初めての気持ちと、いつもの想い。
「ヴォルフ、まだかな〜…」
眞魔国第二十七代魔王陛下――渋谷 有利は、血盟城から徒歩10分という位の小高い丘で、こちらに来てからずっと共に過ごしてきた旅の仲間――デジアナGショックを見つめていた。
「アイツ、遅れるような奴じゃないと思ってたんだけどなあー」
はぁ、とわざとらしく溜息をついて辺りをキョロキョロと、これまたわざとらしく見回す。が、顔がにやけている。
ユーリの婚約者であり、今ユーリが待っている相手、フォンビーレフェルト卿ヴォルフラムがこの顔を見たなら、開口一番に「それが一国の王である者の顔か、へなちょこっ!」と激怒しそうな顔である。
確かに、一国の王の顔、とは100歩譲っても言いがたい顔だ。
「早く来ないかなー」
愛しい者を待つ時間と言うものは、案外楽しいものだったりする。
それに今は眞魔国では初夏で、ほんのり暖かく、待ち時間が寒いなんて事も無い。
相変わらずにやけながら、Gショックをちらちらと見るユーリ。
と、ユーリの視界の端に、ひらひらと手を振り「ユーリィー!」と叫んでいる人物が映った。
―間違いない、ヴォルフだっ!
心底楽しみにして待っていた恋人が、自分に向かって走って来てくれるというそれだけの事が嬉しくて、ユーリはこれ以上無い位の笑顔でヴォルフに手を振り返した。
「ユーリ、もう来ていたのか。」
「うん。すっげ楽しみでさ。」
さすが軍人なだけある。結構なスピードで走って来たのに、ヴォルフは息ひとつ乱れていない…という事はどうでもいいんだが……。
「ってヴォルフ?!何その可愛いカッコ!」
「?『ワンピース』だが?」
「それは分かるけど!何故にワンピースっ?!」
そう、ヴォルフラムの着てきた?は半袖の淡い桃色ワンピースだった。
しかも、裾にフリル着き。
「ウェラー卿が「デートに行くならワンピースって陛下のいらっしゃった地球では決まってるんだよ《と進言してきたからだ。」
「…はあ?」
地球でのデート=ワンピース?????
そんな事は決まっていないんデスケド??
どんなデタラメ教えてるんだよ、コンラッド!
こんな可愛い格好してたらおれ、気が気じゃないってのに〜〜〜!
ユーリは内心毒づいた。(これを毒づく、とは言わない気もするが…)
―初めてのデートなんだぞ、ヴォルフが多少…いやかなり可愛くても焦ったらダメだ!かっこ悪いぞ、おれ!!
そう考えたユーリは焦りを表に出さないように、スマートにエスコートできるよう必死になりながら、「似合ってる。すげー可愛い」と、思ったままを口に出してみた。
何しろ、今時の高校生にあるまじき野球一筋!という人生を16年歩んできたものだから、デートなんて女の子とも、もちろん男ともした事無いし、思ったままを言うしかできない。
が、意外に思ったまま、のユーリの台詞は、わざと考えて言うのなんかよりも、心に響いたようで、ヴォルフは真っ赤になって「そうか…?」とだけ言った。
後には気恥ずかしい沈黙が残る。
お互い、慣れない事…というか初めての事で緊張しているのは分かるが、二人とも真っ赤になってたんじゃあ、何もはじまらない。
ユーリの方が耐え切れなくなって、「ヴォルフ、ちょっと散歩しよう」と言った。
「い、いいぞ…」
ぎこちなく、肩を並べて歩く。
この丘はコンラッドとも、ヴォルフとも、何回も来ている場所だったが、ユーリには目に映る全ての物が真新しく見えた。こんな事、おふくろの見てるドラマの主人公が思ってたなあ、とか、とにかくどうでもいい事を考えないと、緊張して何をしでかすか自分でも分からない。
何も考えられなくなって、もっっのすっごく恥ずかしい事を言ってしまうかもしれない。
と、ヴォルフがいつの間にか後ろを歩いているのに気付いて、ユーリは歩く速度を少し落とした。


それに気付いたヴォルフラムが、また真っ赤になっていた事なんて、ユーリは全く、知らない。

「な、なあヴォルフ」
「何だ、へなちょこっ」
待ち合わせた場所から、何十メートルくらい歩いただろうか。
ユーリにもヴォルフにも大分余裕が出てきた。
そこでユーリは、やっと、ずっとしようと思っていた事について話した。
「あのさー…」
「早く言え!」
「う、うん…」
ユーリは照れながら、小さな声で言った。
「その…手、…つなご?」
そう言ってヴォルフに手を差し出す。
ヴォルフは少し躊躇い、それから覚悟を決めたかのようにそっとユーリの手に自分の手を重ねた。
「し、城に着くまでだからな!もう引き返すぞっ///」
「城に着くまでこのままだな?いいんだな?」
きゅっと手に力を入れ、ヴォルフの少し小さくて、なめらかな手を握って、ユーリは聞き返した。
「な、何だ?何かいけないような事を僕は言ったか?」
「いや、ただ、人が来てもこのままでいいんだな、と思って。」
「なっ…///!」
ヴォルフの白磁の如き肌が、一瞬で朱に染まる。
「も、もう手など繋がないからな!!」
人に見られたところを想像し、余程恥ずかしかったらしく、ヴォルフは手を離してしまった。
「あっ、ごめんっ!もう意地悪しないから!手ぇ繋ごうよ、ヴォルフ〜。ごめんってば〜〜」
「ふん」
ぷいっとそっぽを向いて一人で歩き出したヴォルフに、ユーリは駆け足で追いついて、「ごめん」と繰り返す。
しばらくすると、ヴォルフラムが折れて、真っ赤になりながら「しょうがないな、へなちょこめっ!」と言ってユーリの手をきゅっと握った。
「ヴォルフ〜〜vv」
「そんなだらしない顔をするな、このへなちょこっ!」
「へなちょこ言うなあっ!おれはヴォルフの事が好きだから手を繋ぎたかったんだよ〜。それに人に見られたらおれはヴォルフはおれのモンだって、自慢できて嬉しいけど、ヴォルフが恥ずかしいかなー、と思ってたの!」
「っ///このへなちょこ!!///」
「好き」という言葉に、また真っ赤になってヴォルフは照れ隠しに何回も「へなちょこ! 」と言った。が、ユーリはそれが照れ隠しだと分かっているようで、あまりにも可愛いくて、純情な恋人に微笑んでいた。
「好き、ヴォルフ…vv」
「〜〜っ///」



真っ赤になったヴォルフラムと、にこにこと笑うユーリ。
二人はこの日、何人もの兵士を護衛につけている事を忘れていた。

星藍理音様より

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