B
それはおそらく…というか絶対に、吉丸と俺が互いを強く意識するきっかけになったあの事なのだろう。
俺は先を促す様に、視線を会長へ戻した。
「俺には昔凄く仲の良い友達がいてな、きっと親友というのは俺にとってああいう奴を言うんだろう」
「アンタにもいるんだな、そういうの」
「お前は俺を先輩だと思っていないな」
「誰が思うか」
「敵対心剥き出しだな」
クスリ、と会長は笑い、手元の書類を机の上に置いた。
重みのない紙は机の上を数センチ滑り止まる。
俺はぼうっとそれを見ていた。
「俺の同性愛に対しての偏見は親友である鎌足によって180度覆された」
「アンタ抵抗あったんだ」
「一般常識という、あやふやな癖に意固地に主張されるものに則り生きていたからな」
「…………」
「鎌足は担任である佐野元に好意を寄せていた。俺はある日その相談を受けて苦悩した」
「一緒にどうするか悩んだってことか?」
「俺の苦悩はそうじゃない。同性愛に対して今まで一般常識下で生きてきた俺は、鎌足をどうすれば良いのかわからなかったんだ」
「何?無理矢理諦めさせようとか?」
「考えなくもなかったことだ」
「ふーん…」
会長は少し居心地悪そうに座り直し、足を組んだ。
ソファーが少し軋んで俺の体も若干揺れる。
こちらからは会長の横顔しか見えないが、眉間に皺を寄せて苦しそうだった。
そんな顔するんだ、と俺は胸中で驚きながらも平然を装う。
「佐野元は妻子持ちでな、鎌足は勿論知っていた。そしてただ想い続けられればそれで良いのだとも言っていた。俺に話したのは親友だから知っておいてもらいたいという理由だったらしい。一人で抱え込むにはアイツには重すぎたのかもしれない」
「結局アンタはどうしたんだ?」
「俺は鎌足の佐野元を好きだという気持ちをただ聞いていただけだ。相談という相談もなかったしな」
「ノロケみたいなもん?」
「一種のな。だがある日鎌足が佐野元に呼び出されたんだ。鎌足自身の素行に何の問題もないし成績も家庭内事情にも、特に目立った役員などにもなっていなかった鎌足が呼び出された時、俺は嫌な予感がした」
その時の事を思い出しているのか、苛立たしげに会長は溜め息を吐き出した。
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