おそろい
 "気持ちいい……"
――受け入れろ。そして、求めろ。



おそろい



「っ……!」
「あ……」
 克哉は与えられる快楽に溺れ、無意識のうちに御堂の肩に噛み付いた。

 噛まれた場所から痛みと熱が広がる。
 御堂が手で擦るが、血は出ていない。

「ごめ……なさい……」

 涎れを垂らしながら濡れた瞳で言う克哉に、御堂は腹の奥が更に熱くなった。
 謝りながら、それでも貪欲に御堂を求める克哉は、身体を重ねている今は特に淫乱さを増す。
 それは日に日に艶を帯びて、いかに互いを求めているかを実感させる。
 御堂は止まっていた律動を再開した。

「うあっ。あっ! そこ、やぁっ……!」

 思いきり最奥まで捩りこみ、克哉の最も感じる部分を絶妙の角度で擦りあげる。
 硬く尖った先端がそこを確実に捉えると、肉壁がぎゅうっと締まり、御堂にきつく絡みついて離さない。
 既にとろとろに溶けているそこは滑りも良く、狭い克哉の中を突き上げると御堂の熱い肉棒をねっとりと包み込む。

「ああっ! みど……っ……!」
「凄いな……こんなにも私のを締め付けて。君はこういう抱かれ方が好きなんだろう?」
「そんなぁ……あ……俺は……そんなつもりは……」
「嘘を言うんじゃない。現に……」

 克哉の中から肉棒を抜くと、間髪入れずに再び中へ挿入する。

「ああぁーーっ!!」

 内臓をえぐられた克哉は生理的な涙を流し身もだえた。
 耳や首まで上気した顔にじっとりと汗と涙が混じり、頬に張り付いた髪の毛が実に官能的に見える。

「痛っ……うあっ……」
「君に刻み付けてやる。私の全てを。どうやって君を抱くのかも……」
「あ……」
「私のものだ。私だけの」

 御堂は克哉の首筋に強く吸い付いた。舌も使い、同じ場所を執拗に吸い上げ、赤い痕を残す。
 Yシャツを着て見えるか見えないかのそこに付けることで、克哉が常に御堂を意識し思い出すのを承知で。

 御堂の濃厚な愛撫は続く。
 臍の前まで反り勃った克哉のペニスを、御堂は優しく扱く。
 ゆるゆると上下に手を動かし、時折先端を指の腹で弄ってやる。
 鈴口に溜まった粘液が卑猥な音を立てて滴り、御堂と克哉を濡らした。
 指を離せば、いやらしい糸が伝う。

「淫乱な身体だ。こんなにも溢れているぞ? 余程、興奮しているんだな」
「それは御堂さんがっ……」
「私が、……なんだ? ん?」
 御堂は裏筋を爪で掻きながら克哉に問う。

「言え」
「んっ……。そんな風に……、意地悪するから……じゃないですか」
 先端の膨らみを握り、揉むように根元まで下ろしていく。
 陰嚢をやんわりと揉みしだき、その形やシコリを愉しむ。

 克哉は感度が良い。それは接待という形で行っていたときから分かっていた。
 淫乱で淫靡で、全身で御堂を誘う。

 繋がっている今も克哉のアヌスはひくつき、その熱で御堂を溶かそうとしているかのように。

 不安定に、しかし確かに "繋がった" あの雨の日を御堂は今の克哉に照らし合わせた。

「克哉。覚えているか? 君が、私に初めて想いを告げた日の事……」
「え……」
「"好きでもないなら抱くな" ――君はそう言った」
「っ……はい……」
 赤い顔をして、何故今そのことを言うのか真意を掴めないといった表情の克哉を、御堂は熱い眼で見る。

「君は、どうなんだ?」
「俺……?」
「覚悟は出来ているんだろう?」
「覚、悟……。一体、なんの……」

 御堂は克哉の耳朶に唇を押し付けて言う。
「私の下で、ずっと抱かれる覚悟は……あるんだろうな」

 克哉の身体がピクンと反応し、鼻筋が触れそうなほど至近距離で視線が交わされる。
 御堂の胸の奥が、克哉への優しさと愛おしさで満ちている。

「答えを聞かせろ」
「御堂さんっ……」

 吐息雑じりの低く甘い声に、克哉は堪らないといった顔で御堂に口付けた。
「んっ……ふぅっ、ん……。あります。孝典さん……ずっと……」
 克哉は荒々しく口を割り、自らの舌を差し入れる。
 それに応えるように、御堂はねっとりと舌を絡ませ、克哉の唇を犯した。
 口内で互いの唾液が混ざる。
 貪り合う中、克哉の口から零れる唾液を御堂は指で掬い、乳首に塗りつけ、爪で弾くように愛撫する。

「んあっ! うっ……」
「これがいいんだろう? ……これだけで君は満足か?」

 克哉はかぶりを振りながら御堂に強くしがみついた。
 そして先ほど自分が付けた噛み痕に唇を押し付け、蚊が鳴くほどの声で懇願した。

「孝典さん……の全てが欲しい……」

 "好き" とか "愛" ではもう足りない。
 自身の心も身体も魂も相手に捧げ、相手の事も受け止める。
 与えられるものなら何だって構わない。

――欲しい。もっともっと、深いところまで。

 御堂もまた、克哉との時間を幸せに感じる。だからこそ、どこまでも求めてしまう。

「克哉……」
「欲しいんです、全部……。だから、俺に孝典さんを……下さい……ぅあっ!」
 煽られるように、御堂は克哉を激しく突き上げた。
 何度も何度も。克哉の奥の奥まで御堂を叩き込むように。

「克哉、……っ。私を……求めろ」
「ひっ、あぁあっ……たか……孝典……もっと、もっと……っ」

 御堂の硬いペニスが更に膨らみ、克哉の中を苦しいほど満たす。
 溢れ出る感情を漏らさないとでもいうように、克哉は御堂に縋り付き腰を振った。
 頬をすり合わせ、余すところなく重なった身体から、二人の熱と汗が湧き上がる。
 牡のニオイと獣のような息遣いが濃密な空気となって、欲望を更に刺激する。

「あっ、もうっ……いっ……」
 克哉の下肢が大きく奮え、御堂の腰を締め付ける。
 御堂はそれを振り切るように激しい抽送を繰り返し、自身も開放を求め上り詰めて行く。
「いいっ……、ああっ! はあっ。あ、あっ……!!」
「ふ……くっ……」
 眩暈がするほどの快感が全身を襲い、御堂は克哉を強く抱き締め、直腸内に濃い精を流しこんだ――






「御堂さん、用意できました」
 リビングで新聞を読んでいた御堂を呼ぶ声がして、そちらに目を向ける。
 克哉はいつものYシャツに赤いネクタイ姿。
 御堂も既にスーツに身を包んでいる。

 互いに濃厚な時間を貪った日の翌朝。
 御堂は実に楽しみにしていたことがあった。
 昨晩、克哉の首筋に残した赤い痕。
 うなじから鎖骨まで、シャツで隠れるかどうか際どい場所に付けておいた。
 克哉の性格を知った上で、敢えてそうした。

 御堂はソファーからゆっくりと立ち上がると、克哉の前に向かう。
 どうかしましたか、と首を傾げて言う克哉の首筋に、御堂のキスマークが僅かに見えた。

「ふっ……」
 満足気に御堂は目を細める。
 克哉はまだ気付いていないのだろう。それで構わない。オフィスでも、休憩中でも、外回り中にでも気付き、御堂を思い出せばいい。

「あの、御堂さん、なにか?」
「いや」
 含蓄がんちくめいた返事をした御堂に、克哉が何かを悟る。教えて下さい、と困った顔。
 その表情を見て、御堂は克哉には分からないほど、うっすらとほそく笑んだ。

「時間だ。行くぞ」
「あ、はい。えっ、御堂さん!?」

 癖になりそうなイジワルと幸福感。
(私がこんな悪知恵を働かすのは、後にも先にも克哉だけだな)

 玄関のドアを開ける手がいつもより軽く感じた。






――御堂が先に玄関へ向かって行く姿を、克哉は莞爾として見ていた。
 早くしたまえ、と御堂の声がして、
「もうっ……」
 克哉は溜め息をついた。しかしそれは温かく溢れ出る至福の声。
 幸せで顔がほころびながら、リビングを後にする。

 先ほど、御堂が自分の前に立ったときに気付いた。
 御堂の首筋に、赤い痕があった。恐らく昨夜のものだろう。
 克哉がつけたソレが、高級そうなYシャツから少し見えて、否応なしに昨日の事を思い出してしまう。
 火照る顔を手で覆い、落ち着け、落ち着け、と心の中で言い聞かせる。

「御堂さん、怒る……かな?」
 そう思いながらも、ついつい甘い幸せを噛み締めてしまう自分が居る。
 御堂の身体に、克哉の存在。
 御堂と過ごす今。そして未来。
(そういえば、さっきの御堂さん、どうしたんだろう?)
 絶対何かある。そう克哉は確信していた。車の中で訊いてみようか、と考えながら、玄関で靴を履く。

「遅い」

 クールな風情で待っていてくれる、最高の、最愛の恋人に――
おそろい*END





――与えてほしい。あなたの全てを。

2008.06.04


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