偶には
喉の渇きで目を覚ましたクラウドは、体に何かが乗っているような重みを感じて小さく呻いた。
暗闇の中ぼんやりと目が慣れるのを待つが、一向に見えるようにならない。頭に温かい風が送られている事に気付いて顔を上げると、間近にザックスの顔があり目を丸くした。
「ん…」
思わず身じろぐと圧迫感に声が漏れ、ザックスの体が半分以上自分に乗っている事に気付き、腕が震える程の力でザックスを押し遣りベッドから抜け出した。
すると肌寒さを感じ、今度は自分が何も身に纏っていない事に気付く。布団を捲りザックスを見ると上半身は裸だが下にはズボンを穿いていて、俺にも着せろよとムッとしたクラウドはその頭を軽く殴った。
「んがっ?」
ザックスが変な声を上げ、起きたかも知れないと思ったが無視して辺りを見回す。ベッドの端にパジャマの片割れが引っ掛かっているのを見付け、手に取り袖を通したクラウドの腹に逞しい腕が回された。
「っ…!」
「どこ行くの?」
あっと言う間もなく抱き寄せられ、軽い体は背中からベッドに沈んだ。
クラウドは目の前にある顔を睨み付けたが、よく見るとザックスは寝惚け眼で焦点が合っておらず、効果はないと溜め息を吐いた。
「離せよ」
「どこ行くの?」
「喉渇いたから、水飲みに…」
続く言葉はザックスの唇に吸い込まれ、最後までは言えなかった。突然の深いキスに戸惑い、ザックスの肩を押して引き剥がそうとしたクラウドの手は掴まれ、ベッドに縫い付けられてしまう。
やっと唇が解放された時には、クラウドの息はすっかり上がってしまっていた。
「喉、潤った?」
荒い呼吸を整えるクラウドに、軽いキスを降らせながらザックスが言った。クラウドは薄ら涙を浮かべた目でザックスを見詰め、その口元が笑っているのに気付き顔を顰めた。
「潤う、訳…ない、だろ」
「じゃ、もう一回」
「や、…馬鹿!」
再び顔を近付けてくるザックスから首を振って逃れ、離されない手に痛いと叫ぶ。加減を知っているザックスは本当に痛い訳ではないと解ったが、涙目のままのクラウドに睨まれ仕方なく手を離した。
「何なんだよ、もう…水くらい飲みに行かせてくれ」
「だってさー…何か、離したくねぇんだもん」
甘えるように抱き締められ、クラウドは頬が熱くなるのを感じた。どんな事でもストレートに言い、思ったまま行動するザックスに引っ込み思案なクラウドが付いて行ける筈がなく、毎日振り回されている。
自信過剰などではなく、愛されているのだと実感させられる。それはとても幸せな事だけれど照れ臭く、クラウドは逃げ出したい衝動に駆られた。
「ザックス」
「やだ。離さない」
頑として離そうとしないザックスに溜め息を吐き、そっと手を伸ばし頭を抱き締める。ザックスは窺うようにクラウドの顔を見て、悔しそうな眉間の皺と真っ赤な頬に微笑んだ。
意味もなく名前を呼び、上着の隙間から覗く白い胸に口付ける。
「ば、馬鹿…ザックス!」
ズボンを穿いていない足を撫でられ、その手が上着の裾から差し入れられそうになり焦ったクラウドがザックスの髪を引っ張った。昨夜も散々喘がされ、だからこそ喉が渇いているのに水分補給もなしに再び、となると脱水症状を起こし兼ねない。
しかしザックスの手は動きを止めず、クラウドの足には熱く固い物が押し付けられていた。
「喉渇いてるって、言ってるだろ!脱水症にする気か?」
苦し紛れにクラウドから出た言葉にザックスはピタッと止まり、顔を上げてクラウドを見詰める。その表情は飢えた獣のようで、愛情と性欲が直結しているザックスの欲情を表していた。
「解った」
クラウドがゴクッと喉を鳴らすと同時にザックスが呟き、クラウドの体を抱き上げ立ち上がる。
「わ、わっ…馬鹿、落ちる!」
「お前、さっきから馬鹿バカ言い過ぎ」
急に横抱きにされ慌ててザックスの首に腕を回すと笑われ、睨もうとしたクラウドはザックスと目が合い俯いた。赤くなった耳にキスを落とし何か囁いたザックスは、大人しくなったクラウドを抱き直しキッチンに向かう。
「水飲んだら、もう一回な」
クラウドの中ではザックスに囁かれた言葉が、何度も繰り返されている。
目が合ったザックスは、すっかり捕食者の顔になっていた。捕らえられ、食べられるのは自分だと解っているクラウドは緊張から腕を強張らせたが、ザックスが笑う震動に力が抜ける。背中を支えている手に抱き寄せられザックスの胸に耳を押し付けられると、いつもより高い体温と速い鼓動を感じた。
「…うん」
クラウドが小さく呟くのとキッチンの床に下ろされるのは略同時だったが、ザックスには聞こえていたらしい。食器棚からコップを取り出しながら鼻唄を歌い、水を入れたコップを渡しながら満面の笑みを浮かべた。
「今日のクラウドは素直?」
「素直とか、そういうんじゃ…」
「ふーん」
ザックスは笑顔でクラウドの言葉を流し、頬を赤くして水を飲むクラウドを見ている。喉を潤したクラウドがシンクにコップを置くと、再び抱き上げ濡れた唇に口付けた。
「好きだよ、クラウド」
「…知ってる」
「クラウドは言ってくれないの?」
幸せそうな笑顔のまま困ったような声を出すザックスに、蚊の鳴く程の小さな声で後で、とクラウドにしては珍しい返事をした。真っ赤な頬を親指の腹で撫でたザックスは、クラウドの額に自分のそれを合わせ至近距離で潤んだ目を見詰める。
「やっぱり、今日のクラウドは素直だ」
満足そうに言うと唇を重ねながら、ベッドルームに向かい歩き始めた。器用に舌を絡めながら、抱えたクラウドをどこにもぶつける事なく進む。
小さく震えるクラウドの両腕は、ザックスの逞しい首にしっかり縋り付いていた。
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