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エレベーターの中は始終無言で、俺はちらちらと秋屋の背中を見ていた。
6階に着いて、605号室を探す。
「角部屋が良かったなー」
「んー」
秋屋の呟きに俺は曖昧な返事をする。
そんな俺に気遣う様に秋屋は俺の手を握って部屋の前まで歩く。
俺は黙ってそんな秋屋に倣った。
「泣いた事、後悔してる?」
「少し」
「俺は嬉しかったって言ったら、怒る?」
「……………怒るわけないだろ」
こうやって気遣う秋屋の存在を実感してるわけだし。
泣いた俺を見てざまあみろと笑っているわけでもないし。
「怒る理由が、ない」
俺の言葉に優しく微笑み、部屋の扉を開けて俺を先に促す。
後ろ手に扉を閉める秋屋を見つめて首を傾げた。
「秋屋?」
「吉丸、好きだ」
「?」
夕方の日差しが僅かに入る薄暗い部屋では、秋屋の表情まではよく見る事ができない。
振り返った俺の体を秋屋の体温が包む。
凄く安心する、手放したくない温もり。
目を閉じて俺も秋屋の背中に腕を回した。
一瞬だけ秋屋がクスリ、と笑って「幸せ」と呟いた。
俺は言葉に出さずに秋屋の背中に回した腕に力を込める事でソレに答えた。
そう、幸せだ。
誰にも邪魔されない二人だけの空間。
この空間には俺と秋屋しかいない。
お互いの事だけを考えていればいいのだ。
喧騒も体裁も気にしなくて良い。
「何で、こうやっていつも抱き締められなかったんだろう」
「色んな所に行ってただろ」
「帰って来たけどな」
お互い笑い合いながら、ゆっくりと離れた。
俺は近くにあった電気のスイッチを押して、部屋の奥へ進む。
普通のビジネスホテルなのに、何だか豪華なホテルに泊まりに来たかの様な緊張感があり、俺は居たたまれなくなりながらもベッドに豪快に座った。
「吉丸、顔ヘン」
「う」
思わぬ所をツッこまれて言葉を詰まらせた。
二人という空間に嬉しさが込み上げてくるのと同時に、うかれるなという戒めの気持ちがぶつかり合っているのだろう。
「吉丸ー!俺、先に風呂入ってくるー」
「ん?あぁ」
秋屋が寝間着をクローゼットから取り出しながらそう言った。
俺はぼんやりと部屋を見渡しながら、ポケットから携帯を取り出す。
「あれ?」
着信があった。
それも見知らぬ番号。
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