短編 天下 泣き顔、笑い顔…辛い時も楽しい時も。 何時も一緒にいた。 知らない表情なんてなかったと思うよ。 「なんて顔してるの?佐助」 困惑気味の表情で俺の前に立っている幼馴染。 忍びらしからぬ表情に、少し咎め気味に言葉を紡いだ。 「な…に、して」 震える言葉。 うまくは紡ぎ切れていない、その声に俺は薄く笑った。 「人を殺した」 短く、佐助の望んだ答えを言う。 常に屍が近くにあっても、忍びなんだから、当たり前だろう。 いくら血に塗れてたって、気にもとめない。 それが、当たり前だと俺は教わった。 「それが、なんで…旦那なの!?自分の主でしょっ!!!」 必死に叫ぶ。 煩いな。 もう、殺したから、どんなに騒いでも、なにもかわらないのに。 「ん〜、飽きたからかな」 足元に転がる死体に微笑しながら、言った。 ザッ 殺気と僅かな風の声。 「馬鹿だなぁ」 そう、呟き。 クナイを握りしめ、向かってくる、佐助を叩き伏せた。 後ろ手に腕を固定して、乗っかる様に固める。 顔が血に濡れ、死体と目を合わせれば、悔しそうに目を閉ざした。 「そんなんだから、俺に勝てないんだよ」 忍びが死体から目をそらしてどうする。 表向きでも感情を見せすぎてる佐助にはお似合いだけど。 今はそんな余裕ある訳ないよ。 「…っ、ねぇ飽きたって言ったよね、何に飽きたの?」 さっきは聞きもしないで、斬りかかってきたのに。 勝てないと解ると、逃げる。 かわってない…佐助は小さい頃から成長してないんだ。 もう、見逃したりしてあげないのに。 「かわらない戦況にだよ」 「そんなの、っ!」 大将と旦那が天下を統一する。 そんな叶う事すら解らない未来を、言葉にする佐助の首に、小刀を突きつけた。 「佐助の次は誰がいい?紅か蒼か…」 まだ居ただろ? この血の様に赤い、赤い、人物は。 一人消したぐらいじゃ、この戦乱はかわらない。 誰が天下をとってもおかしくない戦国時代なら…。 「俺が天下を取ってもいいだろ?」 この戦況がかわらないなら、俺が全員殺した方が早い。 仕えるべき忍びがって、古臭い事も、もうどうでもいいんだよ。 「ずっと…そう思ってたの?」 旦那と笑いあってる時も…。 そう、小さく呟く佐助に目を閉じた。 思い浮かべればいくらでも思い出す。 楽しくなかったの?と聞かれれば答えは否だ。 楽しかった…。 だから、何時消えてしまうかも知れない仮初の幸せが怖い。 いずれ…消えてしまうなら。 全てを俺が消す。 だから…。 「俺を止める方法は教えただろう…」 ゆっくりと目を開ければ、泣きそうなぐらい歪んだ表情をした佐助が居た。 ずっと、共に居た。 でも、こんな表情は初めて見たな。 そう…一瞬気を抜けば、体勢がかわった。 空を見たと思ったら、直ぐに佐助の顔になる。 首筋にクナイを押し付けられて、背中に遅い衝撃を感じた。 「っ」 「馬鹿だなぁ」 震えるクナイ。 小さく呟いて…佐助の首に小刀をあてた。 折角…佐助が俺を殺せる様にしたのにね。 「そうだね…」 ザシュ 「ぐっ」 佐助がクナイを引く。 でも、深くはない。 それでも浅くもない、血が止めどなく流れ出ていく感覚に死を確信した。 「俺様は馬鹿だよ…一緒に死んであげる事しか出来なかったからね」 力の抜けた俺の手に小刀を握らせ自分の首に持っていく。 一緒に死ぬ? 本当に馬鹿だなぁ…。 「忍びは…一人で死ぬものだろ?」 最後の力を振り絞って、小刀を捨てた。 視界が暗くなっていく、そんな中見た表情が今までで一番愛しく感じた。 あぁ、そうか…佐助を殺しきれなかったのは…好き、だったんだ。 だから、こんな茶番をしたのか。 本当、馬鹿だなぁ…最後に気付くなんて……。 馬鹿すぎて笑えるよ…。 (一緒に死ぬ…それだけは嫌だった、例え佐助が後悔しても) [次へ#] [戻る] |