A

「そのうちな」


ぱっと表情は変わり、いつもの秋屋に戻った。
俺はかけたい言葉を飲み込み、秋屋からアルバムを奪う。


「さ、それより秋屋は中学時代の友達もいないのか?」

「…中学は…………忘れた」

「忘れるなよ、秋屋ってクラスメイトの顔とかすぐ忘れる方か?」

「つかいちいち覚えてねー」


あははと軽快に笑い飛ばしつつ、すごく不躾な事を言ってのける彼。
薄情者とは、彼のような人間を言うのだ。


「じゃあ俺の友達と友達になる事から始めるか」

「なぁ吉丸」

「んー?」


アルバムを本来あった場所に直しつつ、俺は振り返る。
秋屋は不思議そうにこちらを見つめていた。


「そこまでして、俺は吉丸以外に友達作らなくていいよ」

「っ…いや、俺がいない時とかさ」

「吉丸いなかったら一人で耐える。約束したし」

「は?ちょ………」


秋屋が自分と同じ気持ちではないことはわかっているつもりなのに、こういう台詞を聞くと動揺を隠せない自分が悔しい。
秋屋はにこりと笑って「ん?」と首を傾げた。


「そんな恥ずかしい事を言うなっ!」


近くにあった筆箱を力一杯投げつけてやる。
秋屋は生意気にも楽々とソレを避けて、俺を指さし楽しそうに笑っていた。


「ウブだな吉丸は」

「うるさい」


不意打ちに豚の貯金箱を投げてやると、見事彼の鼻頭にヒットしてしまった。
俺もそんなにキマるとは思わず、「ヤバい!」と思った瞬間、鼻頭を赤く染めた秋屋が恨ましげにこちらを見上げてくる。


「わ…悪い」

「吉丸…」


秋屋はゆらりと立ち上がり、アルバムを直し終わって椅子に腰掛けようとした俺に近づいてくる。
無表情で凄く不気味だ。
今の秋屋ならきっとホラー映画の主役の座を容易に勝ち取れるな、なんて意味のわからない事を考えてしまう俺。


「悪い子にはお仕置きだー!」

「ひぃぃいいい!」


まるで抱き付くように両手を広げて、俺に覆い被さってくる。
本来なら美味しい筈のこのシチュエーションに、俺はとっさに両手を突き出して思いっきり拒んでしまった。
しかし秋屋は、表情をより一層楽しそうに歪めて俺を襲おうとする。
雄叫びをあげながら走り逃げる俺は、色んな意味で哀れだった筈だ。


「吉丸ちゃーん、怖いでちゅかー?」

「ふっざけんなっ!」


ベッドにある自分の枕を秋屋に向けて投げる。





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