ごちゃまぜ
TEENAGE DREAM 1(柔勝)
俺の名前は志摩柔造15歳。
今年春から祓魔師になる為に、東京の正十字学園と言うところに通うことになった。
立派な祓魔師になれるように、明陀宗僧正血統として、お役目を果たさねばならないのはもちろんのこと、俺にはもう一つの役目があった。
明陀宗座主血統の勝呂竜士様をお守りすること。
小さな頃からまるで兄弟の様に育ってきた、竜士様こと坊の御側でしっかりと共に勉強に励み、坊が傷付かないように最大限の努力をするのが俺の務め。
彼の側で誠心誠意尽くすのが俺の役割なのだ。
しかし、俺が坊をお守りし、尽くそうと思っているのは座主血統という地位があるからだけではない。
俺はずっと昔から、坊の事が好きで好きで仕方がないのだ。
優しくて、真面目で、直向で、頭も良く、いつも誰かの事を考え、人の為に尽くしてくれるお方。
面倒見もよく、温かで、何時だって思いやりや気遣いの心を忘れない立派な方。
しかしながらその実、涙もろく、自分で色々と抱え込んでしまう癖があるのも知っている。
時には無理をしすぎて、ひどい頭痛で臥せってしまうこともある。
だから、俺はこの人の傍に居て、支えてあげたいのだ。
最初の頃抱いていた『好き』は、憧れと、尊敬と、信頼と、この人の側に居れば何故だか安心できて落ち着くと言う、そんな『好き』という感情だった。
そんな純粋な友や、兄弟を思って慕う『好き』という感情は、とある日を境に違う物へと変化したのだ。
中学2年の時。
坊は放課後、誰かに呼び出された。
何時もは何があろうと、俺や子猫丸に何処に行くのかを告げて出向く坊が、何も言わずこっそりと何処かに向かったのだ。
たまたまそれを目にしてしまった俺は、気になって気付かれない様に後を付けた。
向かった先は人目の付かない体育館の裏手。
そこに居たのは1年の時坊と同じクラスだった、わりと物静かな女の子。
そう言えば、彼女は確か坊と係りか何かが一緒で、たまに一緒に居たのを見かけたことがある。
こんな人目の付かないところで、女の子との約束だなんて・・・・。
考えられる事は一つしかなくて、何故だか俺の心臓は鷲掴みにされたように痛くなった。
女の子の声がする。
「ずっと前から好きでした・・・・。付き合ってくれませんか?」
震えるような、泣きそうな声で、彼女は必死に坊に告白をした。
沈黙が流れた。
坊は、なんて答えるのだ?
ばくばくと心臓が高鳴る。
俺の脳内で嫌なシグナルがなり続ける。
嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ・・・・!!!!
坊が取られてしまう!
誰かに持っていかれてしまう!!
俺の坊だったはずなのに!
俺がずっと傍に居るはずだったのに!
俺の坊なのに――――――!!!
坊の答えは小さく呟かれたのか、俺の耳には届く事はなかった。
けれど、女の子がだだっと走っていくのを見て、俺は心底ほっとした。
坊の答えは多分・・・NO・・・だ、と。
じっと陰に隠れた壁に凭れかかり、呼吸を整える。
まだまだ心臓が五月蝿い。
坊も男なのだ。
いつしか誰か好きな人が出来れば、気持ちが何処か遠くへ行ってしまうのかも知れない。
そう考えるだけで、ぞっとして、体中に戦慄が走る。
俺ではない見知らぬ誰かに優しく接し、微笑みかけ、俺よりもずっとずっと近くにその人を置くのだ。
その人物は、俺では手の届かない心に進入して、俺には知ることの出来ない坊の感情を知って、誰よりも支えになる。
・・・・そんな人物など要らない。
誰よりも坊を愛し、誰よりも坊の心を知り、誰よりも支えになるのはこの俺でなければならない。
俺以外にそんな役割など担う人物など他に居てはならない。
俺が坊の何もかもを知る事の出来る人になる。
坊の強さも、儚さも、悲しさも、喜びも、可愛さも、美しさも、汚さも、誰にも見せる事の出来ない全てを、俺だけが知っていればいい!!
そう、その日から俺は思うようになった。
この日以来、今までは特にも気が付かなかったのだが、坊のことを好意の目で見ているものが少なからず居る事を知った。
小学生の頃は、祟り寺の子だとかなんだとか言われ、誰も近付く事など少なかった。
そうやって人に蔑まれて、坊が悲しい思いをしないようにと、俺達で坊を守ると、ずっとずっと3人で一緒に過ごしていた。
しかし中学生ともなると、そんな噂があろうが、なかろうが、坊のさりげない優しさや、温かさに触れたものはいつしか坊に好意を抱くようになっていたのだ。
坊の内から滲み出る優しさや、人の良さは、遮る事など出来ず、ただただ零れていく。
それに吸い寄せられて、頬を赤らめ擦り寄る者達。
そんな奴らが俺には不快でしかなかった。
このままでは、またあの時のように誰かが坊に思いを告げ、もしも、万が一にも坊がその人物に好意を寄せたら・・・などと思うと、気が気ではなかった。
だから、俺は坊に好意を持つ人物たちに、優しさの上塗りをする事にした。
坊がさりげなく振りまいた優しさの上に、俺の偽善とも言える施しを与える。
そして、全ての目をこちらに向けさせるのだ。
元より、何故だか女性にはモテる体質をしていたので、ほんの少しばかり比重を掛けた優しさで接すれば、すぐにころりと転がってくれた。
これで、坊の周りには俺たち以外誰も居なくなる。
これで、何の心配もなくずっと、坊の傍で支え続ける事が出来る。
それが幸せで、幸せで仕方がなかった。
そして、春。
俺達3人は祓魔師になるべく、上京した。
これからはずっと寮生活を送る。
ずっと、片時も離れず坊の傍にいる事が出来る。
勉強ももちろん頑張ったので、坊と同じ特進科へと進めた。
授業はもちろん、祓魔師になるための塾でも一緒。
寮も同室なので、ほぼ1日をずっと坊と過ごせるのだ。
なんて、なんて、幸せなのだろう。
今までは流石に学校から帰れば、お互いの自宅に戻っていたので、朝になるまで坊に会いたくても会えない日だってざらにあった。
けれど、今日からは・・・・!
朝起きればそこに坊が居て、3食を共にし、部屋に帰れば坊が居る。
毎日坊の寝顔を見ることが出来、毎日お世話が出来る!
そう思えば、この学園生活が、嬉しくて、嬉しくて仕方なかった。
********
「柔造さん」
「なんや、子猫丸」
「顔・・・・緩みすぎです・・・・」
「そうか?」
「程々にしとってくださいね」
「なにが?」
「なんでもです」
そうして、俺たちの学園生活は幕を開けた。
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