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秋屋side


吉丸が突然、部屋に帰って来てもすぐに出て行くようになった。
ジュースとか買いに行ってるのかと始めは思ったけど、一向に戻って来ない。
気になって外に出てみた。
暫く歩いていると上級生の館に通じる通路に差し掛かる。


「あ…」


そこには吉丸と、確か藤原とかいう生徒会長の姿。
楽しそうに話をしている。
吉丸は誰とでも仲良くなれるんだ、彼にはわからない自身の良いところがある。
だから俺は不安になる。
お前が優しくして良いのは俺だけだし。
俺だけがお前の優しさを全て理解できる。
これが恋人間に限らず親しい間柄では度々ある独占欲という欲望が正体だという事を、俺は勿論自覚している。
そしておそらく俺だけが、こんな気持ちを燻ぶらせている筈だ。


「格好悪ぃ」


人を散々振り回して、自ら求められる様にし向けていた自分が嫉妬をしている。
俺が、今振り回されている。
いつも当事者の筈だったんだ、吉丸相手でもそうだと思った。
だから認めたくなかった。
小さなプライドが、大きな過ちを生んだ。
何かが壊れる音がしたのに、気付かないフリをした。
気付かなければ、いつか勝手に物語が終わると思った。
ハッピーエンドかバッドエンドか。
出来るものなら前者だが、俺におとずれるのは後者だと思う。
それ相応の罪を俺は犯している。


「秋屋?」

「あ…」


俺の姿に気付いた吉丸がコチラに歩いてくる。
そんな吉丸の背を視線のみで見つめる先輩。
吉丸は、俺のだ。


「お前今日帰って来ないんじゃなかったのか?」

「ドタキャンされた」

「?…なら部屋戻るか?」

「あぁ」


俺は吉丸の腰にさり気なく腕を回す。
あの先輩を睨み付ける事は勿論忘れない。


「ちょ、秋屋何してんだよ」

「別に、寂しかっただけ」

「変な奴」


吉丸ははぁとため息をついて、先輩の方へ振り返って軽く頭でお辞儀した。
そんな奴に対してバカ丁寧に頭下げるなんてしなくて良いのに。
吉丸は再び俺を見て溜め息。
そして俺の顔を指差して言う。


「顔」

「顔?」

「すっげぇ不機嫌そうな顔」

「…………わかる?」

「当たり前だろ、お前の事いつも見てんの誰だと思ってんだよ」

「吉丸」

「じゃあその顔直せ」

「………………嫌だ」


直せる訳、ないだろ。




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