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I SHOULD...  (柳生)
何ができるか
 
わからないけど

不安な時間は

そばにいるよ

すぐにくずれて

しまいそうな

君を一人では

帰さないよ



 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
I SHOULD...



 
 
「椿さん、お待たせしました・・・・帰りましょう」
 
 
 
 
 
貴女はたしかに泣いていた。
 
 
 
 
 
「・・・あ、比呂士!うん、帰ろっ!」
 
 
ケロッとした屈託のなさそうな笑顔が見える。
 
親友の都さんが突然転校する事になり、
 
別れの時も涙ばかりだった彼女は、まだ泣いていた。
 
 
私は冷静さや紳士さを忘れるぐらいに、胸が締め付けられた。
 
 
「あの・・・大丈夫ですか・・・?
 
もう少し落ち着いてから帰ってもいいのですよ・・・?」
 
 
私がそう言うと、椿さんはとぼけた顔をして・・・。
 
 
 
 
「ん?何のこと?あたしいつも通りだよ!」
 
 
 
 
一瞬本当に大丈夫なのではないかと思ってしまうほどにあっさりしていた。
 
 
 
だけど椿さんはすぐにまたうつむいてしまった。
 
強気でいても、人間はわかりやすいものなのだ。
 
その苦しそうな表示に私まで息がつまりそうになる。
 
 
 
 
椿さんと都さんは、よい意味で腐れ縁だった。
 
性格も真逆で、道に迷った時は1人が右をもう1人が左を選んで、
 
その意思を両者曲げずにぶつかったりするような仲だった。
 
私はいつもそんな2人を笑顔で見守っていて、
 
何より都さんといる時に見せる椿さんの心からの笑顔が大好きだった。
 
時には2人の仲の良さには恋人の私が嫉妬するほどのものもあった。
 
 
 
それほど椿さんが心を許している相手だった。
 
 
 
 
 
「見て!夕日がすっごいきれいだよ!」
 
 
無邪気に少し走って先を行く。
 
私はなんとも言えない想いになった。
 
必死に隠そうとする彼女。
 
本当は悲しくて仕方ないのに・・・。
 
私だって、きっと親友との別れとなれば悲しいに違いない。
 
それがあのペテン師だとしても。
 
 
やりきれない想いが私の心と体に重くのしかかった。
 
私にはなにができるのだろう。
 
愛しい彼女に本当の笑顔を戻すために、なにができるのだろう・・・。
 
 
 
 
気付けば彼女を抱き締めていた。
 
 
 
 
「・・・ひろ、し・・・」
 
 
私が彼女の肩あたりに回した腕を、彼女はそっと掴む。
 
 
「やだ・・・も・・・っ」
 
 
私の腕に、水滴が落ちたのがわかる。
 
 
「我慢なさらないで下さい・・・私まで辛くなってしまいます・・・」
 
 
壊れそうに小さくなっている彼女の肩を強く、強く抱き締める。
 
 
「う・・・うぅ・・・都に会いたいよぉ・・・っ」
 
 
椿さんをここまで弱らせる都さんに嫉妬していることに、かなりの罪悪感を持った。
 
 
 
 
彼女の泣き顔を自分の胸で隠すように、向きを変えてもう一度抱き締めた。
 
 
 
 
「何もできなくて・・・申し訳ありません・・・」
 
 
そう言いながら、優しく頭を撫でる。
 
すると椿さんは私の腕の中でぶんぶんと首を振って、「そんなこと、ないっ!」と言った。
 
 
「・・・都がいないのは死んじゃいたいほど悲しいけど・・・
 
比呂士がいるから大丈夫・・・」
 
 
あまりにも可愛いことを言う彼女が愛しくて仕方なくなった。
 
 
「だから、お願いだから・・・比呂士はいなくならないで・・・」
 
 
 
 
夕暮れのオレンジと、あいまいな秋の風が流れる。
 
 
 
 
「・・・絶対に、絶対にいなくなりませんよ・・・」
 
 
 
 
きっともう校舎には誰もいないであろう、静けさが2人を包む。
 
 
 
 
「ほんとに・・・?」
 
 
「当たり前です・・・例え貴女に離れてと言われても・・・
 
申し訳ないですが私は離れることができないでしょう・・・」
 
 
「あたし、比呂士に離れてなんて絶対言わない・・・!」
 
 
「それはよかった・・・ならばこれからずっと一緒ですよ・・・」
 
 
私を見上げている愛しい人は、まだ赤い目を輝かせて微笑む。
 
 
 
そして、またギュッと抱き付く。
 
 
 
「・・・あ!もう一つお願い」
 
 
「何ですか?」
 
 
「あたしより先に死なないでね・・・」
 
 
顔を埋めて、さっきと打って変わった小声で言う。
 
 
「いいでしょう・・・お前百までわしゃ九十九まで、共に白髪の生えるまで・・・」
 
 
「ん?」
 
 
「ことわざですよ。夫婦が仲良くともに長生きして暮らそう、ということです」
 
 
埋めていた顔を上げて、眉間にシワを寄せて少し考えてから・・・
 
 
「いいね、すごくいい・・・そのことわざ・・・」
 
 
 
昨日までの笑顔をまた見せてくれた。
 
 
 
「やっぱり貴女は笑顔が一番似合っていらっしゃいますよ・・・。
 
とても美しいです・・・」
 
 
そう言うと彼女は頬を真っ赤に染めて
 
 
「比呂士の言葉・・・なんか恥ずかしい・・・」と言った。
 
 
「何を言いますか、本当のことを有りの儘に伝えているだけですよ?
 
全く、貴女は本当に可愛らしい人だ・・・」
 
 
 
 
そう言って重ねた唇は、少し荒れていた。
 
 
 
 
「・・・悲しすぎてリップ塗るの忘れてた・・・ごめん比呂士・・・」
 
 
 
 
情けなさそうだが、少し嬉しそうに微笑んで謝る愛しい人。
 
 
 
 
「全部・・・貴女らしいですよ・・・椿・・・」
 
 
 
 
その微笑みをずっと見ていたい、そう強く思った日だった。


 
 
 
 
 
 
何ができるか

わからないけど

笑ってる君に

あいたくて

たった一秒また一秒

一回ずつ増えていけば

いいな...












―――END













ミュージカル『テニスの王子様』ベストアクターズシリーズ008より
馬場徹as柳生比呂士で「I SHOULD」で書いてみました☆
あれはすごくいい曲ですね…ばーちょんの歌声が素晴らしい!
初めはBLで書こうと思っていたのですが、良唯の思った方向に
進みそうになかったので、やめました。
紳士とペテン師は親友でもいいなあと思います。
それにしても、柳生が紳士らしからぬ男前ですね!
あと、一人称が「私」はやっぱりすごくむずかしい!!!
書いてて何回も挫折しましたw
でも柳生大好きです!愛は詰まってます!
お粗末様でした。

 


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あきゅろす。
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