Black Number
狂った世界。狂った僕等。I
「フフフ…」
「…」
似ている…その言葉にピクリと眉尻を上げ、相変わらず微笑みを浮かべたままのリアスをクロは睨み上げた
―その先に見えた、狂気に染まった瞳に映る己の姿…
『似てるか……あぁ、胸糞悪い…』
「似ているのだよ…内に秘めた狂喜が…私と同じようにね。…どうだい、若き賞金稼ぎ君?」
室内はカタカタという機械と陽の生み出す破壊音で満たされているにも関わらず、リアスの細い声は、それしか音が存在していないかの様に確実にクロへと届く。
頭の中で復唱された言葉。
―…オレの中の狂喜
ユラリ…
クロの瞳が一瞬揺いだ。
双眸をゆっくりと閉じ、再度開くとまたリアスを睨み上げる。
しかし、その瞳には、先程までの光りは無く、暗く何処までも深い闇が映る…
「ああそうだな、確かに…オレにも狂喜があるのは認めるけど、あんたみたいなイカレ野郎と一緒にされたくないね」
普段から冷静で抑揚の少ないクロであるが、発せられた声色は何処までも冷たく無機質なものであった。
リアスは変化したクロの姿を、子供を見つめる母親のように微笑み眺めている。
「何が違うというのかい?…フフフ、私と君…己の欲望を満たすためならば何を犠牲にしたって構わないんじゃないかい?」
「……」
ガンガン…
『あぁ、頭が痛い―』
リアスの声はまるで侵食していくようにクロの耳に届く。
渇ききった土が降り注ぐ水を瞬く間に吸収するように、言葉は深くクロの中に浸透していった。
「ただ私は芸術家として美を追及した結果が法という規律に触れてしまっただけなのだよ…フフ、ハハハさぁ君はどうかな賞金稼ぎ君。」
―…すうっと細められた双眸、底に写るはただ暗い闇のみ…
『あぁ…うるさいねぇ』
鳴り止まぬ頭痛に顔を歪めながらリアスを睨むクロ…対して、愉しそうに微笑むリアス。
二人はどこまでも深い狂喜の闇底へと落ちて逝く…
―ドゴォォオオッ…
「…!!」
そんな狂喜空間を切り裂くように、部屋に大きな破壊音が鳴り響いた。
二つの視線が音のした方へ注がれる…瞬間、闇が支配したクロの瞳に紅い光が差し込んだ。
「…よー、ちゃん?」
―視線の先…
そこにはバラバラと崩れさる壁を背に、真っ赤に燃えたぎる炎を宿した瞳があった。
「……ふざけんな…クロとてめぇを一緒にするなよ」
心臓をえぐり取るような殺気を乗せて、陽が言葉を吐き捨てる。
先程まで沢山居たはずの人形達は跡形もなく粉砕され床に散らばり、陽の後にあったはずの壁は叩き付けた拳によって木っ端みじんに崩れ去っていた。
「ッ…ゴクリ」
向けられる殺気にリアスは思わず唾を飲む。
瞬き一つでさえ気取られ殺されるような殺気…狂喜に身を沈め正常な心など持ち合わせない己でさえも身体が小刻みに震えてしまうのだった。
「ハ、ハハ…まさか私の人形達が…こうも簡単に破られるとはね…フハハ……」
今まで浮かべていた余裕な微笑みなど面影もなく引き攣った表情を浮かべながらリアスは言葉を繋ぐ。
震える声に渇いた笑い…背中にはひんやりとした嫌な汗を流れていた。
「許さねぇ……俺のクロを…―バキィイッ
繋がれていた陽の言葉を最後まで耳にする事なく、リアスの身体が吹っ飛んだ。
潰れるような音とともに壁にたたき付けられる。
「ガハッ…!」
不自然に腹部が曲がったリアスの身体が床に落ちる前に再び拳が減り込む…
骨が砕ける音と肉が潰れる音だけが部屋を満たした。
―飛び散る深紅が陽の全てを赤に染める。―
…あらあら、完全にキレさせちゃったね…。
そんな様子を黙って見ていたクロが声には出さず呟いた。陽の全身を覆い尽くす業火のような殺気に苦笑が漏れる。
そして生きているのか既に分からないリアスを尚殴り付ける陽の背中にゆっくりと近づいて行った。
「よーちゃん、もういいよ…」
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