食べられちゃった


僕はまだ気づいていなかったんだ、帽子が取れていたことに。


「ねぇ、その頭・・・・・・その耳って本物?」

「・・・え?」


彼女の言葉にドキンとした。そして端に転がる帽子を見つけ僕はやっと気付いたんだ。
この、狼の耳が露わになってることに。
とっさに頭を隠してみたけれどももう遅い、だって彼女はこの耳を見てしまったから。


「ねぇ、それ本物なの?」

「・・・・・・そうだよ、僕は狼なんだ。」

「わたし、初めて見たわ。」

「僕らは普段、自分たちの村から出ないからね。」

「へぇ、村があるのね。」

「うん、だから・・・知ってしまった君をこのまま返すわけにはいかないんだ。」


そう、僕の秘密を知ってしまった人をこのまま返すわけにはいかない・・・。
そうしないと、僕らの村の平和はなくなってしまうから。


「あら、わたしは人に言わないわよ?」

「それを信じることなんて、今の僕には出来ないんだよ。」

「そう、じゃあわたしをどうするのかしら?」

「そうだね、僕は狼だから、食べちゃうよ。」


僕の言葉に動けくなったのか、彼女は僕が近づいて行っても座ったまま動かない。
そして彼女に近づき、押し倒すように彼女の上に跨った。普段は隠してある牙を出して。


「ごめんね、僕が声をかけなければよかったんだよね。」

「ふふ、そうしたらこの実は取れなかったじゃない。」

「でも、ここで君は僕に食べられちゃう。」


そして彼女に食らいつこうとした。
だけど僕の視界は反転し、目の前の彼女の顔は変わらないけれどその先の景色が緑から青に変わった。


「逆にわたしに食べられる覚悟があるならば、かかってきなさい?」

「・・・えっ?!」

「ふふ、狼さんはどんな味かな?」


僕の顔は一気に真っ青になっただろう。
まさか自分が食われる立場になるなんて思いもしなかったのだから。


「いただきます。」


彼女はそう言うと僕へと顔を近づけてきた。
思わずぎゅっと目を閉じれば、唇に何かが触れた。


「ごちそうさま?」


目を開けた僕が見たものは、起き上った彼女のニヤリとした顔だった。


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