NACHI様から(本多×御堂)
GLASSES★LOVE/NACHI 様








告白の輪舞曲



一日に、何度告げればこの男は気が済むのだろう。
顔を合わせる度に同じ言葉を九官鳥のように繰り返してくる。

「御堂さん」

今の今まで仕事の話をしていたのに
携帯から聞こえる声のトーンが急に変わった。
またか…
またいつもの決まり文句が、私の耳に流れてくるのか。

「すまないが、すぐ会社に戻らなくては…失礼する」

携帯を閉じる瞬間、慌てる大きな声が漏れた。
声が聞こえなくなった携帯は、どこか寂しそうにディスプレイに通話時間だけを映す。
スーツの内側にそれを収めると足音のリズムを早めた。

早くこの場から立ち去らないと、途切れた声の続きを探してしまいそうで…

「らしくないな、まったく…」

自分を誤魔化すように咳払いをしながらMGNへと向かう。
途中で会話を遮っても、次に電話が掛かってくる時ヤツはいつもと同じだ。
気にすることは無い。
まだ片付かない業務に集中しなければと、到着した本社のビルを見上げ
纏めなければいけない書類の数々を頭の中で整理始めた。

「御堂さん…!」

「……本多…、」

驚いた。
通話を終えてから数分しか経過していないのに、何故ここに居る。
肩で呼吸を整えているところを見ると、走ってきたのだろう。
…仕事は、どうしたのだ…

「君はこれから、取引先の会社へ行かなくてはならないのでは?」

「そうです」

「なら、早く行きたまえ。時間に遅れるなど営業失格だぞ」

本多の眼を見ながら話をすると、引き込まれそうな錯覚に陥る。
それを避けるためか、私は視線を逸らし社内へ逃げ込むように急いだ。

「待ってください!」

追いかけてきた本多の声に、受付嬢がこちらへと目を向ける。
ここを何処だと思っているのだと、私はきつい眼差しで振り返った。

「打ち合わせは終わったはずだ」

人の目の前で言い争いは避けたい。
エレベーターのボタンを押し、直ぐに開いた箱の中へと身を隠すように入る。
まだ何か言いたそうな本多を残して、閉じる扉を伏せた視界で盗み見た。

あの一言が言いたくて此処まで来たとでもいうのか…

「まさかな…」

狭い空間、上昇するエレベーターの中でホールに置き去りにしてきた姿を描く。
何をそんなに必死になっているのだ。
仕事の事ならともかく、プライベートを持ち込むなんて…

目的の階に到着した知らせの軽い音が鳴り、扉が開いた。
個室のオフィスに向かおうとエレベーターを降りると
社員も疎らな廊下の奥、階段から駆け上がる足音が聞こえてきた。

「―――っ、間に合った…!」

「本多、君は…」

信じられない光景を見たかのように、私は目を見開いた。
この階まで階段を上りきり、満足そうな笑みを浮かべ私を見る本多に
かける言葉も見つからずオフィスへと急いだ。

「御堂さん!」

間一髪で、掴まる事無く私はオフィスの中に入り扉を閉じる。
慌てて施錠をし、崩れそうになる背中をノックの振動が伝わる扉で支えた。

「…御堂さん」

「帰ってくれ」

「帰りません、聞いてください!」

扉を一枚隔てた距離、触れられてもいないのに何故か温もりを感じる。
きっと、本多のあの大きい手は、この扉に添えられているのだろう…

「聞かなくても…分かっている」

「御堂さん」

「分かっている!」

本多の声で告げられる瞬間は、私も同じだと言ってしまいそうになる。
それがこのオフィスでも、どちらかの部屋でも
君に知られるのが耐えられないほどの羞恥だと、何故気づかないのだ…

静寂を取り戻した空気に、私は相手の見えない背後に視線を流した。
本多の気配は…まだ消えていない。

「御堂さん……」

鼓動が早くなるのを抑え、震えだしそうな唇に手を添える。
耳が熱い…
きっと、顔は赤面しているのだろう。

「御堂さん……」

本多…

「好きです」

私も……きだ…

「……気が済んだのなら、早く帰れ」

「俺には、まだ帰るなと聞こえますが?」

本多の自惚れは今に始まったことではない。
だが、一言いってやらないと気が済まなくなり、私は扉を開けた。

「…勤務中だぞ、いい加減にしたまえ」

「顔、赤いですよ」

私が扉を開けたことで、本多は自分が勝ち誇ったようにニンマリと笑う。
悪びれた様子も無く私を抱きしめようと腕を伸ばし…

「…30秒だけ許してやる」

「あ、この前より15秒長いですね」

「いいから、早くしろ」

根負けし悔しそうに逸らした頬が、本多のスーツに擦れる。
大きな身体に包まれれば、気が遠くなりそうなのを振り払い
訪れる口付けを待った。

「好きです」

「…もう、何度も聞いた」

「何回言っても足りません」

繰り返される告白を、本当は何度も聞きたくて
私は逃げているのかもしれない…

そんな照れ隠しを本多は気づいているのか、いないのか
彼は凝りもせず追いかけてくる。

「…そろそろ取引先に行く、時間では?」

「もう到着していますよ、MGN(ここ)に」

聞いていないぞ、そんな予定は…

そう抗議しようとした唇は、本多の熱い吐息に奪われてしまい
きつくなった抱擁に余分に与えた15秒だけ身を任せることにした。


次回からまた少し、長くなる秒針を予感しながら
終わらない告白のロンドに付き合うとしよう。
告白の輪舞曲*END





2008.09.26




GLASSES★LOVEのNACHI様から頂きました。拙宅のお題イラストから書いて下さりました!
本多の御堂への想いがストレートに伝わってきます!そして御堂もその真っ直ぐな想いを感じるからこそ、視線も合わせられないほどの姿勢になっていて。苦しいほどに込み上げる愛情。
「…30秒だけ許してやる」
「あ、この前より15秒長いですね」
「いいから、早くしろ」

15 秒 伸 び た ……ッ!!(読み手は心の中でガッツポーズですよね!)その伸びた15秒があって抱擁と唇を重ね合わせ……!
御堂のツンの中に、しっかりと本多への甘さが窺えます。
本多の想いは直球で、御堂は不器用な人間で、だからこそ本多の馬鹿正直な態度は御堂の中で物凄い大きくて大切なものになるんだろうな、と、NACHI様の文面からひしひしと感じます。
無断で15秒伸ばしたら、本多、きっと御堂に殴られるんだろうな……
NACHI様、素敵な本御SSを頂きまして有難うございました!



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