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会長はそんな幼稚な俺とは対照的な言葉を俺に投げかけて、視線を外している俺に微笑んだ。
ちらりと見やれば、ソレは慈愛が籠もった視線にも感じる事が出来た。
「本当に、お前が良ければだがな」
「有難うございます」
そう言って下げた俺の頭を、会長は撫でてくれた。
その優しさに甘えた結果が今に至って、これからに続くのだろう。
会長は普段の態度がつんけんしていて誤解される事も多いが、凄く優しくて後輩思いの人情を何より重んじる人だ。
「もし会長を好きにな」
「吉丸、その言葉は何の意味を持つ?」
「…………何でも、ないです」
俺の言葉に被せて、いたって優しい声で会長は言う。
俺が絶対にその発言の終着地点へ向かわない様にと。
優しい会長はただ、諭す様に俺に言葉を投げかける。
俺もそんな会長が言わんとしている事が手に取る様にわかって、黙って口を閉ざした。
「お前は頑張っているのにな」
「…………そうだと良いですね」
「お前は耐えているのにな」
「そう見えると良いですね」
「我慢をするな、不器用な奴がする事じゃない」
会長はそう言うと、俺を抱き締めてため息を吐いた。
微かにその息が俺の耳を掠めて、思わず肩を揺らす。
「何で良い奴は幸せになれないんだろう」
そんな会長の呟きは、ここにはいない誰かを馳せて空気に溶けていく。
俺は温かい会長の腕の中で目を閉じた。
好きになった事に後悔はない。
朝は絶対にやってくる。
朝日は部屋を明るく照らして、白を基調とした会長の部屋は全体が眩しかった。
眉間に皺をよせつつ、寝ぼけ眼を擦っているとバサリと何かが床に落ちた。
「寝ちゃったのか…」
見覚えのあるソファーの上で俺は横たわっており、床には会長がかけてくれていたらしい布団が落下していた。
起き上がって周りを見渡すと、ベッドの真ん中に心地良さそうに眠っている会長を見つけて、思わず息を呑んだ。
常々美形だとは思っていたが、こうやって眠っている会長を見ると改めて美形の凄さを思い知らされる。
「よかった平凡顔で」
「そうだな」
「会長!?」
両頬に手を当ててうんうんと唸っていた俺は、会長が起きた事に気づかなかった。
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