逃亡の終わり
銃弾の音が止んだ後、去って行く足音を聞いて不思議に思った。
だってあいつらは返り討ちにされて。あのお人好しが自分の所に戻って来るはずだ。そう、足音は一つのはずだ。
なのに去って行ったのは数人の足音で。あのお人好しがいつまでも戻って来ない。
可笑しい。
確実にそう思って、なかなか言う事を聞かない手足に力を込めた。
「う……」
這うようにして震える足を引き摺りながら、腕に力を入れて少しずつ進む。本当にゆっくりとしか進めないけれど、視界に赤い物が映って焦った。
「ザッ…クス……?」
やっと辿り着いた先にあったのは、一番見たくなかった光景。
穴だらけになったお人好しの体が、血で出来た大きな水溜まりに倒れていた。
「ザッ…?」
よく理解出来ずにその腕に手を伸ばした。
魔晄中毒で自分の思う通りに動かなかった腕が、自然と持ち上がる。そういえば、声も自然と出るようになっていた。
「ッ!!」
触れた腕の冷たさに、体がびくっと跳ねた。
雨の所為?いや、それだけじゃない。
子供っぽくて体温も高めだったザックスが、こんなに冷たいなんて。いつも、どんな時でも笑ってたザックスが、こんな無表情で居るなんて。
「……嘘だ……」
ポツリと呟いた言葉は、けれど直ぐに雨に消されて。
「……一緒に、なんでも屋やるって…、…ったろ?」
一時間も前じゃない、トラックの上でザックスが言ってくれた言葉全てが脳裏を過る。
『ミッドガルに着いたら、お前、どうする?』
『……冗談だよ。お前を放り出したりはしないよ』
『…トモダチ、だろ?』
『なんでも屋だ、クラウド。俺達はなんでも屋をやるんだ。解るか、クラウド?』
そして、最後に聞いたザックスの言葉。
『クラウド!逃げろ!!』
彼の、最後の願い。
「………解ってる…。……解ってるよ」
逃げよう。
ザックスの形見となってしまった彼の愛刀を手に取り、ふと崖の先に目線を向けた。そこには、この五日間彼が自由を求め続けた大都市があった。
瞬間、沸き起こる衝動。
「………ぁ……っ」
涙と雨で霞む視界に入る彼の死体。その向こうには彼が求め続けた大都市ミッドガル。
「…っぁ、……あ…あっ」
もう、直ぐそこだった。直ぐそこだったのに。
彼の足手纏いになった自分、彼の命を奪った神羅に憎しみが募る。神羅を潰した後、自分も死のうかとさえ思った。
けれど、彼の最後の台詞を思い出す。
『逃げろ』
ザックスは、確かにそう言った。
それでも憎しみを抑え切れずに、震える手でバスターソードをミッドガルに向けて構え、叫んだ。
「ああああああああぁああぁぁぁあぁぁ…っ!!」
まるで、いつか潰してやるという誓いかのように。
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