この感情だけは

「シヴァ…残念ですが、貴方ではユダ殿と釣り合わないようです」

「何だって!?僕のどこがユダと釣り合わないって言うんだ、パンドラ!僕が六聖獣じゃないからか!?」

「そういう事を言っているのではありません。属性の問題というか…」

「属性なら僕が闇でユダが光、対になってるじゃないか!」

「その属性ではなく…ここ数日ユダ殿とシン殿を見ていたのですが、シン殿はしっかりしているように見えてドジっ子属性である事が判明したのです」

「ドジっ子属性…?シンの属性は風だろ?」

「ああ、属性という言い方では混乱させてしまいますね。つまり、シン殿はドジっ子なのです」

「シンが…ドジ?」

「ええ、そうです。そしてユダ殿は恐らく、ドジっ子萌え…」

「萌え?さっきから何、よく解らない事言ってるんだよ」

「パンドラ」

「うわっ、いきなり現れるな!」

「何だ、パール」

「君が見た事を話した方が、シヴァには解り易いんじゃないかい」

「そうだな…では、シヴァ」

「な、何だよ…」

「これから話す事は、私が見たユダ殿とシン殿の真の姿…最後まで、大人しく聞いて下さい」

「真の…姿…」

「あれは、四日程前の事です」



 シヴァに幸せになって欲しいと思っている私は、ユダ殿とシヴァを固く結ぶ方法はないかと考えていました。けれど良い方法が浮かばず、何か思い付かないかとユダ殿を尾行する事にしたのです。
 広場で見付けたユダ殿は寄ってくる者を躱しながら、迷いなく歩いて行きました。木陰に隠れながら追い掛けた先には泉があり、脇にある木の下でシン殿が読書をなさっていました。お二人は約束をされていたのか、ユダ殿が話し掛けるとシン殿は立ち上がり肩を並べて歩き出しました。
 小道を進むとユダ殿が以前住んでいた家があり、窓から中を見るとテーブルの上に食材がありました。料理をするのなら暫く様子を窺えると思い、窓を少しだけ開いて耳を澄ませました。一人ではつまらないので、パールも一緒に。

「あっ!」

「シン、大丈夫か!?」

「大丈夫です、少し切っただけですから…」

「見せてみろ、俺が治してやる」

「この程度の傷なら、放っておいても直ぐに治ります」

「お前が少しの間でも痛い思いをするのは、俺が嫌なんだ。さあ、手を」

「ユダ…」

「遠慮などしなくて良い。確かに便利な力だが、今の所お前にしか使ってないんだ」

「え、そうなのですか?」

「ああ、シンはよく怪我をするからな」

「もう…笑わないで下さい」

「お前が痛い思いをするのは嫌だが…癒す為だと言って、触れる事が出来る」

「あ、ユダ…っ」

「少し深いな…痛むか?」

「それ程では…」

「何度怪我をしても、痛みなど一瞬で終わらせてやる」

 このようなやり取りが何度もあり、ユダ殿がシン殿の傷を癒す事に喜びを見出しているのが伝わってきました。シヴァも器用な方ではありませんが、シン殿は器用不器用以前の問題です。
 次の日もシン殿は泉に落ちそうになったり柱にぶつかりそうになったり、小石で指を切ってユダ殿に癒して貰ったりしていました。シン殿がドジっ子なのは勿論、それに呆れもせず付き合うユダ殿はドジっ子萌えに間違いありません。



「適当な事を言うな!」

「失礼な…私が今言った事は全て事実ですよ、シヴァ」

「そうだよ、シヴァ」

「うるさい!ユダが…ユダがシンなんかと、そんなに一緒に居る訳ないだろ!」

「おや、その事ですか。ユダ殿とシン殿が特別な関係という事は、貴方も嫌と言う程ご存じでしょう?」

「ユダは、みんなに平等なんだ!誰かを特別扱いなんて…」

「皆に平等である筈のユダ殿が、明らかにシン殿だけには特別な感情を向けている」

「君もそれを解ってるから、彼を嫌うんだろう?」

「知った風な口を聞くな!」

「パールも私と一緒にユダ殿とシン殿、普段は貴方を見ているのですよ?私達は、貴方の事なら何でも知っています」

「…そういうの、地上で何て言うか知ってるか?」

「はい?」

「ストーカーって言うんだよ!もう二度と、僕に話し掛けるな!」

「……おやおや、行ってしまった」

「シヴァは短気だね」

「それを言ったら、自分はユダ殿のストーカーだろうに…本当に、可愛らしいお方だ」

「パンドラ…時々、君が解らないよ」

「幾らお前でも、私の全てを解られては困る。この気持ちは、私だけの物なのだから」

「…ふぅん」


end

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