NACHI様から(Metamorphose-後編-)
GLASSES★LOVE/NACHI 様
前編後編








Metamorphose(後編)



薄暗く、妖艶な雰囲気を演出するように
狭い紅の空間に甘い果実の香りが満ちている。
存在する二人以外に人の気配も外界の音も無く
閉ざされた部屋には繰り返す呼吸と、皮の手袋の上で撥ねる鞭の音韻が漂っていた。

部屋の中央にある椅子、まるで王族の椅子のような存在感があるそれに
優雅な笑みを湛えて座る男と、その足元に獣が餌に喰らいつく格好で座り込む男。
主従関係が一目で分かる状況に、自分の置かれている立場がおかしいと
いつの間にか黒の衣装を身に纏っている姿に戸惑いながら
床に座り込んでいた佐伯はゆっくりと立ち上がり、足の先から手の先へと視線を巡らせた。

(これは…一体、俺はどうしてこんな格好に…?)

冷たく、嫌な汗が額から流れる感覚を打ち消すように、頬の筋に手を添え
佐伯は己の顔を確かめるように撫でてみた。
覚えのある骨格は間違いなく自分のものだったが、首に纏わりつく長い髪は
今まで経験のない感触。
それが、あの金色のウイッグだと思い出した瞬間、被っていた帽子ごと
頭部から剥がそうと荒々しく人工の髪を掴む。

「……っ…!」

「何をやっているんだ、オマエは」

「な…、なんだと?」

佐伯は離れないウイッグの違和感よりも、自分に向けられた声に疑問を抱いた。
悠然と長い脚を組み、見慣れた自分のスーツを着ている男…
この真紅の部屋に招き、妙な余興のテストをして欲しいと言い出したMr.Rが
これまでの口調とは異なり、不遜な声と視線を佐伯に浴びせていたのだった。

「それを食べたら愉しませてやると言っただろう、早くしろ」

「…何のつもりだ?」

ヒュ…と素早く宙を舞った鞭の先端が、佐伯の顎を捉えた。

「………っ、貴様…!」

「誰にものを言っているんだ?オマエは、俺に忠誠を誓った筈だ」

身を凍らせるような冷たい視線が佐伯を射抜き、手袋を嵌めた手首だけを動かして
顎の下に固定させた鞭を擽る様に喉仏へと下降させる。
不穏な感覚が喉から全身に駆け巡り、明らかに立場が入れ替わった事を突きつけられ
佐伯は困惑したまま、身動きも取れず言葉を詰まらせ睨み返すしか出来なかった。

きっと、視力の悪い人間が見れば、椅子に座る人物を佐伯だと思うだろう。
正体を隠すように顔を覆っていた長い髪は短く、身に付けている衣装は佐伯のスーツ。
唯一、佐伯と違うのは眼鏡のデザインと素手を覆う手袋だった。

(何故だ…?何故、俺の思うように言葉が出ない…)

余興の説明をしたMr.Rの言葉が蘇る。
自分とこの男は衣装を交換しただけで、見掛けだけの入れ替わりを…の筈だった。
なりきるだけで、気に入らなければこんな馬鹿げた事はすぐに止めると条件を出した。
なのに、目の前に座る男は、佐伯になりすます以上に佐伯を演じ
Mr.Rの姿になった佐伯は、逆らうことのできない身体に嫌悪した。

(いや、そもそも、衣装を交換した覚えは無い)

こうなった経緯を思い出そうと、さっきまで口にしていた足元に転がる果実に視線を落とす。
契約の証にと差し出された柘榴の実。
全ての原因がそこにあるのか、それとも与えたあの男にあるのか…

「まだ自分の立場というものを分かっていないようだな」

「―――ッ!」

不明瞭な視線を果実に注いでいた佐伯の喉元を弄っていた鞭が
空を裂き、肌を軽く打つ音が響いた。
ウイッグに隠れていた佐伯の頬に一筋の赤い線が浮かぶ。

「オマエは俺のなんだ?」

「………っ…」

答えなければ、もう一度鞭を振るうというRの視線が佐伯に絡みつく。

「わ…私は、貴方の下僕です……」

(俺は、何を言っている…!?)

誰かに操られているように、思ってもいない言葉が佐伯の口から零れた。
下僕という立場に当然、納得などする筈が無く
自分と酷似しているRを睨み付け素手の拳を握り締める。

「下僕と言うのなら、反抗的な視線は止めるんだな」

(抵抗できるのは視線と握った素手だけなのか…)

「……素手?」

黒いロングコートの袖から覗く、握った拳をゆっくりと開き
佐伯は自分の指先を凝視した。
帽子から髪型、服装までRのものと同じだと思っていたが
その素手だけが皮の手袋を嵌めていなかったのだった。

(…だから、何だと言うんだ。今は手袋の事よりこの状況をなんとかしなければ)

「いつまで怠けて立っている。下僕なら下僕らしく俺に何かしたらどうだ?」

「……はい…」

「愉しみたいのだろう…?せっかくの機会だ、触れさせてやる」

身勝手で傲慢なRの物言いに、自分の口調はいつもこうなのかと
虐げられる立場を味わいながら、鞭の先端で近くに寄れと促す動きに歩を進めた。
自分の意思とは別に、膝が勝手に折られ床に跪き、触れることに許可を得たRの身体…
見慣れたスーツの裾に指先を宛がう。

(こんなこと、何故俺が…)

「そうだな、こんな普通なことでは面白くないな」

「……っ?!」

佐伯の不満を読み取ったのか、Rの唇が楽しむように弧を描いた。
鞭を持っていた筈の手の中には、いつの間にか赤い縄が用意され
その用途は言わなくても判るだろうと、弛ませた縄を両手で引き
愛用の鞭のように唸らせて佐伯に見せた。

「俺に触れてもいいのは、口だけでだ。手は使うな」

「口だけ…?」

「背中を向けろ」

「は、い……」

項垂れ、素直に背中を向けた佐伯の手首を赤い縄が戒めた。
簡単には解けそうにない縄は、きつく手首の皮を締め付け、肩を軋ませる。
黒の衣装に一際映える赤が、卑猥さを醸し出していた。

「身動きが取れない分、その舌と唇でたっぷりと奉仕するんだな」

「………」

拘束された不安定な体勢で、長く束ねた髪を揺らしながら
膝を使い佐伯が近づくとRは組んでいた脚を下ろして奉仕するべき場所を
示すように左右に足を開いた。

(何故だ、何故こんなことを俺がしなくてはならない…!)

今から自分が何をしようとしているのか、Rが何をさせようとしているのか…
それは分かりきっていると、佐伯の身体が意思とは無関係に動く。
Rの足の間に位置を定め、亀のように首を伸ばしてスーツの股間へと顔を寄せる。

「いい子だ、全部その口でしろ」

着衣の乱れていないRのスーツ。
手が使えず、口だけでと命令されたのは、こういう意味だったのかと
操られるようにスラックスのファスナーを唇で探りながらRの意図を悟った。

「思ったより器用だな」

「……っ…」

鼻に掛かる長い髪を鬱陶しくさせ、舌で金具を持ち上げると小さなそれを歯で固定させた。
ゆっくりと頭を下降させながらファスナーを下ろし、薄く開いた生地を更に左右に寛がせる。
嫌悪しながらの作業は息を止めていた所為か、ひと段落させた頃には
佐伯の息が乱れ、Rを見上げる視線はこれから淫靡な行為をするものとは思えないほど
敵意に満ちていた。

「…これで終わりじゃないのは、分かっているだろう」

小莫迦にするように佐伯の被っている帽子をRは鞭で数回、軽く跳ねらせる。
その音がやけに癇に障り、下着の上から局部に歯を立ててやろうかと奥歯を噛み締めたが
反抗的な意思は不思議と掻き消され、自ら奉仕を強請る様に佐伯の舌が伸びた。

口を開けたファスナー、その下に隠れている布を何度も舌で湿らせ
眠っている欲望を目覚めさせる為か、まるで喉の渇ききった犬を連想させるように
Rの脚の間で佐伯の頭が前後に動く。

「はっ……、っ、ん…」

「もっと、その唇も使え」

徐々に熱を孕み、雄を象徴させる姿に変化していくのが佐伯の舌先に伝わる。
膨張しつつある中の肉、浮き上がるそれに舌を這わせ唇で柔らかく弾力を込めた。
自分がこんなにも従順に、男の性器へと淫らな行為をしていることが
どこか他人事のように不思議で、それでいて信じられないと
佐伯は憤慨しながら、操られたように奉仕を施すうちに黒い布に覆われた己の
全身の皮膚が粟立つのを感じた。
それは恐怖だけからではなく、佐伯の奥底に小さな…
極小さな悦びの炎が浮かび上がってきた所為なのかもしれなかった。

「……っふ、……」

「布越しからだと、じれったいだろう?」

皮の手袋がベルトの金具を外し、佐伯の口淫で育てた自身を外気へと晒した。
起立しているそれは、一瞬、自分のと酷似しているのではと佐伯は目を見張ったが
そんな事はある訳が無いと焦点を暈す。
視線を逸らすなと、鞭の先端が再び佐伯の顎を捉え、至近距離にもう一度
Rの滾る性器を見せ付けられれば、やはり他人のものに違いなかった。

(これから俺が、本当に咥えるのか…)

自由の効かない身体に、僅かに残る自尊心が危険信号を点滅させているのが分かる。
が、自覚もなく芽生えた欲望の炎が佐伯の口を開かせた。
まるで、体内から燻りだされた火の粉を口から吐き出すように……

「…っん…、」

唾液で湿らせた舌で先端を包むと、許容できるだけ口内へと滑り込ませた。
根元まで咥えるには無理があり、唇と頬の内側を使い上下に扱く。
両手が使えず、首に負担の掛かる動き故に自然と顔の角度を変えながらの
口淫になってしまい、上からその様子を眺めるRには佐伯が夢中に
舐めているように見えるのだろう。

「オマエならもっと、人並み外れた技でも披露できるんじゃないか?」

(何を根拠に…)


悪態をつけるのは心の内だけというのが腹立たしく、抵抗を示すつもりで
柔肉に歯を立てて痛みを与えてみたが、相手は萎えもせず全く動じなかった。
硬さが増すだけで、吐精の兆しも現れず佐伯の唾液だけが巡回していた。

「舐めているだけでは芸が無いと言っているのに…」

「んぐっ…!?」

「もっと美味そうに舐めてみろ」

「……っ、んんっ…」

佐伯の口腔が急に冷え、驚いた拍子に溜め込んでいた唾液を喉に流してしまった。
微かに雄の香りを含んでいるのに気づき、眉を顰める。
決して好ましい味ではない筈のものが、不思議な事に少しずつ甘さが口内に
広がってきたような気がすると、口淫を再開させた。

(なんだ、これは…?)

甘味の正体を探ろうと舌を這わせれば、先端の筋から薄っすらと滲み出してきた液が
原因だと分かった。
さっきまで、佐伯の口内で温めた肉も氷のように冷たく
まるで冷菓を舐めているような錯覚に陥った。

「…っは…ぁ…、んっ…」

「美味いか?」

「……ふ…ぅっ…」

甘い菓子に飢えている子供のように、舌を弾ませ恥液を求めた。
―――吐息と跳ねる水音が真紅の部屋に響き渡る。
男の性器を咥えているのか
冷菓を食べているのか…
佐伯自身も分からなくなり、本能の赴くまま、生き物のように長い舌が蠢いた。

「そろそろ飲ませてやる」

「は……ぁ…っ、んんっ!?」

激しい律動も見せず、予告もなしに佐伯の喉を目掛け濃厚な甘さが押し寄せた。
咽るような甘さが本来の精液独特の味に変わり、粘液が口内に溢れる。
飲み干す音が佐伯の喉から聞こえ、小さな薄笑いがRの口元から聞こえた。

「っ…っは!ぁあ……」

「こんなに零したら、服が汚れるじゃないか」

口端から滴る白濁にRの指
Metamorphose (後編)*END





2008.12.10




GLASSES★LOVEのNACHI様からMetamorphose後編を頂きました!>>前編はこちら♪
前編から眼鏡の姿をしたMr.Rが眼鏡口調でSっぷりを発揮しています。
あくまでも外見のみ入れ替わり、互いに中身は『そのままの自分』。
それでも身体が意思とは無関係に動くのは本来の性なのかそれともMr.Rから与えられる甘美な果実のせいなのか…!
そしてきまっ…きました。度肝抜かれたMr.R人外シーン。万能性器温度調整機能!しかも氷菓のような性器と謳うなど、Mr.Rをグレードアップ。Mr.Rなら、柘榴をもってすれば十分可能かと思います!
『Rの完全な片思いではなく、眼鏡だって少しはRに対してそういう気持ちもあるんだ!』とNACHI様の中のMr.R×眼鏡を垣間見ることが出来る作品ですね。
脱がされ飛ばされた手袋も、そして互いに本来の姿に戻った瞬間も、怪しい世界観はそのままに、ラストまで見事にMr.R×眼鏡でございました(平伏せし)。
NACHI様、素敵なお話を有難うございました。今後もMr.Rと共に電柱の陰から応援しております。



あきゅろす。
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