「おん、おおきに」





ずぅっとこんな笑顔を独占できたらいいのに。

俺の儚い願いは叶わへん。









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