恐怖のメロディー

「ん…」

 夜中に目が覚めて、ベッドサイドにある時計を見た。デジタル時計の時刻は一時五十分を差している。ベッドに入ったのは確か日付が替わる少し前、まだそんなに眠ってない。
 何で目が覚めたんだ?
 不思議に思い、周りを見回したけれど特に変わったところはない。隣のベッドでは、ザックスがいつも通り煩い鼾を掻いて眠っている。

「ん?」

 ふと、気付いた。外から音楽が聞こえてくる。インターホンか電話から流れるような、子供用の小さいピアノで弾いたような音。

「………ざ…ザックス」

 途切れ途切れに大きくなったり小さくなったりする音に何だか怖くなって、隣のベッドに手を伸ばしザックスを揺さ振りながら名前を呼んだ。

「ん…クラ?どうした?」

「な、何か…外から、音楽聞こえないか?」

「音楽?」

 俺の言葉に怪訝そうな顔をして耳を澄ますザックス。
 これでこいつが聞こえないって言えば、ただの俺の気の所為になるんだ。

「ああ、何か聞こえるな」

「………」

 何て事だ。二人共に聞こえるなら、気の所為なんかじゃない。

「隣のインターホンでも壊れたか?」

「あっ…そ、そうかも。ちょっと確かめてきてよ」

「はいはい」

 仕方ないなー、とか言いながら部屋を出ていくザックス。あいつは何だかんだ言いながら俺の頼みは断れないんだって事は、もう流石に覚えた。

「ただいまー」

「あ、お帰り。どうだった?」

 俺が結果を尋ねると、ザックスは黙ったまま首を横に振った。

「え…」

「しかも、アパートの窓も全部しまってた。でも、音はするんだ。近くなったり遠くなったり…」

「な、何それ…気持ち悪いよ」

「ああ、しかも足音はしないんだ。しかも外、雨降ってるのに…」

 ザックスの話を聞いてるとますます怖くなってきて、目が潤んできた。

「ッ…あっ!」

 気付かれないように下を向いたら、逆に一滴零れてしまった。

「…泣くなよ。そんなに怖いかぁ?」

「ち、違…」

 違う、そう言い掛けた唇をザックスのそれに塞がれた。一瞬触れただけで離れていったそれ。

「じゃ、今日は俺のベッドで寝てくれよ。俺が怖いからさ」

 そう言うとザックスはベッドの上で縮こまっていた俺を抱き上げ、自分のベッドに寝かせた。

「ほら、おやすみ」

 自分もベッドに潜り込んで俺を抱き寄せ、額にキスをしてくれた。

「ん…」

 何だかそれだけで俺の心は安心して、気付いたらそのまま眠っていた。耳に入ってくる音楽も雨音も気にせずに。



 翌日。なかなか眠れなかったというザックスは三時半近くに音楽が鳴り止むまで、結局最後まで聞いていたらしい。
 そして、あれは気の所為ではなかったはずなのにやっぱり何だか妙だった。だって、昼頃門前で会った隣のセフィロスさんにその話をしたら。

「その時間なら起きていたが、音楽なんか聞こえなかったぞ」

 なんて言うんだ。

 結局何だったんだ、あれ。


end

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