A
朝礼などで、結構壇上に上がって色々呼びかけている人ということくらいはわかる。
名前などは知らない。
もとから興味もなかったし。
「頬は大丈夫?」
「なん…え?」
俺の頬を撫でて、その人は心配気に顔を覗き込む。
先輩の長い睫がどアップになり、思わず身を引いた。
「あれ?佐野元(サノモト)先輩?」
澄打がひょこり、と俺の背後から顔を出す。
先輩は、澄打の姿を認めてにこりと微笑んだ。
「巧くんのお友達だったんだね」
「何で佐野元先輩が吉丸に?」
「あぁ、実はね」
俺はそこで気付く。
彼は確か、秋屋に殴られたあの時俺を担いで病院まで運んでくれた人だ。
「あああああの時は有り難うございます!」
「あ、思い出した?」
ぺこりと勢いよく下げた頭を優しく両手で包まれ、顔を上げさせられる。
にこりと微笑んでいる先輩は、俺の頬に手を添えて「良かった」と呟いた。
「巧くん、吉丸くん借りて良いかな?」
「生徒会室ですか?」
「まぁね」
「吉丸が良いなら俺は別に…」
澄打がチラリと俺を見る。
俺は断る理由もなかったのであっさりとOKを出した。
「じゃあ付いてきて」
「あ、はい」
俺は先輩に腕を引かれながら、生徒会室への道を辿る。
周りの視線が痛い。
何らかの形で生徒会に携わっている先輩と、全く関わりのない俺が一緒に歩くなんて不思議な光景としか言い様がない。
「ささっ、着いたよ」
「勝手に開けるな」
「?あぁ、藤原か」
生徒会室に着き、先輩が扉を開けるとドスの利いた声が聞こえた。
俺は部屋の中を凝視する。
「何だソイツ」
「あぁ、前話したでしょ?吉丸くん」
「悲運な奴か」
「そうそう」
何か勝手に憐れみを受けている様なんですが。
俺は再び先輩に腕を引かれて、生徒会室にある大きなソファーに座らせられた。
きょとんとしたままの俺は、先輩が向かい側のソファーに座るのを黙って見ていた。
そして背後に近づく影。
「本当に悲運だな吉丸とやら」
「吉丸です」
振り返ると、藤原と呼ばれた男が仁王立ちしている。
「まさか佐野元に目を付けられるとは…」
「失礼だよ藤原」
先輩の声のトーンが少し低くなり、藤原さんは楽しそうな笑みを浮かべる。
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