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俺を何も感じない物にしてくれよ。
嬉しい筈だったんだ、秋屋からもらえるものは。
言葉もそうだし、思い出だって、温もりだって、時には愛だって。
秋屋の嘘なんてすぐに見抜けるのに、見抜けない振りだってしてたんだ。
側にいたいから。
ただ側にいたいっていう、たった一つの願いのために我慢した。
そのたった一つが一番俺が求めていたものだったから。
「なぁ秋屋」
「ん?」
「俺がいなくなっても平気?」
俺が問いた瞬間、秋屋の手が俺の頭を抱き締めた。
若干震えてるのは気のせい?
気のせいだろうな、秋屋はそんな奴じゃないし。
「平気なわけないだろ」
その声も気のせい?
気のせいなんだろ、お前の頼りなく縋る様に抱き締める手も消え入りそうな声も。
すべて気のせい、そうじゃないなら幻。
「何で、お前までそういう事言うんだよ」
「俺まで?」
「母さんも…言ってたんだ。俺の首締めながらよく譫言の様に言って、突然正気に戻ったかと思えば俺に謝りながら自分の首を絞めようとする…好きな人がいなくなっても平気って思える奴なんかいないだろ」
「ごめん」
「お前だけはどこにも行くな」と耳元で囁かれてしまえば、俺の行く手は塞がれてしまう。
一時的に失った逃げ道。
どうしてこんなに苦しまないといけないのだろう。
このままで良いはずがないのに。
会長にも支えられて、俺はここにいる筈なのに何故口は思う様に動かない?
「吉丸、変な事考えんなよ」
「え?」
「その、俺がかわいそうな奴とか…さ」
「…俺はそんな事思ってないから。秋屋はかわいそうな奴じゃねーよ。愛されてたんだから、かわいそうな奴じゃない」
「うん」
母親からの愛情に飢えた子供。
なぁお前は俺をどんな目で見てる?
お前が俺に言った「優しくしてくれる人」に対しての自覚。
誰しもが似たように好感を覚えたりだってするだろう。
秋屋の場合、少年時代の反動で好感を持つ度合いが人より強いのかもしれない。
何であれ、秋屋は俺ではないとという限定した考えではおそらくないだろう。
故に俺以外と体の関係を持ったりしているわけだし。
「秋屋は愛が欲しいのか?」
「………何、突然」
「なんとなく」
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