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重すぎるその言葉に、俺は返す言葉も浮かばずただただ僅かに頷いて相槌を打つしか出来なかった。
秋屋もきっと望んでいないだろう。
「母さんは父さんと別れてからヒステリックに叫ぶ様になって、俺はそんな母さんが病院に入院してから母方のおばあちゃんの家に引き取られた。凄かったよ、母さんが入院するまで。まるで自分がサンドバッグか何かかと錯覚しそうになるんだ。でも母さんを見放す事も出来なかったから、俺はずっと側にいた。抱きしめて愛してくれた事も事実なんだ。華奢な腕で、壊れものを扱う様に慎重に抱き締めてくれた。だから俺は…見放す事は出来なかった」
秋屋は伏し目がちな眼を、真っ直ぐ俺に向けて微笑んだ。
強がってるのがまるでわかってしまう。
秋屋を好きな俺が、こんな彼を放っておけるわけがないではないか。
「吉丸?」
自然と秋屋の頭に伸びた俺の手。
どうしても、彼を泣かせたくはなかった。
彼にこんな表情をさせたままなのも、嫌だった。
何だか秋屋の親にでもなった気分だ。
「色んな事聞いてごめんな」
「俺が勝手に話しただけでしょ」
カラカラと秋屋は笑い、俺の両頬を引っ張る。
地味に痛いぞこのやろう。
「ひゃひ?(何?)」
「吉丸は優しいなーって思ってさ」
「ひゃ?(は?)」
「俺こそごめんな」
「…………」
秋屋はゆっくりと、俺の頬から手を離して言葉を紡いでいく。
頼りなげなその声に不安を覚えつつ、俺は黙って耳を傾けた。
「俺ね、きっと自分に優しくしてくれる人ならすぐ惚れちゃうんだと思う」
「………」
「もし、俺が………
吉丸を好きだって言ったら、
吉丸どうする?」
伝えなければいけない言葉があるはずなのに、俺の喉は乾ききって張り付き、混乱のため呂律は上手く回らない。
秋屋が今俺に言った言葉を反芻するしか、今の俺には手立てがなかった。
「俺は…」
吐き出した言葉が、空間に溶け込む。
秋屋が俺の言葉を待っている。
はぐらかしたりなんて、きっと出来ないんだろうな。
理由なんて、この時はどうでも良かった。
伝えようと思ったわけでもない、伝わってしまったわけでもない。
秋屋がただ俺を好きかもしれないという言葉が、今の俺に提示されているだけ。
それだけのこと。
「俺は付き合いたいと思う」
だから俺は言える。
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