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「そんな理由で…」

「俺にとっては大きな理由だよ」


顔を背けた状態で聞く秋屋の声は、頼りなげに揺れて俺の反応を困らせる。
ちらっと秋屋の様子を盗み見ると、彼はこちらを見ずに空を見上げていた。


「そんなに寂しいのか?」

「寂しい寂しい寂しい…何回言っても足りないくらい。吉丸は男だから女々しいって笑うか?」

「笑えるわけ…ないだろ」


お前のそんな顔見たら、笑うなんて出来やしない。
ましてや、その感情を否定する事も出来ない。


「笑っても良いよ。じゃないと逆に俺がサムいし」

「そんなことない!秋屋は…ただ人といたいだけなんだろ」

「ん…」

「俺じゃ…駄目かな…そ、の…友達としてだけだけど」

「吉丸?」


思わず口をついて出た言葉に一番驚いたのは、その言葉を発した俺自身だった。
慌てた俺は、後退りながら先程の言葉を否定する。


「や、あのっ…別に他意はないし、純粋にお前の事が心配で…っ…でも友達だったら今までと変わらないよなあははは」

「吉丸」

「あぁ、今のな…」

「有難う」


フワリと秋屋の匂いがして、俺は気付けば彼の腕の中にいた。
暖かい秋屋の腕の中で、俺は目を回す。
まさかこんなアクシデントに見舞われるとは思わなかった。


「まさか吉丸がそんな友達思いだとは思わなかった…」

「え?あぁ…うん」


伝わらないのは始めからわかっていたが、いざ伝わらないとなると結構ダメージになるものだ。
しかも何だか弱いところにつけ込んだ感がある。
罪悪感を抱きながら、俺を抱き締める秋屋の腕を力なく掴んだ。


「寂しいときとかあれば俺もいるし、秋屋友達いるんだろ?」

「女の子抜かすと吉丸以外いない」

「………そっか」


まずは友達作りからだろう。
彼の場合女性関係で敵が断然多いかもしれないが、話し上手だし好かれる要素はある筈だ。


「俺吉丸のこと好きだなー」

「は!?」

「だって優しいし、本当に友達で良かった!」

「あ…うん俺も」


笑えただろうか。
秋屋への気持ちは、未だに当人に伝わらない様だ。
伝えるつもりもない。
もし伝えてしまえば、この関係はおろか恐らく望んでいない結末を迎えることは火を見るよりも明らかだ。






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あきゅろす。
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