H



『秋屋、好きだ』


震えた体で必死に紡いだ彼の言葉があるからこそ、今の俺はこうやって立っている。
心優と別れて、正直男も女もどうでも良くて、来るもの拒まずな俺を演じていた。
演じ続けて、ソレを本物にしようとしたのだ。
足りない脳みそが悲鳴を上げて、俺を蝕もうとも俺は演じ続けようとした。一種の贖罪だったのかもしれない。


守るものために俺は頑なになっていたのかもしれないし、守るという行為を履き違えていたのかもしれない。


彼女を傷つけたくなかったから、俺は築山の事を伏せた。
しかしごまかせなかった。
俺は失敗したのだ、『守る』という行為を。
幸せの保持を。


けれど幸せは何度だって掴める。
今俺を真正面から見つめる彼がいるように、幸せは一回きりの限定ものなんかではけしてないのだ。


だから、諦めずに格好悪くたって足掻いていこう。


目の前があるなら、先があるなら、何度だって、何十回だって、幸せは訪れる。
いや、幸せは掴める。






俺は吉丸と出会って、気付けたんだ。






<浦side>


薬木の野郎どこに行きやがった。
具合悪い生徒が来てんのに、優先できないとか本当にありえないんだが。
まさか人の携帯を盗むとは―――…。


「緊急の連絡が入ったらどうするんだよあのバカ」

「誰がバカなの?浦先生」

「あぁ、くすり――…てっめぇえええええ!!」

「え?何?俺がどうかした?そんなに会いたかった?おいでおいで俺の胸に飛び込んでおいでー」



とりあえず、胸板に跳び蹴り食らわせました(怒りのあまり)。



「―…で、何急いでんの?」

「お前が持って行った携帯は緊急用だし、具合悪い生徒待たせてるし、お前の顔を殴りたくて仕方ないしで慌ててたんだよ」

「…………浦先生、ひどい」

「どっちがだよ」


俺が冷たく言い放つと、目の前にいる長身の男、薬木はもともと若干目尻が下がり気味なのが更に下がる。
普通にしていれば優男な印象の薬木は趣味が数字を眺める事というから、毎度合コンで引かれたりするらしい。
まぁ、見かけによらずその趣味は堅苦しく聞こえてしまうのかもしれない。


「浦先生、浦先生」

「何だよ」

「俺もついていきま「来るな」


薬木が保健室にいるとロクな事がない。
生徒を看病していると邪魔ばかりする、教師の風上にも置けない奴なのだ。





[*前へ][次へ#]

9/16ページ

[戻る]


あきゅろす。
無料HPエムペ!