B
真実を知るのが、怖いんだ。
情けなくも顔を背けた俺に、秋屋は素っ頓狂な声を上げる。
「吉丸もしかして朝帰り!?」
「は?」
思わずわざわざ背けた顔を、秋屋に戻した。
秋屋はいつの間にかすぐ側に来ていて、俺は当たり前の様にたじろぐ。
「まさか彼女できたっ!?」
「何言ってんだよ…いきなり」
「だって吉丸からいつもの吉丸の香りがしない!!」
どんな匂いだよ。
まだシャツを着ておらず、半裸の状態の俺は秋屋を黙らせるか、早く制服を着るか迷ったあと後者を優先することにした。
澄打の気持ちを踏みにじりたくはないし。
「吉丸…浮気じゃん、それ」
「何が?」
会長の言葉が延々と脳内で繰り返されて、俺は上手く感情をコントロール出来ない。
普段より言葉に棘を含ませてしまっている事に気付きながらも、止める事は出来なかった。
「俺というものがありながらっ!?」
「お前こそ俺がいんのに、何で女の子と抱き合ってキスなんてしてんだよ!!」
「…………え?」
しまった。
秋屋はキョトンとした顔のまま止まっている。
こういう方法で聞くつもりも言うつもりもなかったというのに。
「吉丸、何の事言ってんの?意味がわかんねぇんだけど」
「そ…れは…」
「何その話。どこでそんな話聞いたんだよ」
「…………」
無言になり俯く俺に、上から舌打ちが聞こえる。
秋屋は見なくてもわかるくらいに苛立っていた。
それは焦燥?
バレてしまったと焦っているのか?
やっぱりお前は…。
「吉丸、お前は何を見てんの?俺のどこ見て、何聞いて、どんな事感じて、俺に言葉をくれたの?」
「………秋、屋」
俯いた顔をもたげた俺の目の前には、傷ついた表情を隠すように浮かぶ、秋屋の精一杯の笑みだった。
泣いている。
俺が泣かせてしまった、心の中の彼を。
「………ごめん、信じてやれなくてごめん」
俺は思わずそんな秋屋の頭を抱き締めた。
むさ苦しいかもなんて余計な事は、後で考えれば良いのだ。
この寂しがり、傷付き続けている彼を安心させてやりたかった。
「吉丸、お前が信じてくれなくちゃ…俺は此処に立っていられねぇよ」
「あぁ」
「吉丸は俺の友達なんだろ」
腕の中の彼から、震えた声が紡がれる。
俺の過ちの重さが、今鮮明にのし掛かった。
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