ありがとうの大きさ
「ザックス、セフィロス。俺、幸せだよ」
唐突にクラウドが言った言葉に、俺とセフィロスは目を丸くした。
「どうしたんだ?いきなり」
「クラウド、何かあったのか?」
普段そんな事を言わないクラウドに少なからず驚き、クラウドの髪を拭いていた手が止まる。セフィロスも、ココアを入れ掛けていた手を止めた。
「ううん、別に何もないよ」
クラウドがそう言い終わるのと略同時に動きを再開する、俺とセフィロス。
「俺がシャワー浴びて出て来たら、ザックスが髪を拭いてくれて、セフィロスがココアを入れてくれるでしょ?何か俺、凄く尽くされちゃってるなぁって思ってさ」
「………」
「俺も何か、お返ししたいな」
幼い顔で真剣に言うクラウドに、俺もセフィロスも自然と笑みが零れた。
「馬鹿、お前は何もしなくて良いの」
「な、何だよ馬鹿って!俺にだって出来る事くらいあるんだからな!」
馬鹿にするなとムキになって怒るクラウドが可愛くて、項にキスを一つ落とした。風呂上がりの、石鹸の良い匂いがして鼻先を擦り寄せる。
「いや、クラウド。ザックスが言ったのはそういう意味ではない」
猫舌のクラウドの為に温めに作ったココアを持って、セフィロスが近付いてくる。任務中には決して見せない笑顔を見せている英雄に、俺も笑みを深くした。
「お前は、居てくれるだけで良いんだ」
「…居る、だけ?」
セフィロスの言葉に首を傾げるクラウドに、二人で苦笑した。
「なあ。俺達、今、笑ってるだろ?」
「うん」
「何故笑っているか、解るか?」
「ううん、解んない」
「俺達も、幸せだからだよ」
「…そう、なの?」
「ああ、クラウド。目の前でお前が笑っている、それだけで充分幸せだ」
セフィロスと交替しながら説明したけどよく解らなかったみたいで、クラウドはまた首を傾げた。小さく唸りながら頭を捻っているクラウドが可愛くて、また頬の筋肉が緩む。
「お前には、まだ早いかもな。大人になれば解るよ」
「そうだな。…クラウド、早く飲まないとココアが冷めてしまうぞ?」
セフィロスがからかうような口調で言うと、クラウドは一気にココアを飲み干した。
「ん、ご馳走様。…二人共、いつもありがと」
言われた言葉に、俺もセフィロスも一瞬呆気に取られる。でも次の瞬間には微笑み、口を揃えて「どう致しまして」と言った。
「じゃ、子供はもう寝る時間だぞ」
「子供じゃない!」
「俺達からしたら子供なの。ほら、おやすみ」
そう言って、額にキス。
「俺達も直ぐに行くから、大人しく寝てるんだぞ」
セフィロスもそう言って、クラウドの額にキスをした。
「…うん、おやすみなさい」
クラウドは頬を微かに赤く染め、寝室に入っていった。
食器を洗い終え、リビングのソファで寛ぐセフィロスの隣に座る。
「あーあ」
「静かにしろ。クラウドが起きる」
「はいはい」
「………」
暫らくの沈黙の後、ふと口を開いた。
「幸せ、だって。…ありがと、だって」
「…ああ」
「あーもー…可愛過ぎるぜ、クラウド」
「…こっちの台詞だな、あれは」
「あ、やっぱ思った?」
そう、寧ろ礼を言うべきなのはこっちの方。俺達はいつだってあの笑顔に救われて、癒されてるんだ。クラウドが思ってるよりずっとずっと、俺達は自分を幸せだと思ってる。
「ありがと、か…」
「ちゃんと、伝えてやらなきゃな」
鈍いクラウドには、俺達の気持ちの二万分の一も伝わらないだろうけど。その天然の純粋さが、クラウドの一番良い部分な訳だし。
「ああ…明日、朝一番に伝えてやろう」
明日の、朝。ちゃんと、少しは伝えられるかな。
クラウドという存在の大きさ、愛しさを。
end
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