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真っ白な天井を何の感慨もなく眺めながら、会長の話を頭の中で整理していく。
とても切ない話だなとは思ったが、自分だったら妻子持ちだとわかっていながら付き合おうとは思わないかもしれないと考えた。
もし吉丸に婚約者がいたとして、少し意味合いは違ってくるが自分だったらどうするだろうか。
吉丸の幸せを願い続けるなどという健気な所業はまず出来ないだろう。
だからと言って吉丸を攫う程の根性を自分が持ち合わせているとも思えない。


「1人で百面相して楽しそうだな」

「まぁそこそこ」


ふっと影が差し、会長の顔が真っ白な視界を覆う。
手元に2つのカップを持ち、「ほら」と片方の手を俺に差し出してきた。
飴色の水面が揺れ、少し遅れて落ち着く匂いが鼻を掠める。


「紅茶、飲めるか」

「好きですよ、そこそこ」


素直には受け取れない俺に苦笑しつつ、会長は再び俺の隣に静かに腰を下ろした。
ぎしっと揺れる音がしたが、手に持ったままのカップの中身は僅かに揺れただけで零れたりはしなかった。


「俺、鎌足さんの気持ちわかんねーかも」

「そうか」


俺の言葉に、会長はただ頷いて紅茶を口に含むだけだった。
俺も温かい紅茶を口に含み、息を吐いた。
温かい液体が喉を通り、胃を満たしていく。
そんな充足感を味わいつつ不快ではなかった無言の空間は、やがて紅茶を半分程飲み終わったくらいに会長によって崩された。


「俺もお前も、似ているのかもしれないな」

「………」


絶対そんな事はないと断言したかったが、俺も少々思う事があったので口は開かずただ前を見つめた。
会長はクスクスと笑いながら、カップをテーブルの上に置く。


「お互い冷めた人間だとは思わないか?俺もお前の様に頭の中がスポンジの様な奴と似ているなんてあまりよろしくないが、でも似ているのだから仕方ない」

「残念ながら俺にあってアンタにないものがある」

「吉丸か」

「それしかないだろ」


ふんっと誇るように鼻を鳴らせば、会長は呆れた様に盛大な溜め息を吐く。
暫くして「ノロケやがって」と苦笑した。


「そこが俺とお前の似て非なる所かもしれないな」

「そっくり似てたら気持ち悪いし」


残りの紅茶を一気に煽って、俺は明後日の方を向いた。
会長は何がおかしいのかクスクスと笑い続けている。





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