冨樫作品夢
薄紅/コエンマ
「コエンマ様ー♪」
名前はやって来るといつも、話しながらワシを抱き抱えたりする。
嫌な気はしないが、時々ジョルジュが変な目で見てくるからすぐ下ろすように言う。
「あーもー可愛い。ふっくふくですねー」
そう言いながらワシのほっぺをぷにぷにとつまむ。
嫌な気はしない、むしろ嬉しいのだが、これも時々ジョルジュが変な目で見てくるからすぐ止めさせる。
名前はワシに癒されているらしい。
ワシを膝に乗せたまま眠りそうになることもしばしば。
嫌な気はしない、むしろ嬉しいのだかこれも以下略。
そんな名前にワシはまだ、あの姿を見せたことがない。
あの姿とは、人間界に出向く際の大人の姿。
見せる機会もなかった。タイミングを失ってしまった。
あれだけ好かれているこの赤ん坊の姿。どちらが偽りというわけではないが、大人の姿を見せたら、もう名前は必要以上に構ってくれなくなるかもしれない。そんな不安があった。
しかし、姿を見せる機会ができた。
今この時しかないと思った。
遠くに見つけた名前の後姿に、僅かに躊躇いながらも足は進み、自然とその名を呼んだ。
彼女は振り向き、誰だったかという顔でぽかんとしながらワシの姿を瞳に映した。
「よっ。」
「……………コエンマ…様…?」
「!そうだ」
「……へ、本当に…コエンマ様!?ぎゃー!!どうしたんですかその姿は!!」
「人間界でワシはこの姿で通ってるんだ。お前に見せるのは初めてだな…」
「へー……あのぷにぷにの子がこんなかっこよくなるんですか…!へー……
じゃあ、親戚の子にも期待していいってことかな」
名前は笑いながらそんなことを言う。子供の面倒を見るのが好きな彼女は将来保母さん希望らしい。それはいいのだが…親族の赤ん坊と比べられるこれでは姉目線に近い。
「おしゃぶりはとらないんですか」
「ああ…。とりあえずな。」
いつもは彼女がしゃがんでワシの顔を覗き込んでくるのだが、今はこちらが余裕を持って見下ろしている側。少し優越感を覚えているワシを、好奇心旺盛な瞳が見上げてくる。
ただ、彼女の今の仕草は大人に対するもので、ワシになかなか触れようとしない。それはあまりに普通で自然すぎたが、ワシにとってはなんだか違和感のある気分だ。
「…名前。」
「はい?」
「その…この姿も、赤ん坊の姿も、どちらも本当のワシだ。だから、変わらず接していいからな?」
「……」
名前は少し難しい顔をしていた。
「……無理です」
「な、何故だ」
「だって…セクハラになりませんか?」
ばれたか。赤ん坊の姿をいいことにくっついていられると思ってることが
「うぅ…そうだな。すまぬ…だがワシに下心なんてものは…」
「だってですよ?私が自分より背の高いお兄さんを、膝の上に乗せたりおさわりしてたら、流石に私変態になりますよね」
「へ?」
「あっ!だからジョルジュさん止めたほうがいいとか言ってたんだ…?中身は同じなんだもん…」
「…ああ」
ジョルジュめ余計な事を。
「…あの…日頃の私の対応…無礼でした…?」
名前は焦りと反省の顔色を向けてきた。どうやらこちらに都合の良いように解釈されているようだが…それよりも、名前お前、可愛いぞ。
「いや、ワシは嬉しかったが…お前は、この姿を見てワシを嫌いになったりせんのか?」
「いいえ?その姿もかっこよくて好きですよ。」
その言葉で溢れてくる安心と嬉しさ。癒されているのは、ワシの方だな。
「でもちょっと残念です。何だかんだ赤ちゃんと思ってましたから、一回くらい湯たんぽ兼抱き枕になってもらおうとしてたのに…」
「構わんぞ?なんならこの姿の方が暖かい範囲が広くていいだろう」
「まぁそうですけど」
「それに、逆にワシがお前を抱きしめることもできる」
「へ」
「ん」
やばい。口を滑らせた。そう思ったが、なんだかお互い照れくさいらしい。
顔が熱くなるのを感じながら笑い合う、幸せな時間。
次の日、少し落ち着かない気分でいたワシのもとに、いつものようにやって来る名前。
「コエンマ様おはよー♪」
「うむおはよう」
「…………」
「…………;」
難しい顔で見つめられる。む、無理か…やっぱり……
「…………やっぱ、可愛い!」
「へ……おわっ!」
抱き上げられるのは、いつもと同じ。
「ご無礼お許しください…たとえ中身がイケメンな殿方でも私にはこの可愛さを黙って見ていることはできません…!」
結局は変わらないこの関係。
変わったのは、自分の中に彼女への恋心を確信したことくらい。
end.
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アニメでのコエンマ様とジョルジュ早乙女のやりとりが好きなので、ジョルジュも名前だけ登場させました。
幽白ではコエンマ様が一番好きです。あの可愛さとかっこよさ、一粒で二度美味しい的な何あれ反則でしょう
11.02.19
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