触れるだけで

 ベッドの上に押し倒して、無理矢理組み敷いた身体。

「や、…ザックス…?」

 いきなりそんな事をした俺に、困惑の表情を浮かべるクラウド。

「石鹸のいい匂い」

 だって、お前がそんなに無防備にしてるのが悪いんだ。
 風呂上がりの紅潮した頬、水の滴る素肌。大きめの短パンから覗く、すらっとした白く細い足。何とか恋人にはなれたけどキス止まりで欲求不満気味な俺の前で、そんな格好してるお前が悪い。

「やだっ、…何?」

 右手で左手を、左手で右手をベッドに縫い付けて首筋に顔を埋めると、クラウドが擽ったそうに肩を竦めた。少し強めに吸って、ゆっくりと離れる。

「…俺のものっていう、証」

「んん…っ」

 自分が付けた赤い跡を舌でなぞると、クラウドからくぐもった声が聞こえた。予想以上に感度はいいようだ。

「でも、まだ足りない」

 下に敷いたクラウドと目を合わせて、言う。

「本当に、俺のものにしたい。…抱かせて、クラウド」

 真剣な顔のまま、クラウドの顔をじっと見詰める。
 クラウドは、俺に対して怯えた目をしていた。

「……ぁ、ザックス…。俺、まだ…その、そういうの、は…」

「ごめん」

 拒絶の言葉を吐こうとするクラウドの声を遮って、抱き締める。

「ごめん…。お前、まだキスにも慣れてないのに…無理強い、しようとした」

 クラウドの唇を、軽くついばみながら話す。たったこれだけではっはっと呼吸を短くするクラウドが、セックスになんて耐えられるわけないじゃないか。

「で、でも…ザックスが、したいなら…」

 赤くなって何か言い掛けたクラウドを、口内に舌を侵入させて黙らせた。

「んっ…ふ、ぁ…」

 一度口内を舐め回しただけで、苦しそうにしているクラウド。
 俺は、こんな子供に、何をする気だった?

「無理して俺に合わせなくていい」

「ん…でも、ザックス…したいんじゃ、ないの…?」

「そりゃあ、したいに決まってるだろ」

 無理矢理組み敷いておいて何を言っても無駄だろうから、あっさり肯定する。

「でも…お前の気持ちもなきゃ、嫌なんだよ」

 さっきは、お前の色香に惑わされそうになったけど。
 そう付け足すと、クラウドは呆気に取られたような顔をした。無自覚な奴程、質が悪い。でも、その天然の純粋さに助けられた。

「それに…気が変わった。今は、別にしなくてもいい」

 クラウドを抱き締める腕に少し力を込めて、自らの身体を支えていた力を抜きながらゆっくりとクラウドに覆い被さった。

「何か…こうやってるだけで、幸せな気がする」

 今までの自分からは考えられないような言葉が、口を突いて出る。
 信じられない。触れてその温もりを感じるだけで、こんなにも満たされた気分になるなんて。

「ほ、ホント…に?」

「ああ」

 恐る恐る聞いてくるクラウドに優しい声音で答えてやると、緊張して強張っていた身体から力が抜けた。

「俺も、こうやってるだけで…幸せ、だよ」

 そう言って微笑みながら、俺の首に腕を回して抱き付いてくるクラウド。照れて赤くなった頬が、堪らなく愛しいと思う。けれどその首筋にある自分が勝手に付けた所有印が目に入り、つい罪悪感に見舞われる。

「…ごめん、な」

「え?」

 突然謝った俺に、クラウドは何の事かと首を傾げた。

「跡、残したの…嫌だったろ?」

「あ、と?」

「ここ。さっき付けた、キスマーク」

 俺が何をしたのか気付いていなかったらしいクラウドに苦笑しながら、首筋を撫で上げる。

「ん…」

「あ、ワリ…」

 余程感度がいいらしい。それだけでクラウドは鼻に掛かった甘い声を漏らした。

「…キス、マーク?付いてる、の?」

「あ、ああ…」

「………」

「ご、ごめん…」

 黙って俯いてしまったクラウドに、本当に申し訳なさそうな声が出る。

「…謝らなくて、いいよ」

「へ?」

 少し顔を上げたクラウドは、恥ずかしそうに頬を赤く染めて上目遣いでこっちを見ている。

「俺、ザックスのだもん…。ザックスが、付けた跡なら…嬉しい」

「………」

 予想もしていなかったクラウドの言葉に、つい絶句する。

「その、だから…せ、セックス、は…まだ…出来ない、けど…その…キス、とかは…して、欲しい…んだ」

「え?」

「だ、だから…キス、普通に…出来るように、なって…そ、それから…」

 つまりだ。クラウドが言いたいのは「物事には順序がある」という事らしい。
 つまりそれは、時間さえ掛ければクラウドの全てを俺のものに出来るという事。

「………」

 今は、触れるだけで満たされてる。それは嘘じゃない。
 けれどクラウドとただ抱き合ったまま俺は、クラウドの全てを手に入れる過程を思案していた。
 だって、折角クラウドがああ言ってくれたんだ。あれはつまり、クラウドも今はまだ心の準備が出来ていないだけで、そう遠くない未来で俺に抱かれる事を望んでいるという事。心の底から惚れ込んだ相手にそう言われて、嬉しくないわけがない。それに、善は急げとも言うだろう。

「クラウド…」

 目の前の赤い鬱血に、唇を押し当てる。それだけで小さく跳ねる身体は、情事の際にはどれだけ乱れるのだろう。
 今から、とても楽しみだ。


end

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