古着屋

 カラランと木製の鐘が音を立て、開いたドアからクラウドが入ってきた。
 人が少ない店内に客が入れば直ぐ解り、奥から店長が顔を覗かせる。クラウドだと解るとニッコリ笑い、声を掛けながらレジに向かった。

「やあクラウド君、いらっしゃい。久し振りだね」

 クラウドは服を買う時この古着屋にしか来ないが、服を買う事も余りないので毎回久し振りだと言われる。今回は用件が違うし久し振りという訳でもないが、店長にとってクラウドへの挨拶はそれで定着しているようだ。

「今日は買いに来たんじゃなくて…この服、買って貰えますか?」

 クラウドが持参した紙袋から出した服を見て、店長は少し驚いたような顔をする。それに気付いたクラウドは赤くなり、慌てて服を紙袋に戻した。

「す、すみません!やっぱり無理ですよね、こんなボロ…」

「いや、そうじゃなくてね」

 店長の言葉はクラウドの耳に入らず、古着屋の店長さえ驚く程の服を買ってくれと言った自分に羞恥する。
 着れなくなった服を捨てようとしたら同室の奴に「クラウドの服なら誰でも買ってくれる」とよく解らない事を言われ古着屋に持ってきてみたが、やっぱり持ってくるんじゃなかったと後悔した。

「うちより、もっと高く買ってくれる店あるよ?」

「えっ?」

 それはクラウドにとって、信じられない言葉だった。

「紹介しても良いけど、クラウド君が直接行くのは心配だな。ちょっとそこの試着室で、その服に着替えてくれる?写真撮るから。他の事には使わないし、流出なんかもしないから大丈夫だよ」

 驚いて固まってる間に紙袋を持ったまま試着室に追いやられ、仕方なく服を着て出ると店長に一枚だけ写真を撮られる。また試着室で着替えると店長に紙袋ごと服を渡し、三日後にまた来るよう言われて店を出た。



 全く予想していなかった流れに不安を感じている内に三日経ち、緊張しながら再び古着屋を訪れる。いつもと変わらない笑顔の店長に迎えられ、クラウドの体から少し力が抜けた。

「あれ、ちゃんと売っといたから。写真も見せただけで処分したから、安心して」

「あ、ありがとう御座います」

「はい、これ代金ね」

 店長に渡されたのは封筒で、恐る恐る中身を確認したクラウドは思わず叫びそうになる。中に入っていたのは、クラウドが買う服の凡そ100倍もの金額だった。

「なっ、な、何でこんなに…っ!」

「その値段で売れたからだよ」

「あの服がですかっ?」

「うん。下着ならもっと高く売れるよ?」

「ええっ!?」

 驚きの余り絶句するクラウドに、店長は話が終わったと取り手を振る。呆然としたまま店を出るクラウドの耳に「また売りにきてね」と声が届いたが、クラウドが服を売りにくる事はなかった。
 しかし一番安い店なので買いにいく事はあり、店長と会話もする。けれど何となく、以前より店長との距離を取るようになった。


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