[携帯モード] [URL送信]

ごちゃまぜ
家政婦の勝呂くん 2(柔勝)



書斎に籠もって数時間。
かなり仕事に没頭していたが、小腹が減り、集中力が途切れ我に返った。
余りの物音の無さに、何時も一人で仕事をしているくらいの集中力だった。

大体家政婦が来ている時は、家事をする物音が立つので、何時もより集中出来ない方が多い。
なのに、今日は余りにも静か過ぎる。


まさか仕事もせずに逃げ出した?!


そう、不信感に駆られ、書斎の扉を開ければ、とても良い匂いが漂ってきた。

「?」

匂いをする方を見れば、先程の彼がキッチンに立つ後姿が見える。
逃げ出したわけではなく。大人しく料理を作っていただけなのか?
そう思い、足を一歩踏み出そうとして気が付く。


(なんやこれ?!)


フローリングが何やらピカピカと輝いているのだ。
そっとしゃがんで、指で擦ってみれば、キュキュッと良い音が鳴った。

磨いたんか?これ???

それから、視界を回しベランダも見てみれば、きちんと等間隔に干された洗濯物。
ただ干してあるだけなのに、遠巻きに見ても『綺麗』と称賛したくなるほどだ。

視界を戻し彼の方を見れば、随分と料理に没頭しているようで、まるでこちらには気が付いていない。


(一体何もんなんや?!)


とにかく今の段階では、掃除も、洗濯も以前に来ていた家政婦よりも数段も上である事が分かった。
料理も朝一度食べた感じでそれなりには出来る事は分かっている。

そっと彼の方に近付いてみるが、やはり随分と没頭しているようでこちらの気配に気が付かないようだ。

横から見てみれば、えらくしかめっ面をして鍋に向かいおたまで煮汁を掬っている。
それから皿に煮汁を少し垂らし、味見をすれば、その表情は一気に緩んで、ふわりとにこやかな物になった。

「上手い事いったんか?」

そう、思わず声を掛ければ、

「うわぁっ!!!!」

と、身体全身をビクリと跳ね上げ、それはそれは大層驚かれた。

「あ、堪忍」

料理作るのにどれだけ集中してるんや。実験でもしてるみたいやな。

「あ・・・・や・・・え・・・?もう、昼飯の時間ですか?」

目を見開いて、ものすごく驚いたと言う表情をしていたけれど、一つ呼吸をすると、少し戸惑った表情に変わった。

「いや、ちょっと早いんやけど、なんや小腹が空いてきて集中出来んようになってしもてな」

「そうなんですか・・・・あ、でも、もうちょっと時間ある思て、まだ味が染み足りへんのですけど」

「味見したい」

「熱いですよ?」

「かまへん。あー」

「え?」

「あー」

彼の反応を見てみたくて、口を開けて待ってみる。

「えっと・・・・」

そう言うと戸惑いながらも、鍋の中から肉を箸で少し摘み、先程の皿に載せ、ふーと息を掛けて冷まし、もう一度箸で摘んで俺の口の中に放り込んでくれた。
口の中で咀嚼すると何とも甘辛い味の染みた、良い肉の味がした。

「美味いで?もう食べれるんとちゃう?」

「そうですか?」

「めっちゃ腹減ってきた。食べたい」

「これで志摩さんがええ言うんやったら、ええですけど・・・」

「ほんなら飯にしよ」

笑いかけてやると、彼もほんの少し柔らかい表情になった。

椅子に座って待っていてくれと言われたので、大人しく彼の様子を見ながら待機する。
紺色のエプロンと、髪を上げる赤いカチュウシャを付けている姿がなんだか可愛らしい。

見るからに一生懸命にご飯をよそい、俺の前に、肉じゃが、焼き魚、おひたし、ご飯と置いていく。
不器用なのか、器用なのか良く分からない動きをする。
お茶を置いて、全てが出し終わったのか、「どうぞ」と勧められた。

「自分は?食べへんの?」

「俺も一緒にええんですか?」

「ええよ。一人で食べるより一緒に食べた方がええやろ?それに、自分かて仕事したんやから腹減ってるやろ?」

「・・・せやったら、すんませんけど、一緒にさせていただきます」

遠慮がちにそう言うと、彼の鞄の中からガサガサと何かを取り出し持って来た。

「パン?」

見れば焼きそばパンともう一つ惣菜パンと、ペットボトルの水。

「はい」

「もうおかず残ってへんの?」

「作ったやつですか?」

「せや」

「一人分しか作ってませんし、お客様のんもらうわけにはいかへんですし・・・」

「ふぅん・・・せやったら今度は二人分作ったらええよ」

「今度?」

「今度」

「?」

こちらの言ってることが理解できないようで、きょとんとして俺の目を見詰め返された。
意外と色んな表情するんやな、と思う。

「気に入ったから、またおいで」

『今度』の意味を分かるように砕いて告げる。

「え?せやけど、俺は今日○○さんの変わりなだけで・・・」

「会社には俺から言うとくわ」

「せやけど・・・」

「客のニーズに応えるのがサービス業やろ?アカンってことはないんとちゃうか?それとも来られへん理由がある?」

「いや、学校も夏休みやから、来れん事はないですけど」

「学生なん?」

「大学生です」

「お小遣い稼ぎ?」

「いえ、学費とか、色々勉強費とか・・・・」

「そうかぁエライなぁ。学校はどこなん?」

「京大です」

「・・・・頭ええんやな・・・せやのに、なんでこないな仕事なん?」

「掃除が好きなんで」

「へぇ・・・せやから床がこんなにピカピカなんか」

「ちょっと汚れてるとこあったから、気になって拭いとったらつい・・・」

「料理も好きなん?」

「好きっちゅうか、友達に教えてもろたから何か役に立たへんかなって」

「友達って女の子?」

「いや、男です」

「ふぅん・・・彼女は居るん?」

「?いや、居ません」

「週何回くらい仕事入ってるん?」

「3〜4回です・・・」

「じゃぁ週3回おいで」

「え?」

「他にどっかお得意さんで入ってるところあるんか?」

「いえ、まだそんなんはないですけど・・・」

「一々容姿の事説明するのも面倒やろ?」

「それは・・・まぁ、そうですけど」

「嫌か?」

「え?」

「うち来るんは嫌?」

「嫌とかそんなんは・・・」

「ほんなら決まりな」

「え?」

「昼飯食ったら事務所に言うとくは」

「ええ?!」

昼飯を食いながら畳み掛けるように質問をしていき、有無を言わさず決定稿を叩きつける。
ここで話は仕舞いや。

「この魚も良い焼き具合やなぁ」

なんて、身を解して摘んでにっこり笑って見せてみれば、話の流れに納得できない顔をしながらも、

「ありがとうございます」

と、複雑な表情で礼を言った。

うん。
この子はオモロイしええ子や。
俺の直感。



それから昼飯を綺麗に平らげ、彼が皿を下げると、俺はお茶を飲みながら直ぐ様携帯を取り、家政婦紹介所に電話した。


「もしもし?いつもお世話になっている志摩ですけれど・・・・」


彼は茶碗を洗いながら、チラチラとこちらを伺ってはいたけれど、気にしたところで話は変わらへんで?
と、くすりと俺は電話しながら笑みを零した。

案の定電話口からは即OKの返事。

とりあえず、彼の事をべた褒めしといたから、断りようもないのだろう。

これから週3日は俺の所に来てもらう契約になった。





そう、必要最低限の個人情報に、彼にももう一つ伝えて置いた方が良かったかもしれへんで。

と、内心で呟く。


俺は15歳から22歳までアメリカに住んどった、ゲイであると。



多分これが彼にとっては一番最重要な俺の個人情報やったかも知れん。


ま、そんなもん家政婦紹介の登録要項には書いてなどいないけれど。








[*前へ]
[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!