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少年少女よ、青い春に悩め  (切原)
あたしは今、ある人にすごく好かれているらしい。

自分でそう言ってしまうと、ただの自意識過剰だろうけど。

 
 
 
 
 
少年少女よ、青い春に悩め
 

 
 
 
 
椿先輩っ」

 
「なに、赤也」

 
「今日一緒に帰りましょう!」

 
「ごめん、今日ピアノ」

 
そのある人、2年テニス部員の切原赤也は「うっそぉ!?」と声をあげた。

 
「こんなとこで嘘付くわけないでしょ。ピアノの日だから赤也とは反対方向」

 
「うっ・・・あ、じゃあ送ります!」

 
「いいよ、悪いから」

 
「俺が送りたいんスよ!」

 
「ああもう、わかった!」
 
 
「よっしゃ!じゃあ椿先輩、約束っスよ」

 
全く今日も絶好調な奴だ。
 
 
赤也は
 
「先輩、今日も愛してますよっ!」
 
なんて言いながら、チャイムが鳴り響く校舎を走って
自分のクラスに戻っていった。

 
付き合ってるわけでもないこんな関係が1年は続いている。

 
「赤也も頑張るな・・・」

 
「もー!どうにかしてよ!ジャッカル!」

 
「俺がっ!?」

 
嫌なんじゃない。

嫌なんじゃないんだ。

むしろ嬉しいし、赤也のああいう天真爛漫なところはかなりあたしの恋心にヒットしている。
 
 
 
だけど・・・

 
 
「あいつ、また愛してるとか軽く言ってったな・・・」
 
ジャッカルがつぶやく。

 
そこが問題なのだ。

軽すぎる愛の言葉は、時として疑いを招く。


 
 
 
 
―――*☆――――――
 
 
 
 
 
「素振り100回!」

 
『はいっ』

 
真田の声が響く。
部長がいなくても、王者立海は3連覇のために基礎練もぬかりない。
そんな部員を支えるのがあたしの役目だ。

そんな中、ワカメヘアーの少年が木の影でこそこそしているのが見える。

あたしはそこに近付いて、声をかける。

 
「あーかーやー!」

 
「ぅわっ!椿先輩!」

 
かすれるぐらいの小声でリアクションをとる赤也。

 
「まーた遅刻?」

 
「小テストのカンニングがバレたんスよ・・・で、怒られてたんス・・・」

 
「全く・・・なんでカンニングなんてするかなあ」

 
「あのテスト落ちたら張り出されるんスよ!?
絶対真田副部長にバレて怒られるじゃないスか!」

 
「どっちもどっちでしょ!遅刻してたら!」

 
「そうっスけど・・・」

 
しゅんとして、うつむく赤也。
 
ああもう、こいつはほんとに可愛いなあ!

 
「ほら、あたしのうしろに隠れて。さりげなくあの中に混ざりなさい」

 
「先輩・・・!」

 
目をキラキラさせてこっちを見てくる。仔犬か!

 
「やっぱ俺、先輩のこと大好きっス・・・!」

 
「コラッ!うしろに隠れろとは言ったけど、抱き着けとは言ってないっ!」

 
ギュッと苦しいぐらいに抱き締められる。

気持ちはいつだって正直で心臓は爆発寸前だった。

 
顔もきっと・・・真っ赤だ。

 
「先輩・・・俺、先輩のこと愛してます・・・!」

 
「赤也、練習・・・っ!」

 
「好きで好きで・・・」

 
「離してってば!」

 
「大好きなんです・・・」

 
何回も何回も聞いている。
 
嬉しいはずが、聞きすぎて信じられない。
 
 
その考えは異常に強くて、あたしは赤也を振り切って走り去ってしまった。

 
「・・・・・・っ」

 
結局赤也は真田にこっぴどく叱られることになってしまった。

 
 
 
 
――――――――――*☆―――
 
 
 
 
 
「切原くん」

 
「・・・柳生先輩・・・」

 
あたしが水道に赤也以外の部員のコップを洗いに来ると、
そこからでは見えない位置から
真田によって腹筋300回を言い渡された赤也と
練習試合の休憩中の柳生の会話が聞こえた。

 
「らしくないですね。
 
切原くんはいつも椿さんに頑張っているところを見せるために
 
ズルしてでもすぐにコートに来るというのに」

 
「・・・気分じゃないんス」
 
 
これは盗み聞きになるんだろうか。
 
いや、でも洗い物してるから・・・。

 
「遅刻の理由は?」

 
「小テストのカンニングがバレたんスよ」

 
椿さんはかばってくれたんじゃないんですか?
 
いつものように、うしろに隠れてと」

 
柳生はよく見てるな・・・。
 
それで紳士だなんて、世の中わかんない。

 
「何が聞きたいんスか、柳生先輩は」

 
「気分を悪くしたならすみません。
 
いや、椿さんの様子がおかしいように見えますから」

 
ドキッとした。

柳生はどれだけ人間観察をしているのだろう。

 
「・・・柳先輩がなんか言ってたんスか・・・」

 
「はい。
 
柳くんはやはりすごいですね、全てお見通しのようで。
 
椿さんの笑顔が少しひきつっているだとか声にハリがないだとか」

 
柳だったのか!

恐るべし。
 
自分でもわからい変化にそこまで反応するなんて、さすが!
 
青学のデータマンに負けず劣らずね参謀!

 
だけどあたしには、そんなことを言っていられるほど余裕はなかった。

あたしは動揺している。

自分がしてしまったことに。

赤也に抱き締められた時、たしかにあたしの心は大きく跳び跳ねた。

口から心臓が出るかと思うほど。

だけどその真裏であたしは赤也を疑った。

好きだから、あたしは簡単に気持ちを言えない。

それに対して赤也は簡単に好き、愛してるという言葉を連ねる。

 
まるで、一番必要な真剣な告白を忘れたかのように。
 
 
 
だから・・・

 
 
「柳生先輩・・・俺、椿先輩のこと、本気で好きなんスよ」

 
「見ればわかりますよ」

 
「なのに・・・椿先輩は全然俺のことを見てなくて・・・
 
見てないどころか受け入れてもくれなくて・・・」

 
「それはまた・・・世に言う鈍感というものなのでしょうか」

 
「そういうんじゃなくて・・・・・俺が好きと言えば言うほど・・・遠くなってく気がするんス」

 
「私が言うのもなんですが・・・
 
切原くんは積極的すぎるのではないでしょうか」
 
 
 
あまりにもあたしの気持ちを見透かしているような柳生の発言に、あたしは驚いた。

 
 
「人というものは、言葉を重ねれば伝わると思いがちですが・・・
 
決してそうではないと私は思います」

 
少し水道から移動して、声の方向をのぞいた。

すると柳生と目があった。
 
 
その表情は、ゆっくりと微笑んで・・・。

 
 
まさか柳生は・・・!

 
 
「何度も同じことを言えば、その言葉の価値は少しずつ薄れていきます。
 
価値が薄れると、それは意味のない言葉に聞こえてくるものなのですよ」

 
柳生は優しい口調で赤也を諭している。

赤也はあたしに気付いていなくて、まだうつむいている。

 
「本当に大切な言葉なら、一度で伝わるものです」

 
突然バッと顔を上げる赤也。あたしは反動で水道に戻った。

 
「柳生先輩・・・俺、1年のときにうちの3強につっかかって負けたことあったじゃないスか・・・」

 
「そういえばそんなこともありましたね」

 
「あのあと、一番に声かけてくれたのが・・・椿先輩だったんス」

 
そういえばあった。
赤也の目は充血していて悔しそうな表情がすごく気になったから。

 
そのとき赤也は・・・

 
「俺はそんとき悔しくて悔しくて、椿先輩が差し伸べてくれた手を・・・」

 
思いっきりはじかれたんだったな・・・。

 
「同情するならあいつらに俺を勝たせろよ!」ってすごい目で言われて。

 
「そしたら椿先輩、こう言ったんスよ」

 
"甘えてんじゃないわよ!
       あんたみたいな1年があの3強に勝てるわけないでしょ!?
               勝ちたいんならねえ、3強のしてきた努力を超えてみなさい!"

 
思えば恥ずかしい台詞だ。
 
ただのマネージャーだというのに。

 
「そんときは椿先輩のことむかついてしょうがなかったんスけど・・・
 
その日からずっと俺を気にしてくれてきた先輩のことが・・・
 
いつの間にか・・・」

 
 
赤也がそこまで言うと、柳生は立ち上がった。

 
 
「そこからは、本人に言ってあげて下さい」

 
 
あからさまな視線をあたしに送って、柳生はコートに向かった。

 
 
「柳生先輩ありがとうございました!」

 
 
赤也はそう叫んだあとすぐにコートにかけていった。
 
あたしは無意識にその場にしゃがんで、少し泣いた。
 
ちゃんとあたしから言わなきゃいけない。

せっかく柳生がわざわざしてくれたことだ。

 
 
「柳生・・・ありがとう・・・」

 
 
あたしがコートに戻ると、真田と赤也が話していた。
 
話が終わると、赤也はあたしに気付いたのかゆっくりとこっちに来る。

 
あたしは大きく息を吸った。

 
 
椿先輩・・・さっきはすんませんした・・・っ」

 
うつむきがちに言う赤也。
 
 
「俺・・・どうしてもセーブ効かなくて・・・言葉も行動も・・・全部・・・っ」

 
前を向いたりうつむいたりあたしの目を見たり見なかったりと、落ち着きがない。
 
 
 
「だから・・・こういうまじめな伝え方・・・
 
今更遅いかもしんねえけど・・・その」
 
 
 
 
あたしはすでにどもりまくっている目の前の後輩が、愛しくて仕方なくなっていた。

 
 
 
「赤也!」

 
「な、なんスか!?」

 
「あたしこそ今までごめん・・・
 
で、あたしも今更遅いかもしんないけど・・・」

 
 
そう言って、自分より少し背の高い彼の唇に
 
軽く触れるだけのキスをした。

 
 
「・・・赤也のこと、大好きだよ・・・」

 
 
目をちゃんと見つめて言うのは難しい。

あたしも真っ赤だろうけど、きっと赤也も真っ赤だろうから・・・。

 
 
椿先輩・・・!!
 
そんなことされたら・・・俺・・・!」

 
 
「え、赤也!?ちょ、んっ」
 
 
 
それは、あたしが手に持っていたコップを落としてしまうぐらいの激しいもので。

 
寸前に木の影に隠れたからいいものの、
 
場所を変えていなかったら間違いなくあたしごと真田に怒られていただろう。

 
 
 
―――――☆*――――――――――
 
 
 
 
「あっ、木の方に引き込んでいったぜぃ!」

 
「まさか私の助言だけであそこまで進むとは・・・

切原くんの積極性には目を見張るものがありますね」
 
 
「このまま10分間2人がイチャつく確率100%」

 
「いいのう・・・椿みたいないい女を赤也に取られるとは・・・不覚じゃったな、ジャッカル」

 
「だからなんで俺!?

まあ・・・不覚だったな。

けど、幸せそうだからいいんじゃねぇか?」

 
「こらそこ、何をしている!
 
たるんどる!
 
全員グランド30周だ!」

 
『はいはい・・・』

 
 
 
結局その日、あたしは赤也にされるがままになってしまって、
 
レギュラーの皆(真田以外)に
 
2人まとめてからかわれたのだった。

 
 
「幸せだからいいんスよね、椿先輩っ!」

 
「まあね!」

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
END――
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
しあわせでよかったですね^^
それにしても話の流れがバカみたいにベタだwww
 
おそまつさまでしたorz

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