A
渡された箱を開けば、シンプルなシルバーのブレスレット。
思わず手にとって色々な角度から見てしまう俺。
何してんだか。
「付けてやろうか」
「え?」
俺が手元で弄んでいたブレスレットを秋屋が手に取り、俺の左手首に付ける。
右手は利き手だからという配慮らしい。
「気に入った?」
「え、あ、有難う」
左手首をクルクル回しておかしな位凝視する俺は、余程おかしな行動に見えただろう。
「こっち向いて」
「ん?」
秋屋が俺の両頬に手を添えて上へ向かせる。
俺も敢えて反抗する様な事はせずに、されるがままにした。
「嬉しい?」
そう笑顔で問われてしまえば、勿論答えは決まっているだろうに。
「嬉しい」
秋屋の笑顔につられる様に微笑めば、彼も満足げに頷いてくれる。
あぁ、俺は弱い。
だから俺は耐えられないんだ。
コイツが他の人間に微笑むことも、他の人間の名を呼ぶ事も。
それはいつも放課後だ。
ずっと知らないふりをしていた。
幸せは続かない。
だから不幸があるんだ。
当たり前の原理だし、わかりきった事でもある。
それなのに納得出来ない自分がいた。
好きな相手は、放課後一緒に帰る様な事はしなくなった。
部屋に戻ってくるのも夜中な事が大半だ。
問い詰めるつもりもない。
始めから多くは望んでいなかった。
彼の上辺の嘘をわかっていながら受け入れたのは間違いなく自分だから。
自分の気持ちが相手に伝わる事だけで、それだけで充分だったのだ。
いや、充分だった筈なんだ。
「俺は、満足だった」
今は傍らで穏やかに寝息を立てる秋屋の頬を優しく撫でて、俺は自分でも信じられないくらい穏やかな笑みを浮かべた。
このままの状態が、二人にとって良いものだとは思っていない。
もしも秋屋が明日俺を振っても、俺はあっさり頷くと思う。
例え後々泣く事をしても、俺は頷く。
「さよなら、しようか」
俺の言葉に反応したわけではないだろうが、秋屋は「ん…」と声を上げる。
俺は月を仰ぎながら、クスリと笑った。
たくさんたくさん、彼を好きになった。
たくさんたくさん思い塞ぎ込んで、ぎゅうぎゅうになるまで"好き"を募らせたんだ。
意外だな、別れはあっさり来る。
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