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01



まただ。もうこれで何度目なんだろう。もはや数えてもいない。



夕方の教室に二人の男女。一人はわたしの彼氏である景吾で、もう一人は知らない女の子。

次第に景吾の首に纏わり付く女の腕。景吾はそれを払うこともせず好きにさせている。

これを俗に浮気現場、というのだろうか。



「ねぇ、彼女とは別れてくれたの……?」

「…………」



甘ったるい猫撫で声の女に対して何も言わない景吾。

ああもう涙も枯れてしまった。付き合っていた当初は夜な夜な思い出しては涙で枕を濡らす日もあったが、今となってはもう慣れてしまった。慣れとは怖いものだ。

その場を離れて校門で景吾を待つ。どれほど時間が経ったんだろう。辺りはすっかり暗くなってしまった。



「悪い、待たせたな」

「……ううん」

「乗るか?送ってくぜ」



あれから部活にいって来たのか彼の肩にはテニスバックがあり、髪が微かに濡れている。

車通学の景吾は黒塗りの高級車で来る。わたしも何回か乗せてもらった。



「ううん、大丈夫」

「変な遠慮すんじゃねぇよ」



景吾はわたしの肩に手を回して車までエスコートしようとするが、わたしはやんわりと押し返して断った。



「………ねぇ、景吾…」

「なんだ?」



手が、声が、震える。
心臓の鼓動が頭にまで響いて表情が強張る。

でもわたしは言うって決めたんだ。わたしのすべてをかけてでも。

震える手を強く握って顔を上げて景吾の目を見て反らさずに……言った。



「わたしと、別れてください」



景吾は一瞬驚いた顔をしたけどすぐに優しい笑みを浮かべた。



「何言ってんだよ、なまえ。冗談だろ?」

「冗談なんかじゃない、本気よ」



わたしが本気だとわかると景吾の表情は一変して険しいものになった。



「…理由は」

「………別に理由なんて……ただ景吾に飽きただけよ。他に好きな人が出来たの…」


……嘘つき
でもこうでもしないと、嫌な女にならないと離れられないから…

これから先ずっとあんなことが続くなんてわたしは堪えられない……


………もうわたしを自由にして――…



シュルッ



「……お願い、別れて……」



言葉と共に差し出したネクタイ。
それには個人別に名前が刺繍されていて、以前わたしが付き合う記念に景吾と交換しようと言い、交換したものだ。
だから今わたしが持っているのは元々景吾のもの。

思い出なんていらない、楽しかったことはもう遠くて思い出せない。



「………いらねぇ」

「…え?」

「いらねぇって言ったんだ」

「…な…んで…?」

「ハッ、女にやったやつなんて付けれるかよ。持って帰るなり捨てるなりすればいい」

「……!」



わたしのなかにある何かが崩れ落ちる音がした。
やはり景吾にとってわたしはその程度の意識しかなかったのだ……
目から涙が零れそうになり、わたしはとっさに下を向いた。

手からネクタイが落ちるが気にしない。



「……今まで……ありがと………さよなら……」

「……ああ」


ようやく私たちの関係は終わりを告げた。
わたしはスッ、と景吾の横を通りぬける。

いつの間にか降り出した雨はひどくなるばかり。だけどわたしは傘もささず、目から流れる涙を拭うこともせず、ただただ走った。






さようなら、愛しい人





(この想いが雨と一緒に流れてしまえばいいのに)









090730



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