トモダチトキス

「本当に可愛いなぁ、クラウドは」

 いつも通りの夜。ザックスはいつものようにクラウドの頭を抱き締め、友達にしては過度なスキンシップを取っている。しかも掛けられた言葉は「可愛いなぁ」だ。

(……普通、友達にそういう事言うか?)

 とは思っても口には出せないのは、自分に今まで「友達」と呼べる相手がいなかったからだ。もしかしたら自分が知らないだけで、「友達」とはこういう事をするものなのかも知れない。ザックスが自分以外の友達に抱き付いているところなんて、見た事はないけれど。でもザックスは自分の事を「親友」と言う事もあるし、他の友達とは少し区別してるのかも知れない。
 そう思うとなんだかザックスの「特別」なような気がして、クラウドは少し嬉しくなった。

「クラウド?なんか赤いけど大丈夫か?」

「えっ?」

「ほら、顔赤いって。熱でもあるんじゃ…」

 コツンと、突然額に額をくっ付けられる。

「っ!……な、何…」

 ボッと顔が赤くなるのが、自分でも解る。けれど直ぐ近くにあるザックスの顔を見ると、益々赤くなるのを止められない。こんなに近くに他人の顔があるなんて、初めてだ。
 間近でじっと瞳を見詰められるのがどうしようもなく恥ずかしくて、ギュッと目を閉じてシャットアウトした。

「…………」

 暫くそのまま沈黙が流れると、唇に何かが触れた気がした。

「…?」

 不思議に思いゆっくり目を開けると、どこか惚けたような顔をして自分の口を自分の手で塞ぐようにして押さえているザックスが居た。なんだか少し青ざめた顔色で、それでも頬は微かに紅潮している。
 恐る恐る、といった風にクラウドに焦点を合わせようとしている目を見て、意味が解らないと首を傾げた。

「………いや…、今……のは、その…」

 しどろもどろとザックスが口を開く。泳ぐ目をなんとなく見詰めていたら、チラッと様子を窺うようにこっちを見たザックスと目が合った。

「ッ…」

「!?」

 目が合った瞬間いきなりザックスの顔が真っ赤になったのに、思わず素で驚く。

「な、何?」

「えっ、いや、だから…」

 またザックスは口をモゴモゴさせてあーだのうーだのを繰り返す。流石のクラウドも、とうとう痺れを切らした。

「だから、何なんだよ一体!」

 クラウドの言葉に観念したように、ザックスは頭を掻きながら深呼吸を一つした。

「…………、何でもない」

「…は?」

(あれだけあーだうーだ言って、何でもないって……何だよ)

 正直、心の中でそう思う。でもザックスの顔が、何だかとても情けなくて。これ以上追求したら、逆切れするんじゃないかと思うほどに追い詰められた顔をしていて。

「………」

 開いていた口から小さく溜め息を吐くと、それだけで閉じてやる。その意味を理解したザックスは、情けない顔のまま笑った。

「…悪ィな」

「……次は勘弁しないからな」

「解ってるって」

 そう言うとまたいつもの笑顔に戻って、抱き付いてくるザックス。
 何だかその体温が、鼓動の速さが。いつもと違う気がしたのは、自分の気の所為だろうか?


end

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