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Black Number
狂った世界。狂った僕等。F
瞬間ピシッっと表情を固まらせつつ、陽は渇いた笑いを浮かべた。ビクビクしつつ謝罪も述べる…

「仕方ないね、許してあげるから早く行くよ?…逃げられたら元もこもないからね。」
そんな陽の様子を一通り楽しみ満足したのか、銃を降ろし普段通りに戻ったクロがドアノブを回しながら声を出した。

「おう!行こう、クロ」

許しを貰えたことにホット息付き、陽も扉に近付く。
先程まで幼く見えていた顔を引き締め、口許しを楽しげに曲げる。
その表情は年相応…それ以上に見えなくもない。
二人は視線を合わせ頷きあった…

瞬間扉が開かれ陽が飛び出す。少し遅れる形でクロも廊下を駆ける。
―無機質な飾り気のない廊下。端に埃が溜まり蜘蛛の巣が所々張られている。割れた窓の硝子を踏み付ける度にパキッ…と小さな音が響いた…
元々この通路は美術館の従業員のみが使っていたと思われ、カメラは設置されていなかった。
二人はそこを疾風の如く駆け抜ける。目指すは美術館の最奥の管理室…男が潜んでいる可能性がもっとも高く、そして館内を一度に見通せる場所。
ところが管理室目前に二人の足が止まる。二人の行く手を阻むように積み上げられたガラクタの山。天井まで達したその山が二人の通行を許さなかったのだ
「あークロ…此れは突き破っていい?」
「……いや…突き破ったとしても、下敷きになるのが落ちだよ。全くムカつくことしてくれるねぇ…リアス」

拳を握り目の前の障害を壊していいか訪ねる陽にクロは静止を言いつける。一つでも部品が抜ければ簡単には崩れるであろう山。しかし崩れる先は部品に衝撃を与えた方向になるよう計算されていた。崩すと同時に下敷き…陽の反射神経ならば殴った瞬間に後ろへ引くのも不可能ではないが、ガラクタの山の先には何も無いとも限らない。
一筋縄では行かない賞金首を思い浮かべれば、愉快そうにクロの顔が歪んだ。

「どうやら、正面から来いってことみたいだね…いい度胸してるじゃん。その誘い乗ってあげようか。陽ちゃんそこから通路に出て特別展示場を目指すよ」

普段は陽に任せきりでトドメ以外は基本的にやる気を見せないクロであるが、相手におちょくられるのを心底嫌う性格の為、今回ばかりは火のついたようで、陽は小さく溜め息をついた。

作戦を変更し、特別展示場を目指す二人。特別展示場へは途中大ホールを横切らなくてはならず、クロは後から陽を誘導しつつ美術館のメイン通路へと一旦出た。

「ッ…なんだよコレ…!」
先に通路へ出た陽が思わず声を上げる。続くクロも辺りを見るなり眉間に深く皺を刻んだ。
―…二人が見たもの……
それは、廊下の両側に延々とディスプレイされている死体の姿。イカレた芸術家の生み出した人形達であった。朱に塗られた死体には所々花が配われている。
あるものは顔を無くし、代わりに五つの花が本当ならばパーツのあるべき場所に突き刺されている。又あるものは、バラバラの肢体を不自然に縫い付けられ、もはや人の姿をしていなかった。
―……これが、狂喜の果てにリアスが辿り着いた真実の美…


「ぜったい、イカレてる…」
そんな作品達を横目に陽は呟いた。クロも、いくら普通の死体を見慣れているとはいえ、見ていて決して気持ちいいものではないモノに、早く通路を抜けようと足を速めた。
―…ゾクリ
「…ッ!」
一瞬背後に何か感じた陽が振り返える。
そこにあるのは先程通った作品の並ぶ朱い通りだけ。
しかし確実に全身を駆け巡った悪寒…陽はハッキリと、ねっとりとした嫌な気配を感じていた。
「よーちゃん?どうかした」
「あ、いや…なんか誰かに見られてた様な…?」
「視線?」
「いや、良く分かんないんだけどさ…なんか嫌な感じがする…」
大きく顔を歪め陽が気配の主を探そうと仕切に辺りを見回す。クロも集中力を高め気配を探った。
―何処だ…クッソ…
まるで、肉食獣に狙われた獲物の様な感覚に陽は小さく舌打ちをした。

そんな二人の様子に、モニターを見ながら楽しげに口許しを歪める男が一人。
―特別展示場の直ぐ奥、最初にクロ達が目指していた管理室。人が数人入るだけのスペース以外にはモニターやサブシステム卓の他に制作途中の死体が無造作に置かれている。
「ぁあ、久しぶりのお客様だね……さぁ、私の可愛い作品達よ…」

枯れた声が男を包む闇の中に溶けて行く。
男の濁った瞳に宿るのは唯一、狂喜のみ。

―…さぁ、楽しい宴の始まりだ…

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