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「お前とそんな話したら、嫌な事しか思い出せねーよ」

「お尻から溝に落ちたとか」

「お前が押したんだろうが」

「蛇が怖いと泣いたりとか」

「お前が捕まえてくるからだろうが」

「じゃあ最近の話だと、せっかく彼女と良い雰囲気だったのに彼女の兄さんに邪魔されたとか?」

「なっ!?」


口をパクパクと開閉しつつ、澄打は貴史を凝視する。
貴史は飄々とした表情のまま、わざとらしく首を傾げて挑発とも思える仕草を見せる。


「僕はなーんでも知ってるよ、巧の事ならね」

「変態か?」

「幼なじみさ」


くくっと笑えば、不機嫌な顔を丸出しにした澄打がより一層顔をしかめる。
貴史は気にすることなく笑った。


「そんな顔をするから彼女も緊張しちゃうんじゃないかな」

「余計なお世話だばーかばーか」

「……巧、いい加減にしないと僕の最高の嫌がらせ術を駆使して、君を泣かせてしまうよ?」

「う…………」


過去に澄打を泣かせた様々な嫌がらせ術が、彼の脳裏をよぎる。
澄打は若干大人しくなりながらも、貴史を睨みつけた。


「お前は俺の小姑かよ」

「幼なじみだよ」



にこり、と笑う貴史に、澄打は釈然としない様に相槌を打った。
笑っている貴史の翳りには、その時澄打は気づけずにいた。








「とーもーだちっていーいーなー」


いきなり歌い出す彼を放置して、俺は机の上を整理する。
先程暴れ回っていたために散乱した文具などが、あまりにも無残だったのだ。


「吉丸ー」

「何」

「彼女とか作んないわけー?」

「作んないよ」

「可愛いし柔らかいし温かいぞー」

「何か、卑猥に聞こえる」

「吉丸がスケベだからだろ」


じろり、と俺が睨みつけると彼はそっぽを向いて鼻歌を歌い出す。
一体どうしてこんなに上機嫌なのだろうか。


「吉丸ー」

「何」

「呼んだだけ」

「あっそ」


意味もなく、俺の名を呼んでは楽しそうに歌い出す。
こんな秋屋はただでさえ高いテンションが更に高みに行ってしまう為、なるべく放置している。


「俺にだって好きな人くらいいるんだよ」

「え?」

「ななな何でもない」

「吉丸好きな人いんの!?」


ポロリと出た言葉に、秋屋はおかしな程すごい勢いで噛みついてくる。
俺からすればまさかの事態で、あたふたと慌ててみっともない。




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